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58、第3王女は囚人2人を連れ出す【ウィルヘルミナ視点】
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◇ ◇ ◇
地下牢の一角、他の囚人たちから離されて入れられている人物に近づくと、むわっ……と鼻が曲がりそうな異臭に襲われた。
「なんで……なんでよ。
なんで私がこんな目に……。
私のドレスと宝石は、どこ……」
虚ろな目で、鉄格子を握りながら言うのは、別人のように痩せた第2王女イルネアだった。
「夜会に出るのよ……。
ダンスして、私の美しさを貴族たちに賞賛させて、クロノス殿下に見初められて恋に落ちるの。
王女なんだから、私……」
ただでさえ囚人用で粗末なものだった衣服は、牢に入った当初から彼女が暴れていたせいか、ひどくボロボロだった。
私が近づいてきても、気づかない。
囚人としての粗末な食事では、身体に全然力が入らないようだ。
「姉様」
後ろで臭いに顔をしかめながらついてきた牢番に持たせていた、適温の湯が入ったブリキと木の桶を私は手に取る。
牢番が鉄格子を開け、私は桶と、手頃な大きさのリネン、それからもう一人の牢番に持たせていたバスケットを檻の中に入れ、再び鍵をかけた。
「……ウィルヘルミナ?」
「姉様。そこのバスケットには食べ物と、着替えが入っているわ。
身体を拭いて清めて、着替えて、とりあえず持ってきたものを食べて」
「…………身体を拭くって、どうやるの?」
「やったことないの?」
「わからないわよ。あなた、やりなさい」
…………わからないのはともかく。
なんで自分の状況も省みず、すぐこういう物言いできるんだろう。
そういう育てられ方をしたのはわかるけど、それにしたって頭が悪すぎる。
(いえ…………わざと駄目にするように育てられたのね)
国王と王妃の最大の過ちは、愛人の産んだ子をすべて王子王女にしながら、ダンテス兄様とアルヴィナ姉様にしか王族として必要な……いや、人として十分な教育を与えなかったことだ。
その2人以外は、完全に政略結婚の道具として都合の良い、知恵の回らない馬鹿な姫君にしたかったのだろう。
見た目は華やかで美しく、それでいて嫁いだ先では適度に相手の国の足を引っ張ってくれるように。
(それじゃ国の恥になる、っていう考えはなかったのね……)
「私はしないわ。やり方は外から教えるから姉様が自分でやるのよ。それが嫌なら、男の牢番にやらせるから」
そう言うと、イルネア姉様はさすがに少し怯んだ顔をする。
私は牢番たちに目で合図して、下がらせた。
……それからが一苦労だった。
「まずはリネンを湯に浸して……搾るのよ。何してんの。布の上と下を手で持って、こう、捻るの。ちょっと!投げないの!! 身体拭かないと姉様臭いままよ? 着替えもできないわよ!? ほら、いいから最初からしなさい、だからっ……」
「そうよ。それで服を脱ぐの。待って、服の脱ぎ方わかるわよね? え、なに『人生最大の屈辱』って。泣きべそかかないでよ。私に当たり散らしてもいまの状況変わらないのよ。お腹空いてるんでしょ」
「そのままの格好で侍女たちの前に姿晒すよりいいでしょ?
駄々こねてないで、自分にとってマシな道を選びなさいよ。
ほら、身体拭いて…………」
◇ ◇ ◇
「わたしっ、そんな馬鹿じゃないわ……っ。お兄さまの失脚を狙ったのはほんと、だけどっ」
「わかったから、さっさと身体を拭きなさい?」
イルネア姉様とわりと近い状態になっていたエルミナにも同じ様に、自分で身体を拭かせて着替えさせて、食事を摂らせた頃にはすっかり夜も更けていた。
翌朝。
まだ臭いは取れないけど格好は少しマシになった2人を改めて牢から出させ、久しぶりの風呂に入れさせる。
臭いがそのままじゃ、さすがに周りの人間たちにもキツいからだ。
食事もまた摂らせたせいか、少し精神的にも身体的にも回復したようだ。
イルネア姉様は私をにらみつけ罵倒してきたし、エルミナはあざとく私に媚びだした。
さらなる着替えを終えた2人を一室に連れてこさせる。
これから私は、兄様の名代で伝えなければならないことがあるのだ。
「何よ、この服趣味の悪い……私のドレス持ってくるぐらいの気は利かないの?」
部屋に入って開口一番そう言ったのはイルネア姉様。
「ありがとうございますウィルヘルミナお姉様っ。牢から出してくださったということはお姉様が私の無実を晴らしてくださるんですわよねっ」
今さら媚び媚びに、しなをつくって見せるエルミナ。
────私は深呼吸し、心を落ち着けてから口を開く。
「まず、イルネア姉様。
元帥と、軍関係者の多くが捕らえられ、取り調べを受けるなかで、姉様がアルヴィナ姉様の暗殺未遂に関与してはいなかったという証言はとれたわ。
管理ができていなかったという点での責任は問われるけれど、主犯ではなかったというのは認められた」
「当然よ!! なんでそれだけのこと、さっさとやってくれなかったのよっ!!」
「────で、話はこれからよ」
「話なんてどうだって良いわよ! 早く部屋に帰してよ。まだ袖を通してないドレスがあったはずっ」
「ドレスと宝石はすでに差し押さえたわ。横領と収賄の証拠として」
「………………は?」
「濡れ衣は晴れたわ。だからこれからは、姉様の本来の罪を問う時間よ」
地下牢の一角、他の囚人たちから離されて入れられている人物に近づくと、むわっ……と鼻が曲がりそうな異臭に襲われた。
「なんで……なんでよ。
なんで私がこんな目に……。
私のドレスと宝石は、どこ……」
虚ろな目で、鉄格子を握りながら言うのは、別人のように痩せた第2王女イルネアだった。
「夜会に出るのよ……。
ダンスして、私の美しさを貴族たちに賞賛させて、クロノス殿下に見初められて恋に落ちるの。
王女なんだから、私……」
ただでさえ囚人用で粗末なものだった衣服は、牢に入った当初から彼女が暴れていたせいか、ひどくボロボロだった。
私が近づいてきても、気づかない。
囚人としての粗末な食事では、身体に全然力が入らないようだ。
「姉様」
後ろで臭いに顔をしかめながらついてきた牢番に持たせていた、適温の湯が入ったブリキと木の桶を私は手に取る。
牢番が鉄格子を開け、私は桶と、手頃な大きさのリネン、それからもう一人の牢番に持たせていたバスケットを檻の中に入れ、再び鍵をかけた。
「……ウィルヘルミナ?」
「姉様。そこのバスケットには食べ物と、着替えが入っているわ。
身体を拭いて清めて、着替えて、とりあえず持ってきたものを食べて」
「…………身体を拭くって、どうやるの?」
「やったことないの?」
「わからないわよ。あなた、やりなさい」
…………わからないのはともかく。
なんで自分の状況も省みず、すぐこういう物言いできるんだろう。
そういう育てられ方をしたのはわかるけど、それにしたって頭が悪すぎる。
(いえ…………わざと駄目にするように育てられたのね)
国王と王妃の最大の過ちは、愛人の産んだ子をすべて王子王女にしながら、ダンテス兄様とアルヴィナ姉様にしか王族として必要な……いや、人として十分な教育を与えなかったことだ。
その2人以外は、完全に政略結婚の道具として都合の良い、知恵の回らない馬鹿な姫君にしたかったのだろう。
見た目は華やかで美しく、それでいて嫁いだ先では適度に相手の国の足を引っ張ってくれるように。
(それじゃ国の恥になる、っていう考えはなかったのね……)
「私はしないわ。やり方は外から教えるから姉様が自分でやるのよ。それが嫌なら、男の牢番にやらせるから」
そう言うと、イルネア姉様はさすがに少し怯んだ顔をする。
私は牢番たちに目で合図して、下がらせた。
……それからが一苦労だった。
「まずはリネンを湯に浸して……搾るのよ。何してんの。布の上と下を手で持って、こう、捻るの。ちょっと!投げないの!! 身体拭かないと姉様臭いままよ? 着替えもできないわよ!? ほら、いいから最初からしなさい、だからっ……」
「そうよ。それで服を脱ぐの。待って、服の脱ぎ方わかるわよね? え、なに『人生最大の屈辱』って。泣きべそかかないでよ。私に当たり散らしてもいまの状況変わらないのよ。お腹空いてるんでしょ」
「そのままの格好で侍女たちの前に姿晒すよりいいでしょ?
駄々こねてないで、自分にとってマシな道を選びなさいよ。
ほら、身体拭いて…………」
◇ ◇ ◇
「わたしっ、そんな馬鹿じゃないわ……っ。お兄さまの失脚を狙ったのはほんと、だけどっ」
「わかったから、さっさと身体を拭きなさい?」
イルネア姉様とわりと近い状態になっていたエルミナにも同じ様に、自分で身体を拭かせて着替えさせて、食事を摂らせた頃にはすっかり夜も更けていた。
翌朝。
まだ臭いは取れないけど格好は少しマシになった2人を改めて牢から出させ、久しぶりの風呂に入れさせる。
臭いがそのままじゃ、さすがに周りの人間たちにもキツいからだ。
食事もまた摂らせたせいか、少し精神的にも身体的にも回復したようだ。
イルネア姉様は私をにらみつけ罵倒してきたし、エルミナはあざとく私に媚びだした。
さらなる着替えを終えた2人を一室に連れてこさせる。
これから私は、兄様の名代で伝えなければならないことがあるのだ。
「何よ、この服趣味の悪い……私のドレス持ってくるぐらいの気は利かないの?」
部屋に入って開口一番そう言ったのはイルネア姉様。
「ありがとうございますウィルヘルミナお姉様っ。牢から出してくださったということはお姉様が私の無実を晴らしてくださるんですわよねっ」
今さら媚び媚びに、しなをつくって見せるエルミナ。
────私は深呼吸し、心を落ち着けてから口を開く。
「まず、イルネア姉様。
元帥と、軍関係者の多くが捕らえられ、取り調べを受けるなかで、姉様がアルヴィナ姉様の暗殺未遂に関与してはいなかったという証言はとれたわ。
管理ができていなかったという点での責任は問われるけれど、主犯ではなかったというのは認められた」
「当然よ!! なんでそれだけのこと、さっさとやってくれなかったのよっ!!」
「────で、話はこれからよ」
「話なんてどうだって良いわよ! 早く部屋に帰してよ。まだ袖を通してないドレスがあったはずっ」
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