冷遇王女の脱出婚~敵国将軍に同情されて『政略結婚』しました~

真曽木トウル

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68、王女は捜索する

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「……ウィルヘルミナは、私をかばって王妃陛下に逆らったってことなんですね」


 心臓が早鐘を打つ。

 ……仮にも王女という立場の人間の命を、そんな簡単に奪えるものじゃない。
 そもそも母が嘘をついているかもしれないし、私への脅し、交換条件の意味の方が強いのだと思う。

 ただ、母は……いまの母はやりかねないかもしれない。

 話が本当なら……私のこと、たぶんそんなに好きじゃなかったはずのウィルヘルミナがかばってくれた理由はわからないけど、止めなきゃ。


(いま、この王宮にいる間に、母を説得すれば。
 あるいは帰国を留めて、その間に、誰かトリニアスでウィルヘルミナの保護を頼める人に……)


 ダンテス兄様なら何とか止めてくれるだろうか。
 私のこと死ぬほど嫌ってるし、すぐ感情をコントロールできなくなるし、妹たちにも冷淡だし、母に逆らわない人だけど…………不合理なことはしない人のはずだ。
 対抗できるとしたら、あの人。


(……まず、母と話さなくちゃ。とにかく、母を止めるの)


 こうして、無理矢理私に話させることが、母の目論み通りだったとしても。


「イーリアス様、私……母と話します」
「承知いたしました。私もお側につきましょう」
「ありがとうございます。心強いです」


 そう私が言ったのを見て、露骨にホッとした顔をするサブリナさん。

 自分の立場は変わらないのに……彼女もまた母を恐れていたのか。


「サブリナさん。教えてくれたことには感謝します。
 どういった処分が下るかはわかりませんが、甘んじて受けてくださいね。
 そして二度と、私の夫に近づかないでください」


 私の言葉に顔を上げ、
「あ、あのっ、私の処分にも王女殿下のお口添えをいただけないでしょうかっ」
と言うサブリナさん。


「……なぜ私に?」

「重い処罰がくだったら、父と夫に、怒られてしまうのですっ……。
 ただでさえ、なぜ外れくじを引いたんだと父から責められていて……ちゃんと言うことを聞いたのに……。
 殿下はイーリアスが出世してから結婚されましたし、彼が相手なのだからお幸せなのでしょう?
 お慈悲をくださいませんか?」


 この期に及んでそれを言うあたり、事態の重さをまったくわかっていない。
 でもこの視野狭窄は……ほんのりと既視感があった。


「……………………もう、下がってください」
「あの、私、王女殿下のお噂をっ」
「下がりなさい」


 強く言うとサブリナさんは黙り、うなだれた。
 衛兵たちに連れられて出ていくサブリナさんの後ろ姿を見、イーリアス様がかすかにため息をついた。


「…………何と申し上げて良いかわかりませんが、申し訳ありません」

「イーリアス様は謝らないでください」


 あの人の問題はあの人の問題であって、イーリアス様が責任を感じることじゃない。もちろん、私が負うべきことでもない。


「あ、そうです。母と話すのには、先にお許しをいただかなくてはなりませんよね」
「そのとおりです。
 祖父はいま王妃陛下と話をしているところでしょうから、まずは王太子殿下にお話を」


 イーリアス様がそう言いかけた時、「王女殿下!! いらっしゃいますか!?」
と扉の外から声がかかった。

 イーリアスが扉を開けると、息を切らした衛兵が彼の顔を見上げながら必死で続けた。


「緊急事態です。
 トリニアス王国の王妃陛下が……王宮の中で突然、姿を消されました」

「………………!? どういうことだ」

「宰相閣下の目の前で忽然と、と聞いております。
 お話をしていらっしゃった、その場でです」


(忽然と? 話をしている最中に?)


 心当たりがある魔法はひとつ。
 でもあの魔法は……いくら魔力が強くても母は使えなかったはず。
 使えるのは、私と、もう1人。


「王女殿下の身辺に、何か異変はないかと、宰相閣下が確認をと……」

「わかった。異変は今のところないが、警護の増員を」

「────イーリアス様」


 私はつい、口を挟む。


「あの、つかぬことを伺いますが、宰相閣下の魔力量はどれぐらいでしょうか」

「? 私のように専門的に魔力を伸ばしたわけではありませんので、ベネディクトの高位貴族として一般的な範疇です」

「でしたら……」


 おそらく今の私より、そしてあの人より弱い。


「あの、イーリアス様。私も探しに出させていただけないでしょうか?」

「殿下、さすがに危険では」

「王宮のなかで他国の王妃が姿を消したとなれば一大事です。
 私なら見つけられるかも……しれないのです」


 私の魔力が回復したことによって、と魔力量が逆転していれば……。


「────それとすみません、そちらの方。
 宰相閣下に、ベネディクトの中でも極力強い魔力の持ち主を捜索に加えてくださるようにお伝えいただけませんか?」


 そこまで言うと、イーリアス様は何かに気づいたようで、


「……宰相閣下にお伝えの後、警護の指揮に回っているアイギス・ライオット伯爵に捜索側に回るよう伝えろ。
 それから透視魔法を使えるクラウン公爵にご協力を仰げ」


とも加え、衛兵の方は敬礼して走っていく。


「……それにしても……トリニアスの人間が、何重にもご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

「さすがに殿下の責任ではありません。
 …………では、捜索をしながらお話を伺わせていただきます」


   ◇ ◇ ◇


 宰相閣下と母が話していた部屋の位置、それから王宮の間取りと他の部屋との位置関係をたどって、私たちが真っ先にを見つけたのは、必然だった。


「────見つかったか」


 人一人ぶんあろうかと思われる布包みを肩に担ぎ上げた異様な格好のその人は、捜索する人々の目に一切とまらないですり抜けられていた。

 久しぶりにあった彼は、私とイーリアス様を見て「しくじったな」と呟く。
 整理できない感情が、私の口を突いて出る。


「どうして────ダンテス兄様が……」


 私以外に認識操作魔法を唯一使える人が、そこにいた。


   ◇ ◇ ◇
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