身代わり婚約者になった元悪役令嬢役女優、塩対応しかしてないのになぜか溺愛されてます。

真曽木トウル

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後日談3:【マクスウェル視点】5

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「──────え……」

 さすがのシンシアも
「えっと……夜中に……ですか?」
とピントの外れた言葉を漏らして、呆気にとられている。

 いつも君に振り回されてばかりの男がこんな行動をとるとはまさか思わなかったんだろうな。


「今日は、夜会があったはずでは」

「そんなものは、どうでもいい。結婚してくれシンシア」

「もう少し、賢明になられることをおすすめしますが」

「言われるまでもなく考えに考えたさ。どこまでも考えて君しかいなかったんだ」


 なんと言ったらいいのかわからない、という顔をして、シンシアは私を見つめた。


「リリスのために社交界から閉め出されるわけにはいかないと言ったな? 半分は本音だろうが半分は嘘だ。女性が社交界で地位を獲得したいなら、真っ先に考えるのは家柄の良い男との結婚だ。たとえば私のような。私と離れようとしているのは本当に、リリスのためか?」

「……へぇ? そんな手もあったんですね。思い付きませんでしたけど」


 決断力はあるけど嘘は下手だ。顔に出てる。


「思い付かなかったというならそれでもいい。ではいま、君にはそういう生き方もあると私が提示しよう。気にしていること悩んでいることがあればすべて私が片付ける。結婚してくれ、シンシア」


 答えは、どちらだ。
 是か、非か。
 シンシアは私を見つめている。窓枠を握りしめる手に、力が入ったのが見てとれた。


 どれほど時間が立ったか。
 彼女は「……失礼いたします」と言って窓を閉めてしまう。

 私は帰らない。
 出てくるまで待つ。何時間だって。

 …………根比べは私の勝ちで、ほんの40分ほどでシンシアは裏口から出てきた。


「本当に何してるんですか。風邪引きますよ」

「君のことだからな。引っ込んだと見せかけてこちらを窺っていると思って、出てくるまで待つつもりでいた」

「何なんですか、もう……」

「受け取ってくれないか。花が可哀想だ」

「私、花束は自分が贈る派であって、頂く派ではないんですが」

「そうか。なら次のリリスの舞台にとびきり大きい花飾りを贈るといい」


 差し出した手を微動だにさせないまま数分。
 やっと折れたシンシアが花束を受け取った。ぬいぐるみのように優しく抱き締める。


「………………私に、マクスウェル様と近すぎじゃないかと言ってきた令嬢、18歳なんですよ」

「それがどうかしたか?」

「どう考えてもマクスウェル様狙いですよね?」

「心当たりもない。たぶん視界に入っていなかったんだろうが」

「……マレーナ様に伺ったことがありますけれど、同級生の方にもマクスウェル様と結婚したいと思ってらっしゃる令嬢がおられるとか」

「そうか。だとしても微塵も興味はない」

「そんな中で私というのがですね……適齢期の令嬢たちのなかで、歳食い過ぎてると思いませんか?」

「君はリリスにこう言ったそうだな。あなたには数えきれないほどの可能性がある。選択はあくまで自分の望みで選んでほしい。自分なんかと諦めて選択肢を狭めるようなことはしないでほしい、と。
 …………今の君だってそうだろう?」


 花束を握るシンシアの手に力が入る。


「私が聞きたいのは、シンシア自身の気持ちだ。君が私なんかと結婚したくないと言うなら男らしく引き下がろう……いや、しばらく粘るかも知れないが。聞かせてくれ、シンシア。君は私をどう思っている?」

「なんというか…………本当に、もう」


 シンシアは花束を抱いたまま、力が抜けるようにその場に座り込んでしまった。


「ほんとに後悔しませんか?」

「するわけがない」

「ご、ご友人方から……あと、殿方同士の間で、笑い者になりませんか?」

「それで笑い者にする友人ならこっちから切るさ」

「な……何年後かに、や、やっぱり若い女の子のほうが良かったとか、思いませんか?」

「死ぬまで添い遂げる相手を選ぶのに、数年の歳の違いなんて些末なことだろう。私は君がいいんだ。君は?」

「………………」


 私はシンシアの前にしゃがむ。
 花に顔をうずめるように隠し、ためらいをみせていたシンシアの、口が動いた。


「……マクスウェル様と見るお芝居が、一番楽しいです」

「うん」

「……休日に連れていっていただいた場所は、全部大好きな、大切な想い出の場所です」

「うん、うん」

「あとリリス様に似たそのお顔も結構好きです」

「それはわりと自信があった」

「……………………だから、あなたの邪魔になりたくなかったのに」


 私は、花束ごとシンシアを抱き締めた。ぽんぽんと、背中に優しく触れるとすすり泣き始める。


「……だから、好きになっちゃいけないと、おもってっ…………」

「そうか。悪かったな」

「……単なる、やさしさだと、思い込もうとしてっ……だからっ……」


 好きだと言わないと、結局確信も持てないまま、か。リリスの言った通りだ。私はもっともっと早く、言葉にして伝えるべきだった。

 よしよし、と、背中をさすり、頭を撫で、私はシンシアの泣きながらの言葉を聞いた。
 嗚咽が少しずつ和らいでいき、収まってきたシンシアの目元の涙を指でぬぐう。


「………………結婚、してください」


 もう一度そう言うと、シンシアは黙ってうなずいた。

 ………………さて。
 うちの家族は味方になってくれるとして。


「………………グルーフィールド伯爵ちちは、反対すると思います」

「わかってるさ」


 シンシアが社交界で注目を集めることで自分たちの過去の行いに目を向けられたくない伯爵は、私の前に立ちふさがってくるだろう。

 だけど一度は勝った相手だ。今度も私が、必ず勝つ。


「結婚してからも、演劇は見に行こう。シンシアの行きたい場所にすべて行って、したいことは何でもやろう。私の隣が世界で一番楽しい場所だと、いやというほど思い知らせてやるから」


【後日談3 了】
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