9 / 26
9 どうして結婚という話になるのですか!? ②
しおりを挟む
「…………え?」
しばらく時が止まった気がした。
思考はたっぷり五秒ちかくも停止し、そして次に疑問で頭の中が満ちあふれる。
「え、ええ!? なっ、なぜそのようなお話にっ!?」
────殿下は、私を助けてくださった方で、この十年間の私の心の支えです。
死にたいとき、いつも殿下の記憶に救われました。殿下がいらしたから生きてこられたのです。
それに私が今までお会いしたことのある男性の中で間違いなく一番の美男子であり一番素敵な方です。
すべてにおいて好意しかありません。
────ですが、結婚???
それはちょっと飛躍していませんか???
一方殿下は、当たり前のようにそのままお話しになる。
「醜聞というものは厄介だ。
執拗に、しかも不正確に、尾ひれがついて人々の間を回り続ける。
だが淑女の場合、結婚による名誉回復が可能だ。
それも高い身分の権力を持つ男との結婚。くちさがない者たちの口をふさぐには、これが何よりも効く。それゆえだ」
「り、理屈はわかります。が……」
「もし結婚そのものを恐いと思うなら、白い結婚でも問題ないが」
唾をのみ、やっと求婚の衝撃から回復した私は、ブンブン首を横に振った。
「で、殿下!
ご自分をもっと、大切になさってくださいっ!」
「ん、ん?」
「一生の伴侶ですよ!?
そんなことで決めてはダメです!
殿下の幸せだって大事です!
自分を安売りしてはいけません!
そもそも、謝罪される筋合いなんて一切ありません。
殿下は私の恩人……」
そこまで言って、ハッとした。
畏れ多くも王弟殿下にこんなにまくし立てるなんて、不敬にもほどがある。
十年の使用人生活で、貴族としての常識的な感覚がにぶってしまっていたみたい。
(うわ……恥ずかしすぎる)
私は、この憧れの人に、何度恥ずかしい姿をさらしてしまうのだろう。
「────大変失礼いたしました、殿下」
私は深く頭を下げる。
「いや、唐突に聴こえたなら申し訳ない。
だが私は、君に償わなければならないのだ」
ロデリック殿下が目を伏せる。
長い睫毛が綺麗なお顔に影を落とし、思わず私の心臓が早鐘を打つ。
「王家の男子は若いうちに騎士団で心身を鍛える。私も十三歳から騎士団に入っていた。
あの日は、馬術の訓練のため皆で馬場まで移動している途中、君の侍女殿に助けを求められた。
血まみれで必死に訴える彼女を見れば、一目で深刻な事態だとわかった。
だが当時の私はまだ見習いであり、何の権限もなかった。
一方、指揮していた分隊長は、これは自分たちの仕事ではないと別の者たちを呼ぼうとした。
子どもの命がかかっているというのに、ひどく悠長に思えて我慢できなかった。
だが見習い騎士には人を動かすことはできない」
「あの、まさか」
「王子として、緊急強制執行権を行使して騎士団と憲兵を動かした」
「…………!」
つまり、私は殿下の決断によって助かったと……。
殿下は、私を探したその他大勢ではなく、指揮してくださったのだと、そういうことでしょうか?
そんなの、ますます感謝以外なくなる。
沈痛な面持ちの理由も、私と結婚までしようとする理由もわからない。
「彼女が懸命に助けを求め、また騎士団と憲兵が動いているのを見て、一般の平民たちもたくさん集まってきた。
子どもが誘拐されるなど他人事ではない、探すのに協力すると」
「は、はい。
だから、目撃者もすぐに見つかり、怪しい場所をしらみつぶしに探すことができたと……あの時もそうおっしゃっていましたね?」
「良く覚えていたな。その通りだ。
私も、自分の決断で君の命を救えたと思い上がっていた。
だが、違ったんだ」
「違った……?」
「公にはされていないが、王宮には、貴族がなにか事件に巻き込まれた際、対処に当たる専門の組織がある。彼らが動けば秘密を徹底して守ることができ、貴族たちの名誉を傷つけずに済むというわけだ。分隊長はそちらに任せようとしていた。
それを、一刻も早く見つけねばと焦った私が大事にしてしまったのだ。
そのせいで……君が誘拐されたと大勢に知られた。貴族たちにも知られることになった。
何一つ罪など犯していない無垢な君から、私が貴族としての生命を奪ってしまった」
「ちっ、違います、それは……」
「しかし現に、今のままでは君の名誉が傷ついたままだ」
「それは……そうですが」
殿下のおっしゃりたいこともわかる。
私自身これまで『貴族とはそういうもの』と自分自身に言い聞かせて、家族に対する黒い気持ちを押さえ込んでいた。
だけど、殿下がご自身をお責めになるのは絶対に違う。
(何かないかしら。
殿下のお心が軽くなる言葉は……)
『あのこと』を言う?
いえ、きっと誘拐犯のことを口にしたら、私……。
「そのためには……決して完璧な策とはいえないが、結婚が最善だと考えた」
「完璧ではないが、最善……」
その言葉で、パッとひらめくものがあった。
背筋を伸ばし、まっすぐに殿下を見つめ、深呼吸を二回する。
「あの、殿下!
僭越ながら、わたくしから一つ申し上げても良いでしょうか?」
「ああ。何だろうか」
「誘拐事件の解決には初動が肝心だといわれています」
「……ん?」
「初動でうまくいき、早々に解決してさらわれた人を無事取り戻せた事件もございます。
また、様々な理由でそうできず犯人を逃がしたり、捕まえるのに時間がかかり、命が奪われてしまった事件もございます。
王都の治安を維持する人員も限られている中、殿下は、その初動から最大の人員を投入してくださいました。
たとえばその動員によって、もしも他の場所に不都合が出たならそれは申し訳なかったと思いますが……。
完璧なやり方ではなかったかもしれません。
ですが、殿下のご決断は、少なくとも私にとっては最善だったと思うのです」
誘拐事件の話は新聞の受け売りだけど……どうか、殿下に私の思いが伝わってほしい。
少しでもお心が楽になってほしい。
そういう願いを込めながら私が言い切ると、背後からパチパチパチ……と拍手が聴こえてきた。
「でしょう?
私も十年前からそう言っているのよ」
(……………!)
こちらの声には聴き覚えがある。
私があわてて立ち上がり振り向くと同時に、部屋の扉が開かれた。
長身の女性が部屋に入ってくる。
氷の薔薇が咲いたような、凛としたオーラ。
黒髪だけど、殿下とは対照的に色白で、キリリと隙のない美人。
天鵞絨のドレスは、シンプルでありながらも王家のみが使える紋章で飾られた、威厳あるものだ。
私は頭を深く下げながらカーテシーをする。
「大変ご無沙汰をいたしております────女王陛下」
しばらく時が止まった気がした。
思考はたっぷり五秒ちかくも停止し、そして次に疑問で頭の中が満ちあふれる。
「え、ええ!? なっ、なぜそのようなお話にっ!?」
────殿下は、私を助けてくださった方で、この十年間の私の心の支えです。
死にたいとき、いつも殿下の記憶に救われました。殿下がいらしたから生きてこられたのです。
それに私が今までお会いしたことのある男性の中で間違いなく一番の美男子であり一番素敵な方です。
すべてにおいて好意しかありません。
────ですが、結婚???
それはちょっと飛躍していませんか???
一方殿下は、当たり前のようにそのままお話しになる。
「醜聞というものは厄介だ。
執拗に、しかも不正確に、尾ひれがついて人々の間を回り続ける。
だが淑女の場合、結婚による名誉回復が可能だ。
それも高い身分の権力を持つ男との結婚。くちさがない者たちの口をふさぐには、これが何よりも効く。それゆえだ」
「り、理屈はわかります。が……」
「もし結婚そのものを恐いと思うなら、白い結婚でも問題ないが」
唾をのみ、やっと求婚の衝撃から回復した私は、ブンブン首を横に振った。
「で、殿下!
ご自分をもっと、大切になさってくださいっ!」
「ん、ん?」
「一生の伴侶ですよ!?
そんなことで決めてはダメです!
殿下の幸せだって大事です!
自分を安売りしてはいけません!
そもそも、謝罪される筋合いなんて一切ありません。
殿下は私の恩人……」
そこまで言って、ハッとした。
畏れ多くも王弟殿下にこんなにまくし立てるなんて、不敬にもほどがある。
十年の使用人生活で、貴族としての常識的な感覚がにぶってしまっていたみたい。
(うわ……恥ずかしすぎる)
私は、この憧れの人に、何度恥ずかしい姿をさらしてしまうのだろう。
「────大変失礼いたしました、殿下」
私は深く頭を下げる。
「いや、唐突に聴こえたなら申し訳ない。
だが私は、君に償わなければならないのだ」
ロデリック殿下が目を伏せる。
長い睫毛が綺麗なお顔に影を落とし、思わず私の心臓が早鐘を打つ。
「王家の男子は若いうちに騎士団で心身を鍛える。私も十三歳から騎士団に入っていた。
あの日は、馬術の訓練のため皆で馬場まで移動している途中、君の侍女殿に助けを求められた。
血まみれで必死に訴える彼女を見れば、一目で深刻な事態だとわかった。
だが当時の私はまだ見習いであり、何の権限もなかった。
一方、指揮していた分隊長は、これは自分たちの仕事ではないと別の者たちを呼ぼうとした。
子どもの命がかかっているというのに、ひどく悠長に思えて我慢できなかった。
だが見習い騎士には人を動かすことはできない」
「あの、まさか」
「王子として、緊急強制執行権を行使して騎士団と憲兵を動かした」
「…………!」
つまり、私は殿下の決断によって助かったと……。
殿下は、私を探したその他大勢ではなく、指揮してくださったのだと、そういうことでしょうか?
そんなの、ますます感謝以外なくなる。
沈痛な面持ちの理由も、私と結婚までしようとする理由もわからない。
「彼女が懸命に助けを求め、また騎士団と憲兵が動いているのを見て、一般の平民たちもたくさん集まってきた。
子どもが誘拐されるなど他人事ではない、探すのに協力すると」
「は、はい。
だから、目撃者もすぐに見つかり、怪しい場所をしらみつぶしに探すことができたと……あの時もそうおっしゃっていましたね?」
「良く覚えていたな。その通りだ。
私も、自分の決断で君の命を救えたと思い上がっていた。
だが、違ったんだ」
「違った……?」
「公にはされていないが、王宮には、貴族がなにか事件に巻き込まれた際、対処に当たる専門の組織がある。彼らが動けば秘密を徹底して守ることができ、貴族たちの名誉を傷つけずに済むというわけだ。分隊長はそちらに任せようとしていた。
それを、一刻も早く見つけねばと焦った私が大事にしてしまったのだ。
そのせいで……君が誘拐されたと大勢に知られた。貴族たちにも知られることになった。
何一つ罪など犯していない無垢な君から、私が貴族としての生命を奪ってしまった」
「ちっ、違います、それは……」
「しかし現に、今のままでは君の名誉が傷ついたままだ」
「それは……そうですが」
殿下のおっしゃりたいこともわかる。
私自身これまで『貴族とはそういうもの』と自分自身に言い聞かせて、家族に対する黒い気持ちを押さえ込んでいた。
だけど、殿下がご自身をお責めになるのは絶対に違う。
(何かないかしら。
殿下のお心が軽くなる言葉は……)
『あのこと』を言う?
いえ、きっと誘拐犯のことを口にしたら、私……。
「そのためには……決して完璧な策とはいえないが、結婚が最善だと考えた」
「完璧ではないが、最善……」
その言葉で、パッとひらめくものがあった。
背筋を伸ばし、まっすぐに殿下を見つめ、深呼吸を二回する。
「あの、殿下!
僭越ながら、わたくしから一つ申し上げても良いでしょうか?」
「ああ。何だろうか」
「誘拐事件の解決には初動が肝心だといわれています」
「……ん?」
「初動でうまくいき、早々に解決してさらわれた人を無事取り戻せた事件もございます。
また、様々な理由でそうできず犯人を逃がしたり、捕まえるのに時間がかかり、命が奪われてしまった事件もございます。
王都の治安を維持する人員も限られている中、殿下は、その初動から最大の人員を投入してくださいました。
たとえばその動員によって、もしも他の場所に不都合が出たならそれは申し訳なかったと思いますが……。
完璧なやり方ではなかったかもしれません。
ですが、殿下のご決断は、少なくとも私にとっては最善だったと思うのです」
誘拐事件の話は新聞の受け売りだけど……どうか、殿下に私の思いが伝わってほしい。
少しでもお心が楽になってほしい。
そういう願いを込めながら私が言い切ると、背後からパチパチパチ……と拍手が聴こえてきた。
「でしょう?
私も十年前からそう言っているのよ」
(……………!)
こちらの声には聴き覚えがある。
私があわてて立ち上がり振り向くと同時に、部屋の扉が開かれた。
長身の女性が部屋に入ってくる。
氷の薔薇が咲いたような、凛としたオーラ。
黒髪だけど、殿下とは対照的に色白で、キリリと隙のない美人。
天鵞絨のドレスは、シンプルでありながらも王家のみが使える紋章で飾られた、威厳あるものだ。
私は頭を深く下げながらカーテシーをする。
「大変ご無沙汰をいたしております────女王陛下」
31
あなたにおすすめの小説
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃
ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。
王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。
だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。
――それでも彼女は、声を荒らげない。
問いただすのはただ一つ。
「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」
制度、資格、責任。
恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。
やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。
衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。
そして彼の隣には、常に彼女が立つ。
派手な革命も、劇的な勝利もない。
あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。
遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、
声なき拍手を聞き取る。
これは――
嵐を起こさなかった王と、
その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!
山田 バルス
恋愛
王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。
名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。
だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。
――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。
同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。
そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。
そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。
レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。
そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる