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12 ウィズダム城での日々①
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(はぁぁ……今日の朝食も、とっても美味しかった)
私は満ちたりた気持ちでナプキンで口を拭く。
同じテーブルの少し離れた席にロデリック殿下がお座りになっている。
ウィズダム城に来て二週間。
求婚はお断りしたものの、しばらくはこの城で身の振り方を考えるということで、私は居候させていただいていた。
(今朝は殿下とも朝食をご一緒できたし……とっても良い日だわ)
「口に合ったようだな」
「はい! とっても!
あ、でもあの……すみません、パンとオムレツのおかわりをいただいてしまいました」
「いや、良かった。満足してくれたようで。
私の分の腸詰めも食べるか?」
「さ、さすがにそれは遠慮申し上げますっ。
でもありがとうございます」
プリップリで肉汁じゅわっじゅわな豚の腸詰めは、ハーブが利いていて旨味たっぷりで、食事に出てくるたび嬉しくなってしまうものの一つだ。
でも、おかわりだけでもはしたないのに、さすがに殿下の分も頂いてしまうのは淑女としてどうかと思う。
「毎日美味そうに食べてくれるので良かったが、もし何か食事に希望があれば言ってくれ。可能な限り反映する」
「そんな……美味しすぎて今は何も浮かびませんので、浮かんだらご相談いたしますね。
今日の朝食も最高でした」
腸詰めだけじゃない。手の込んだオードブル、極上食感のパンケーキ、ふわっふわの卵、数種類のスープ、たっぷりのフルーツ……。
ヴァンダービル伯爵家よりも遥かにリッチな朝食に、最初は(朝からこんな贅沢して良いの!?)と戸惑ったほどだ。もちろん昼食夕食も美味しい。
殿下はお仕事の関係で、王宮に何日もお泊まりになることもある。
それでも、ウィズダム城にいらっしゃる時は極力私と同じテーブルについて食事をおとりになる。
(率直にいえば、これだけでも幸せなのよね。
十年間憧れた人が目の前にいて、お話しして一緒に食事できるなんて)
何気なく食事するお姿まで尊くて、この世界でお一人だけ輝いてらっしゃるようにさえ見える。お声も良いのでお話ししていて耳が幸せだ。
神様、ロデリック殿下という奇跡をこの地上に産み出してくださって感謝します。
「……何か私の顔についているか?」
「い、いえ! 何でもありません。
本日も王宮に向かわれるのですよね?」
「ああ。戻りはおそらく明後日の夜だ。
予定通り家庭教師は来る。
必要なものは用意しておいたが、他にも何か欲しいものがあれば何でも侍女に伝えてくれ」
「ありがとうございます。
すみません、勉強のための本を貸していただくだけでなく、家庭教師の先生まで手配してくださって。
皆さま良い方ばかりで、とてもありがたいです」
「そうか、それならよかった。
それと服や靴は少し足しておいた。
好みに合うと良いが」
「え! あ……ありがとうございます。
あの、ですが、衣装部屋ももうすぐいっぱいになってしまいます。
これ以上は、本当にもうお気遣いなく」
「確かにそうだな……では、隣の部屋も衣装部屋に改装しておこう」
「!? いえ、そうではなくてですね!?」
いま気軽に『足した』とおっしゃったけど、衣装部屋は、まだ袖を通していないドレスや履いたことのない靴でいっぱいだ。
きっと夜会に着て出れば注目の的だろう、見るからに豪奢で煌びやかで、乙女たちにため息をつかせるようなドレスが、気がついたらどんどん増えている。
なぜか当然のように、それに合わせた宝飾品までそろっていた。
『あの、夜会に出る予定もありませんのに、こんな高価なドレスや宝石をいただくのは……』
と言ったら、
『気に入ったものは夕食の時にでも着てくれ』
とのことだった。
(このお城を出る時までに、着られるかしら……?)
そんなことを考えていると、殿下はそれを見透かしたように複雑そうなお顔をする。
「着る機会を作っても良いと思うが……。
ここは王都にも近いし、好きな場所に遊びに出掛けても良い。オペラや演奏会など、希望があれば手配する。
それに、君が望むなら優秀な夫候補をいくらでも紹介するのだが」
「い、いえ! まずは私、ちゃんと勉強して大人として自立できないといけませんので」
「その自立というのは必要なのだろうか?」
「それは……私にとっては大切なのです」
ここは折れません、というニュアンスを持たせながらはっきり言うと、殿下は残念そうにうなずいた。
なぜか殿下は、もっと私にいろいろ望んでほしいようだ。理由は良くわからないけれど。今でも私、ものすごく大切にしていただいていると思うのだけど。
「殿下、お時間です」
従者が声をかけると「そうか。では」と殿下はお立ちになった。
「マージェリー嬢。私はこれより出立する。基本的には私の執務室と使用人らの部屋以外は自由に入って好きに過ごしてくれ。図書室の本も、何でも読んでかまわない」
「は、はい。お見送りをさせていただいてもよろしいですか?」
「うむ」
朝食の服から出仕の服にお着替えになった殿下は、馬車に乗り、出立していった。
いつもだけど、今朝も素敵だった。
そのお姿をしばらく心の中で反芻して浸りながら、私は自室に戻る。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
この城のお仕着せを身につけたリサが、にこにこしながら私に声をかけた。
リサは今、私の部屋付きメイドとして雇われている。
この城の家政婦長はとても気立ての良い人で、リサとも馬が合うようだ。
他にも部屋付きメイドが二人、それから、侍女が二人いる。
侍女二人はアンナのつてで雇われた、貴族ではない良家の娘だ。
貴族令嬢でないほうが私としてもありがたかったし、アンナが気遣ってくれたのだと思う。
(はぁぁ……今日の朝食も、とっても美味しかった)
私は満ちたりた気持ちでナプキンで口を拭く。
同じテーブルの少し離れた席にロデリック殿下がお座りになっている。
ウィズダム城に来て二週間。
求婚はお断りしたものの、しばらくはこの城で身の振り方を考えるということで、私は居候させていただいていた。
(今朝は殿下とも朝食をご一緒できたし……とっても良い日だわ)
「口に合ったようだな」
「はい! とっても!
あ、でもあの……すみません、パンとオムレツのおかわりをいただいてしまいました」
「いや、良かった。満足してくれたようで。
私の分の腸詰めも食べるか?」
「さ、さすがにそれは遠慮申し上げますっ。
でもありがとうございます」
プリップリで肉汁じゅわっじゅわな豚の腸詰めは、ハーブが利いていて旨味たっぷりで、食事に出てくるたび嬉しくなってしまうものの一つだ。
でも、おかわりだけでもはしたないのに、さすがに殿下の分も頂いてしまうのは淑女としてどうかと思う。
「毎日美味そうに食べてくれるので良かったが、もし何か食事に希望があれば言ってくれ。可能な限り反映する」
「そんな……美味しすぎて今は何も浮かびませんので、浮かんだらご相談いたしますね。
今日の朝食も最高でした」
腸詰めだけじゃない。手の込んだオードブル、極上食感のパンケーキ、ふわっふわの卵、数種類のスープ、たっぷりのフルーツ……。
ヴァンダービル伯爵家よりも遥かにリッチな朝食に、最初は(朝からこんな贅沢して良いの!?)と戸惑ったほどだ。もちろん昼食夕食も美味しい。
殿下はお仕事の関係で、王宮に何日もお泊まりになることもある。
それでも、ウィズダム城にいらっしゃる時は極力私と同じテーブルについて食事をおとりになる。
(率直にいえば、これだけでも幸せなのよね。
十年間憧れた人が目の前にいて、お話しして一緒に食事できるなんて)
何気なく食事するお姿まで尊くて、この世界でお一人だけ輝いてらっしゃるようにさえ見える。お声も良いのでお話ししていて耳が幸せだ。
神様、ロデリック殿下という奇跡をこの地上に産み出してくださって感謝します。
「……何か私の顔についているか?」
「い、いえ! 何でもありません。
本日も王宮に向かわれるのですよね?」
「ああ。戻りはおそらく明後日の夜だ。
予定通り家庭教師は来る。
必要なものは用意しておいたが、他にも何か欲しいものがあれば何でも侍女に伝えてくれ」
「ありがとうございます。
すみません、勉強のための本を貸していただくだけでなく、家庭教師の先生まで手配してくださって。
皆さま良い方ばかりで、とてもありがたいです」
「そうか、それならよかった。
それと服や靴は少し足しておいた。
好みに合うと良いが」
「え! あ……ありがとうございます。
あの、ですが、衣装部屋ももうすぐいっぱいになってしまいます。
これ以上は、本当にもうお気遣いなく」
「確かにそうだな……では、隣の部屋も衣装部屋に改装しておこう」
「!? いえ、そうではなくてですね!?」
いま気軽に『足した』とおっしゃったけど、衣装部屋は、まだ袖を通していないドレスや履いたことのない靴でいっぱいだ。
きっと夜会に着て出れば注目の的だろう、見るからに豪奢で煌びやかで、乙女たちにため息をつかせるようなドレスが、気がついたらどんどん増えている。
なぜか当然のように、それに合わせた宝飾品までそろっていた。
『あの、夜会に出る予定もありませんのに、こんな高価なドレスや宝石をいただくのは……』
と言ったら、
『気に入ったものは夕食の時にでも着てくれ』
とのことだった。
(このお城を出る時までに、着られるかしら……?)
そんなことを考えていると、殿下はそれを見透かしたように複雑そうなお顔をする。
「着る機会を作っても良いと思うが……。
ここは王都にも近いし、好きな場所に遊びに出掛けても良い。オペラや演奏会など、希望があれば手配する。
それに、君が望むなら優秀な夫候補をいくらでも紹介するのだが」
「い、いえ! まずは私、ちゃんと勉強して大人として自立できないといけませんので」
「その自立というのは必要なのだろうか?」
「それは……私にとっては大切なのです」
ここは折れません、というニュアンスを持たせながらはっきり言うと、殿下は残念そうにうなずいた。
なぜか殿下は、もっと私にいろいろ望んでほしいようだ。理由は良くわからないけれど。今でも私、ものすごく大切にしていただいていると思うのだけど。
「殿下、お時間です」
従者が声をかけると「そうか。では」と殿下はお立ちになった。
「マージェリー嬢。私はこれより出立する。基本的には私の執務室と使用人らの部屋以外は自由に入って好きに過ごしてくれ。図書室の本も、何でも読んでかまわない」
「は、はい。お見送りをさせていただいてもよろしいですか?」
「うむ」
朝食の服から出仕の服にお着替えになった殿下は、馬車に乗り、出立していった。
いつもだけど、今朝も素敵だった。
そのお姿をしばらく心の中で反芻して浸りながら、私は自室に戻る。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
この城のお仕着せを身につけたリサが、にこにこしながら私に声をかけた。
リサは今、私の部屋付きメイドとして雇われている。
この城の家政婦長はとても気立ての良い人で、リサとも馬が合うようだ。
他にも部屋付きメイドが二人、それから、侍女が二人いる。
侍女二人はアンナのつてで雇われた、貴族ではない良家の娘だ。
貴族令嬢でないほうが私としてもありがたかったし、アンナが気遣ってくれたのだと思う。
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