地獄の冒険〜プロポーズの成功直後に死んだ俺は彼女との幸せな日々を求めて魔法の扉を探す地獄の旅に出る〜

やきとり

文字の大きさ
3 / 19
第1章 想い出編

第3話 いざ地獄へ

しおりを挟む
想い出編 3いざ地獄へ
それからさらに数日後。シェルジャはいつも通り接してくれた。多分シェルジャなりの配慮だろう。そのおかげで俺は俺のペースで俺なりに考えることができた。だが俺の決意が揺らぐことはなかった。
「シェルジャ、俺はやっぱり地獄に行くことにする」
その言葉を聞くとシェルジャは前とは違って表情を変えることなく穏やかな温かい声で答えた。
「分かりました、春樹様。そこまでして行きたいのならもう何も言いません。ですが、そこがいかに恐ろしく暗く苦しい場所か知っていますか?」
「はい」俺ははっきりと答える。
シェルジャは続けた。
「地獄とは全宇宙の悪の住処です。人の理解を超えた怪物がいるかもしれないし、それを裁くさらに恐ろしい何かがいるのかもしれないのですよ?それでも行きたいのですか?」
「あぁ 俺は地獄に何があっても絶対に諦めない。俺は必ず扉を見つけてもう一度千聖に会う!!」
「分かりました。では地獄に案内します」
シェルジャは納得したような様子でそう答えた。



 不気味な霧が視界を覆う黒色の川にやってきた。ここは三途の川。三途の川はこの世とあの世を繋ぐものとして伝われてきたが実はあの世と地獄を結ぶ川だったのだ。俺以外にも沢山の人が岸にやってきた。みんな多分これから地獄に行くのだろう。怯えた様子の人もいればどこか楽しみにしているサイコパスな人もいた。ただ共通していることは、この先に待ち受けるものについて誰も知らないということだ。

 俺は少しこの不気味な黒い川に恐怖を覚えたが、千聖との日々を思い出すと少しだけ楽になった。俺は実は千聖に黙っていたことがある。それは千聖が自分の初恋の相手だったということだ。中学受験で友達と遊ばず、1人で休み時間を過ごしていた時、クラスの人はみんな俺の勉強に配慮して話しかけてくるものはいなかった。だが千聖だけは違った。俺の勉強を邪魔しない程度に時々話しかけてくれた。最初は俺も戸惑いを感じていたが、今考えてみるときっと千聖は俺が寂しい思いをしていることに気づいていたのかもしれない。彼女は少しドジで時々めんどくさいところがあるが誰よりも心の優しい人だった。だから俺はあの時、この人と一生一緒に生きて生きたいと心の底から願ったのかもしれない。



 そんなことを考えているうちに川から何隻ものボートがやってきた。このボートは夢ノ船(ゆめのふね)と呼ばれるもので魔法の船だ。乗る人の運命や特性を汲み取って船員を最も適切な場所へと導くらしい。そして船は1人用だった。俺は船に乗るとシェルジャにお別れの挨拶をした。
「それじゃ行ってきます。シェルジャさん。今までありがとうございました。シェルジャさんも元気で!!」
するとシェルジャは急に俺の両手を掴んでこう言った。

「わしは今まで沢山の人を来世や地獄へと導いてきました。前の人生を振り返り、次の世界へとお見送りをする、それが私の仕事でした。しかし君は今まで会ってきた人の中で一番優しい人でしたよ。本当はね、わしは君に地獄になんて行かないで来世でまた新しい人に出会って幸せになってもらいたかったんだ。でも君の気迫には驚いた。人を愛することの凄さをわしはこの歳にもなって初めて知ったよ。ありがとう。
君こそ、、どうか、、お元気で」

俺はその言葉につい、涙を流してしまっ
た。こんなにも暖かく、優しい言葉をもらったのは千聖を除いて初めてだったから。
俺は独りでに動く船に乗りながら大きく腕を振ってシェルジャにお別れをした。徐々に霧が濃くなりシェルジャの姿が見えにくくなるほど、俺はまた涙を流してしまうのであった…………




春樹が旅った日の夜……
シェルジャは1人、次に向かって物思いに更けていた…………
 
 この専属マネージャーの仕事をお受けしてからもう何百年経ったのだろうか?何万人もの人を次の世界へと導いてきた。みんなそれぞれ、過去に沢山の苦しみを抱えてきた。どこまでもずる賢く、でもどこか意志の弱い少年もいれば、どこまでも横暴で捻くれた者もいた。私は生前、自ら命を絶った。戦争で家族を失い、目の前には焼け野原。少年だった私は何もすることができなかった。そして死を想った。死ぬとわしの体は少年から一瞬にしてヨボヨボのおじさんになってしまった。またひょろひょろとした裁判官は私に命の重みを知るためという口実でわしを専属マネージャーに任命した。だがどこまで経っても目にするのは人の人生の後悔や嫉妬、そして無念ばかりだった。いつしか私は人という存在に期待しなくなった。だが春樹様、あなたは死んでもなお、まだ1人の女性を愛していた。もしこんなにも誠実で優しい人が生前からいればわしは、、、、
    "いや何も変わらないか"。

彼に待ち受けるのは全宇宙からやってきた強者ども。またそれらを罰する地獄の支配者たち。
そしてきっとあなたの旅路には必ず"彼"が現れるでしょ。"闇の根源"がきっと、、
あの世をも照らす月明かりよ。
願わくば春樹様の旅路の先に彼の幸せがありますように。

第1章 想い出編 完結
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

のほほん素材日和 ~草原と森のんびり生活~

みなと劉
ファンタジー
あらすじ 異世界の片隅にある小さな村「エルム村」。この村には魔物もほとんど現れず、平和な時間が流れている。主人公のフィオは、都会から引っ越してきた若い女性で、村ののどかな雰囲気に魅了され、素材採取を日々の楽しみとして暮らしている。 草原で野草を摘んだり、森で珍しいキノコを見つけたり、時には村人たちと素材を交換したりと、のんびりとした日常を過ごすフィオ。彼女の目標は、「世界一癒されるハーブティー」を作ること。そのため、村の知恵袋であるおばあさんや、遊び相手の動物たちに教わりながら、試行錯誤を重ねていく。 しかし、ただの素材採取だけではない。森の奥で珍しい植物を見つけたと思ったら、それが村の伝承に関わる貴重な薬草だったり、植物に隠れた精霊が現れたりと、小さな冒険がフィオを待ち受けている。そして、そんな日々を通じて、フィオは少しずつ村の人々と心を通わせていく――。 --- 主な登場人物 フィオ 主人公。都会から移住してきた若い女性。明るく前向きで、自然が大好き。素材を集めては料理やお茶を作るのが得意。 ミナ 村の知恵袋のおばあさん。薬草の知識に詳しく、フィオに様々な素材の使い方を教える。口は少し厳しいが、本当は優しい。 リュウ 村に住む心優しい青年。木工職人で、フィオの素材探しを手伝うこともある。 ポポ フィオについてくる小動物の仲間。小さなリスのような姿で、実は森の精霊。好物は甘い果実。 ※異世界ではあるが インターネット、汽車などは存在する世界

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...