地獄の冒険〜プロポーズの成功直後に死んだ俺は彼女との幸せな日々を求めて魔法の扉を探す地獄の旅に出る〜

やきとり

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第2章 地獄編 第1階層 鬼神島〜運命の糸編 まで

第15話 番外編 手紙の内容1

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手紙の内容
ームスカへー

春樹くん。君には本当に迷惑をかけたと思う。だが最後にこの手紙に書いてあることをムスカに伝えて欲しい。私はもしかしたら帰れないかもしれないから、その時は頼む。

 私の妻であり、ムスカの母であるジェシカは人間だった。でも妖怪と人間の交際は禁止されており、決して許されることではない。
これは今から500年以上も前に、私とジェシカが出会って結婚するまでの話だ。




狐族である私は物心つく頃から人間の奴隷として働かされてきた。狐族の観察眼と脚力を買われ、大人になる頃にはすっかりお偉いさんの雇われ暗殺者として世界を回ってきた。

だがある日、暗殺に失敗し、敵の攻撃を受け、農民の小屋に隠れていた時だった。その小屋は
天井に1つランプが吊るってあるだけでそれ以外には何もなく、とても寒い、6畳ほどの空間だ。


私は追手からの逃亡と攻撃で受けた傷のせいで倒れ込んでしまった。腹に銃弾を1発受けており、あまり体調が良くない。私は傷口からの出血を止めるため、ズボンを数cm切りガーゼ代わりの布を作った。
季節は秋の後半。外は少しづつ寒くなっている。さらには疲労と出血による体温の低下。
体は深刻な状態になっているとこの時感じた。
そんなことを危惧していると、ふと戸が開く音がする。私は、追手が来たのかと思い、術式を構える。体力がもう残っていない。私は絶望的な状況だった。


だが…….…



中に入ってきたのはなんと小さな少女だった。当時、私は18歳だったのだが、その2,3つ下ぐらいの子だろうか? 背はとても小さく、頭にボロい頭巾をつけ、服は色褪せた薄青いドレスを着ており、頬が少し赤い、まだあどけなさが残る少女だった。


「あのどちら様でしょうか?」

少女はその首を傾けて言う。
まぁその反応は当たり前か。家に帰ると見知らぬ男がいたらびっくりするものだ。

「はぁ? お前こそ誰だ?」

「私はジェシカと言います。この農場の家主に買われた者です」

「て、ことは奴隷か?」

「いえ! 滅相もありません。家主は私に食事と寝場所を与えてくれます。良い方です」

「そうなのか…… ならよかった
あの一つ頼みがあるのだが………」

「なんでしょう?」

「私はいま、帰る場所がない。そこでなんだがここで住まわせてほしい。もちろん食べ物も何もいらない。ただここで数日寝かせてくれないか?」

私は暗殺に失敗したことで狙われている。そのため迂闊にウロウロと街を移動できないので、隠れるしかなかったのだ。

すると少女は下を向いて考えて始めた。
そして
「わかりました。でも絶対に家主さんには内緒ですよ。怒られてしまいますから」

と少し笑って言った。

こうして俺はここで仮住まいさせてもらうことが決定した。

ちなみにこの小屋はこの娘の寝場所だったらしく私たちは狭い空間で2人、横に並んで寝ることにした。

これが私とジェシカのファーストコンタクトだった。




数日後☆
ある夜のこと
私とジェシカは例の小屋で床に寝そべりながらくだらない話をしていた。

「お兄さんの名前は?」

「ジェルバだ」

「ジェルバさんか……。良い名前ですね。
ジェルバさんはどこから来たのですか?」

「すまない。それは言えない。でも沢山の国や地域を回ってきた。アメリカ大陸にも行ったよ」

「え? 本当に? どんな場所だった?」

「先住民がいたな。あと、沢山の資源があって良い場所だ。これからどんどん開拓されていくと思うよ」

「そうなんだ。でも先住民の人達は大丈夫なんですか?」

「いや、よくないだろうな。でも仕方ない」

「そうなんですか……。やっぱり何が正しいかなんてわからないですね」

ジェシカは下を向いて悲しそうに言った。
私はその光景を見て少しでも彼女の顔を励まそうと思い……

「でも世の中、悪いことだけじゃない。たしかに難しい情勢だが、その中で幸せに暮らしている人だっている。それに海外は良い場所だぞ。とても敵とは思えないさ」

と言った。

するとジェシカはその顔を上げて微笑むように言った。

「なら私も外に行ってみたいな……。
世界中を回って色んな人達と会ってみたい。それから綺麗な場所に沢山いくの!!
ねぇいいでしょう? 良いよね!!」

「そうだな。いつか行ってみなよ。そう悪い場所じゃないさ」

「テヘヘ。ならさー ジェルバさんが連れてってよ。お願い!!」

ジェシカはその体の向きをこちらに寄せると目をクリっとさせて言ってきた。

「わかったよ。いつかな」

「やったー! じゃあ約束ね」

「うん。ていうかもう寝なくていいのか?
いつも早いだろ?」

「あ、そうだね。ジェルバさんと話すのが楽しかったから時間忘れてた」

「うん。 じゃあおやすみ」

そう言うと私は天井に吊るってあるランプの火を消して、眠りにつくのだった。



こんな話を毎日続けているうちに私はここにずっといたいと思うようになってしまった。
また、ジェシカも私といるのが楽しかったようだ。
ジェシカは好奇心旺盛な可愛らしい少女だった。特に海外の話をすると目を輝かせる。きっと彼女も何かやりたいことがあるのだろうか?
私はいつしかジェシカのことがもっと知りたくなっていた。

でもそんな日々もある日を境に大きく変わってしまう。



それは雨が強く、空が唸っている夜のことだった。
いつもなら帰ってくる時間なのにジェシカが小屋に来ないのだ。

「このひどい雨だ。もしかしたら……」

私は最悪を考え、3ヶ月ぶりに外に出て、ジェシカを探すことにした。

雷の音と雨の音が私の聴覚を支配する。地面は雨のせいで泥となっており、前に進みにくい。おまけにとても寒い。

その中を白い吐息を吐きながら走っていると
雨と雷の音よりもさらに大きい女の叫び声がした。


「きゃ!」

「お前はなんでこうも不器用なんだ!!
せっかく高い金で買ったのに!!! 全て無駄じゃないか!! この役立たずがぁぁ!!」

「すみません。すみません。
もう2度としませんから!!!」

「うるさい! もう出ていけ!!!」

家主とジェシカだった。

家主らしき人がジェシカにそう言うと、大きい鉄製のような棒を持って彼女の頭を殴った。

「ごめんなさい。ごめんなさい……」

「もういい、いっそのこと死んでしまえ」


私は2人のやりとりを見ていたら、術が勝手に発動してしまった。なぜならその少女の姿を奴隷として働かされてきた私の少年時代に重ね合わせてしまったからだ。そして我を忘れた……。









ゴロゴロゴロゴロ ゴロゴロゴロゴロ


 







 我を取り戻す時には私の爪には誰かの血がついていた。そして足元には肉片が散らばっている。
この時、私は取り返しのつかないことをしてしまったと自覚した。

雷の声と雨の音がまるで私の悲劇を表すかのように鳴り響く。

「あっ          は! これは…………」
少女はその光景に腰を抜かしてしまった。
目からは恐怖と驚きの視線を感じる。

これで、私はここでの安定の生活を失った。
そう心の中で悟ると彼女に背を向け、闇の中に消えようとする。

だが、その時だった。ジェシカは震えた声で私に話しかけてきた。

「あなたは……人じゃないの? 何者なの?」

「私は狐族っていう妖怪なんだ。人間じゃない。醜い化け物だ。ここで起きたことは見なかったことにしてくれ。目が覚めてここに来たら家主が死んでたっことにしろ! いいな! じゃあね」

「待って。その……」
少女は下を向いて言葉を失った。

「なぁ ジェシカ、騙しててすまなかった。私は昔から沢山の人を殺めてきた。君には似合わないよ。君はこれから思うがままに生きてほしい。そして私のことは見なかったことにしてくれ」

そう告げると私は再び背を向ける。
でもなぜだろうか? どこかやるせない。私はこの娘と離れるのが嫌なのだろうか? 体も治ったしここにいる意味はないのに。
でもこの娘に自分が人殺しだったということを告げるのがここまで私にとって痛々しいことなんだとその時、初めて自覚した。

そしてもう一度私は振り返る。

ジェシカはこの寒い雨の中、放心状態だった。

このままだと凍死する……。
そう感じた私は彼女の腕を掴んでさらってしまった。

「え? なに?」

ジェシカは驚く

「ここにいたら寒いだろ! とにかく小屋まで行くぞ」

「待って! 私、ジェルバさんと一緒に行く」

ジェシカは大きな声で言った。

そのセリフを聞いた時、「この娘は何を言っているのか?」と思った。
だが、無意識の領域でどこか嬉しく感じる私もいる。

「なにバカのことを言ってるの? 私は妖怪で人殺しだぞ!!」

「それでもいい。貴方が何者かなんてよくわからないけど実はいい人なんでしょ!
さっきだって本当は助けてくれたんだよね?」

「だからって…………」

私はダメだとわかっているのに彼女の腕から手を離そうとは思えなかった。





☆翌日
 雨が止んで朝日が出始めた時には、私たちはすでに街を1,2つぐらい移動していた。流石にジェシカは疲れたらしく建物の壁に、もたれかかった。


「あの、ジェルバさん。これからどうするの?」

少女は疲れた様子で言う。

「んー。とりあえず、この国から出よう。そしたらどこかでひっそりと暮らすとするか」

「あのさー、そこに私も居ていいかな?」

少女は小さな声で言ってきた。

「仕方ないだろ今更。別れるわけにもいかない。お前がいいならついてこい」

「わかった。じゃあ着いていくよ」


その後、私たちは計画通りに国を出て、農業を営んだ。




数年後……    どこかの地方にて…………

私は近くの畑から取った野菜たちを両手に抱えると家の扉を開けた。

「ジェシカ! 帰ったぞ」

「ありがとう! その量を見ると今夜はシチューになるね。それでもいいかな?」

「もちろん」

私はそう返事をすると家の中に入った。家の中は食べ物のいい匂いで満ちている。ジェシカが今、夕食の準備をしている証拠だ。

今はこうしてジェシカと2人暮らしをしている。決して煌びやかではなかったが、とても仲良くやっている。
特に彼女の料理はとてつもなく美味しいので私は食事をするのがとても楽しかった。

さらに、彼女のお腹の中には大きな命が宿っている。これが後のムスカである。


このように私たちは楽しく暮らしていたのだが
ムスカが3歳になる頃、ある事件が起きた。
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