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第一章 地上編

第三話 ラルド、捕まる

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 キャイもといレイフの家から出たラルドとエメは、ひたすら王国の出口に向かって走っていた。

「あと少しで王国から出られる。急ぐぞ、エメ」
「待ってくれ……もうくたくただ……」
「何を言ってるんだ。せっかくレイフ様が時間を稼いでくれてるのに」
「わ、わーったよ。走る走る」
「は! ようやく出口が見えてきたぞ」

 二人の目に門がうつる。もう少しでベッサ王国から出られると思われたそのとき、二人の前にサフィア捜索隊の一人が立ちはだかった。

「待てよ、ラルド」
「カタラか。ギリギリ間に合わなかったか……」
「少しは親の気持ちを考えたらどうだ? 大事な人を二人も失うなんて、とても正気じゃいられなくなるぞ」
「でも、僕が最弱テイマーなのを父さんは気にしてたぞ。だから姉さんを見つけて、一流のテイマーになった証を作りたかったんだ」
「はいはい。話は村で聞くから、帰るぞ」
「いいや帰らない。姉さんを見つけるまでは帰らない」
「はあ、ダメっぽいな。おい、眠らせるぞ」
「同胞と言えど邪魔するなら抵抗するぞ」
「おいラルド、この数相手にするつもりかよ」
「仕方ないだろう。僕だって勝てるとは思えないけど、やるしかない」
「あんま無茶すんなよ。やばくなったら大人しく帰ろう」

 ラルドとエメは剣を引き抜くと、背を合わせサフィア捜索隊のテイマーたちと戦い始めた。

(エメが後ろを見てくれている。その隙に僕はカタラと戦おう)
「フン。ラルド、心の声がダダ漏れだぞ?」
「サトリか。厄介だな……」
「お前の攻撃は全て予知できる。無駄な抵抗はやめるんだ」
「もう心の中では喋らない。予知なんかさせないぞ」

 ラルドはカタラに斬りかかる。カタラはそれを剣で受け止める。

「おいおい、殺す気かよ」
「殺すつもりはない。ただ病院送りにするだけだ」
「病院送りでも嫌だな。そーれ!」
「うっ」

 カタラが剣を振り、ラルドをふきとばした。

(剣がダメなら……。ダメだ、心の中で喋るな……)
「剣がダメならなんだって?」

 ラルドは剣をおさめると、右手に力を込めた。すると、ボウという音とともに火がともった。その火をカタラに向けて放った。

「はああ!」
「なっ、呪文か。ウルフ、受け止めろ」
「がるぅ……」

 火の玉をウルフが受け止めると、少し苦しそうな声をあげながらかき消した。

「くそっ、呪文もダメか」
「ラルド、後ろを見てみろ」

 ラルドはそう言われると後ろを見た。すると、エメが倒れていた。しゃがんで息があるか確認する。

「エメ、大丈夫か!」
「……」
「安心してください。気絶させただけですから」
「お前の相棒は動けなくなった。一人でも戦うか?」

 しばらくの沈黙の後、ラルドが口を開いた。

「……まだだ。意識ある限り、一人でも戦う」

 ラルドは立ち上がると、もう一度剣をかまえた。完全に包囲されている状態。勝ち目はないだろうに、未だ諦めない。

「勇気だけはいっちょまえだな。だけど、お前も終わりだ」
「なにぃ?」
「フン!」
「があ! う、ううぅ……」

 ラルドは後頭部を何者かに殴られ、気絶した。

「ザメちゃん、可愛い顔して恐ろしいことするな」
「サトリは戦えないから、私が強くなくちゃね」
「さて、みんな、こいつらを村へ運ぶぞ」

 気絶したラルドとエメをおんぶすると、サフィア捜索隊は村へと戻っていった。
 二人が運ばれていく様子を、レイフは二階の窓から見ていた。

「ラルド君、捕まっちまったか。途中でイラついて会話を切っちゃったのが悪かったかな……」
「レイフさん、そんなに気を落とさないでください。あの二人ならなんとかなりますよ」
「キャイ……ありがとうな」


 ……ド、……ルド!
(なんか、声が聞こえるな……。僕は確か、あいつらと戦って、それで……)
「ラルド! 起きろ!」
「……はっ。エメの声だったのか。それで、ここはどこなんだ?」
「わからない。俺が目覚めたときには既にここにいた」
鉄格子てつごうしがあるってことは、ここは牢か……? ツカイ村にこんな場所があったなんて。どこかに抜け道はないかな」

 ラルドは周りを見渡す。壁や床や天井は土でできているが、かなり硬い土で掘れそうにない。鉄格子を火の呪文で溶かそうとするも、全く反応がない。

「んー、ここからは出られそうにないな。カバンも剣も全部無くなってるし……」
「なあラルド。キャイを呼んでみたらどうだ? あいつならこの隙間、通り抜けられるだろう? 鍵を持ってきてもらえばいいんだ」
「そうだな、ちょっと呼んでみるか」

 ラルドは息を深く吸うと、キャイを召喚しようとした。

「いでよ! キャイ!」
「うぃーん、キャイを召喚します」
「せ、成功か!」

 床に魔法陣が現れ、キャイが召喚された。

「おや、誰かと思ったらあなたたちか。私に何か用か?」
「すまないが、ここを開ける鍵を見つけてきてくれないか? 僕たち結局捕まっちゃって閉じ込められてるんだ」
「ふーん。良いわよ、探してくる。鍵の場所は心当たりあるかい?」
「いや、全くない。多分、誰かが持ってるかその辺にかけられてるか……」
「わかった。なんとか見つけられるよう努力するよ」
「ありがとう。ついでに僕のカバンと剣も見つけてくれると嬉しい。さあ、行ってきてくれ」

 キャイは鉄格子の隙間から牢を抜けると、鍵カバン剣を探しに駆けだしていった。

「よしエメ、ここからの脱出計画を……」
「ぐがー……ぐがーー……」
「おい、寝るなよ。寝てる余裕なんかないぞ」
「果報は寝て待てって言うだろ? 脱出の計画なんかしてたってしょうがない」
「確かに僕たち、あれから一睡もしてないもんな、気絶はしてたけど。寝ちゃうのもありか」

 ラルドは横になり、目をつむった。

(うーん、目をつむったのは良いけど、全然眠れないな……。気絶してる内に眠気が吹き飛んだのか?)
「ぐー、ぐー」
(エメはよく眠れるよな。羨ましい)

 ラルドがエメを見つめていると、何やら足音が響いた。牢の外を覗くと、キャイが走って戻ってきていた。

「キャイ、鍵とかが見つかったのか?」
「しー! 今は隠れさせて」
「誰か来るのか?」
「あなたの父親が来るわよ」
「父さんが……? 説教でもしてくるのかな」

 それからすぐに別の足音が聞こえてくる。その足音の主が父親であろうとラルドは考えた。少しずつ音が近づいてくる。やがて牢の前にルビーが立った。

「よう、ラルド。置き手紙、読ませてもらったぞ」
「父さん……僕に姉さん捜索を任せてください」
「無理だ。サフィアが見つかるまでここからは出さない。俺も本当はこんな事したくないんだがな」
「母さんはなんて言ってるんだ?」
「俺と同意見だ。もう最弱なんて言わないから、家にいてくれってな」
「わかった、姉さんが見つかるまでここにいるよ。その代わり、飯とか寝具とかは用意してほしい」
「お前にしては珍しく素直じゃないか。いいだろう、今から寝具を持ってくるよ」
「ありがとう、父さん」

 ルビーは寝具を取りに外へと歩いていった。足音が聞こえなくなった瞬間、キャイはラルドの後ろから前へ移動した。

「さて、私はもう必要ないかな」
「ちょっと待ってくれ。鍵とかは見つけてくれたか?」
「見つからなかったわ。でもあなた、牢で大人しくするんじゃないのかい?」
「どうせ何を言っても父さんは聞かないからああ言ったんだ。本当はここから一秒でも早く抜け出したい」
「それなら大丈夫よ。明日には一時的だけど外に出られるからね」
「どういうことだ?」
「まあ、明日を楽しみにしていなさい。あ、カバンと剣はあなたの部屋に置いてあったわよ。外に出たらついでにそれも回収しなさい」
「そうか。色々ありがとうな」
「どういたしまして。じゃあ、私はこれで帰らせてもらうわよ」
「じゃあな」

 キャイは魔法陣に乗り、レイフの家へと帰っていった。
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