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第三章 ウスト遺跡編

第四十七話 ダイヤ

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「おぉ、ラルドとその仲間たち、帰ってきたか。オークたちのおかげで、ここもようやく平和が戻ったぞ。ありがとう」

 ウスト遺跡へと降りた一行がダイヤに話しかけられる。今でもオークが人間たちが入ってくることを防いでいる。

「どういたしまして。それよりダイヤ、お前のくれた情報が間違ってた。古代文明ウスト王国は決して平和なんかじゃなかった」
「どういうことだ?」
「実は「ラルド君、その話を漏らしたらダメよ!」

 ラルドはジシャンに口をふさがれる。ラルドは自分のしたことで恐怖を覚え、冷や汗を垂れ流す。

「そうぞうしん様が見てなかったら良いけど……」
「しかし、その話、気になるな。創造神に話を聞けるよう許可をもらいに行こう」
「でも、お前、外に出られないんじゃないのか?」
「そうだ。だから、お前に行ってもらう」
「えぇ、そのためだけに引き返すのは……」

 ラルドが渋っていると、コンパスから声が聞こえた。ラルドは慌ててコンパスをカバンから取り出した。

「ラルド君、聞こえますか?」
「その声は、そうぞうしん様ですか?」
「はい、そうです。そのコンパスには、私が地上を見ることが出来るように細工をしてあります。会話までばっちり聞こえていますよ」
「はっ、てことは、さっきのも……」
「はい。バッチリ聞きました」
「す、すみません! うっかり口を滑らせてしまって……」
「ラルド君、彼になら、私の話したことを伝えてもよろしいですよ。ただし、絶対に他の者には伝えないよう、釘をさしておいてくださいね」
「……はい! ありがとうございます」

 声のしなくなったコンパスを、ラルドはカバンにしまった。

「ということだ。僕たちがそうぞうしん様から訊いたことを話す」
「おう、教えてくれ」

 ラルドは古代のウスト王国は決して平和ではなく、戦争をしていたことをダイヤに伝えた。そして、戦争を見て世界を破壊しようとしたのは破壊神だということも伝えた。

「そうか。俺には平和だったと書き込まれているけどな。まあ、創造神がそう言うなら間違いはないだろう。それか、中央部は争いが起こっているとは思えないほど平和だったのか……」
「はかいしんについては何の言及もなしか?」
「俺に書き込まれたデータによれば、暗雲だったそうだ。それを破壊神として認識できたのは当時の奴らにはいなかったってことだな。まったく、あの美しいウスト王国を滅ぼしやがって」

 憎しみにダイヤの顔は歪む。と言っても、顔のパーツは目しかないが。

「話したいことはこれで終わりだ。ダイヤの方から言っておくことはあるか?」
「うーむそうだな……俺が機械だって話は訊いたか?」
「機械……ポロッとそうぞうしん様が言ってたな。一体機械ってなんなんだ?」
「まあ簡単に言えば新生物だな。動力源は飯ではなく、別の物だ。あまり深く説明しても理解できないだろうから、これくらいで終わりだ」
「頭割れたりするのも機械だからなのか?」
「そうだな。内部には何種類ものパーツがあって、自由に出し入れ出来るようになってる。もっとも、そのパーツはお前たちが全部外してしまったみたいだがな」

 ダイヤは不満そうに頭を開き、何もない頭の中を晒す。

「でもダイヤ、僕たちが風の刃で斬ろうとしたときに再生してたよな? 今でも出来るんじゃないか?」
「やろうと思えば出来る。だけど、今は武器が必要ないから、これで良い。またお前たちと戦うのも面倒だしな。まだ訊きたいことはあるか?」
「そういえば、ダイヤが起きる前に人格システムがどうとか、一時停止しますとかのアナウンスが君の中から聞こえた。あれも機械ゆえのことなのか?」
「そうだな。俺は機械の中で唯一人格が入っているんだ」
「人格が、入ってる……?」
「まあ、これを理解するのは今の文明が俺たちのラインまで進んできたときだ。機械の説明って、意外と面倒くさいんだよ。理解されないから」
「そうか。じゃあ、とりあえずこの件は解決だな。さて、本題に入ろう。姉さんのいる場所はっと……」

 ラルドはカバンからもう一度コンパスを取り出し、さし示している方向を見た。すると、紋章のある岩の方に向いていた。一行はその岩に近づき、もう一度コンパスを見る。やはりさし示す場所は変わっていない。

「この岩の中に姉さんがいるってことか……?」
「まさか。この岩を見たあいつは別の場所に向かったさ。中に入るなんてことしてねーよ」
「でも、コンパスを信じるなら本当にこの中に姉さんがいることになるぞ。コンパスも壊れてるようには見えないし」

 ラルドは岩の周りを歩く。いつでもコンパスは岩の方をさしている。疑問が思い浮かび、ラルドはダイヤにたずねた。

「そもそもこの岩は一体なんなんだ? 前に宝だと言っていたが」
「俺の記憶にはないな。あるいはかき消されたか。その紋章がウスト王国の紋章であることはわかるが、何かのパワーがあるのかはわからない」
「そうぞうしん様に訊いてみるか」

 ラルドはコンパスに向かって創造神を呼んだ。しかし、反応がない。何度も繰り返し呼ぶが、反応がない。

「ラルド君、きっとそうぞうしん様も忙しいのよ。この岩に秘められたことは自分たちの力で見つけ出しましょう」
「そうですか。でも、滅ぼされた文明の本がまだ残ってるとは思えません」
「あのスーパーノヴァについて記された本になら載ってないかしら?」
「女、載ってねぇよ。スーパーノヴァなんか、現代の文明でも十分発見できる呪文だ。古代文明の呪文をなめてもらっては困る」
「別になめてるわけじゃないわよ」
「良いか? 俺たちの文明はな……ああ、この話は長くなるからやめておこう」
「うーん、完全に詰まったな……せめてダイヤの記憶力が良ければ……そうだ。ひらめいた」
「どうしたんだ? ラルド」
「君の夢の世界に行けば良い。夢の中は何でもありだ。きっとダイヤが忘れてることも夢の世界でなら確認出来るはずだ」
「そう上手くいくもんかな。まあ、やってみる価値はありそうだが」
「そうと決まれば早速夢の世界に行こう。エメ、眠くないときでも寝られる方法を教えてくれ」
「久しぶりに俺が活躍出来るか。ダイヤ、ラルド、今からすぐに寝られる方法を教えてやるから、どこかに横になってくれ」

 ダイヤとラルドは言われるがままに横になった。

「ところで、お前は他人の夢の世界に入れるのか?」
「多分入れない。だからダイヤから僕を自分の夢の世界に連れていってくれ」
「俺の夢の中はお前のように安定した世界が広がってるわけびゃないぞ。それに耐えられるか?」
「夢で自由に動ける方法を知ってる。だから大丈夫だ。仮に魔王みたいなのがいたとしてもどうにかなる」
「そうか。それじゃあ、エメと言ったか、始めてくれ」
「まずはこれを見つめるんだ。見てるうちに眠りにつくことが出来るぞ」

 エメはポケットから輪っかに紐を通した物を取り出し、二人の眼前で振る。次第に二人の目が閉じかかってきた。

「ほーれ。お前たちはどんどん眠くなーるなーる……」

 そうして、かなり早く二人を眠りにつかせた。

「流石睡眠のスペシャリスト。他人を眠らせることも出来るなんてな」
「途中で目覚めないと良いけれど……」
「俺の催眠は簡単には解けない。何か大きな音がたたなければずっと夢の世界にいることが出来る。もちろん、本人たちの意志で目覚めることも出来るし、俺の方から起こすことも出来る。ずっと眠りっぱなしじゃ危ないからな」
「それじゃあ、二人が安心して夢の世界を動けるように大きな音を鳴らさないようにしなくちゃな」

 一行は眠る二人のために、四方に散らばり守り始めた。
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