4 / 20
それは僕なのかそれとも他人なのか
しおりを挟む
僕は体を無数のコウモリに変えて逃走を試みる。
人間たちは、何やらぶつくさと呟くだけで空に大きな網を張って僕の逃走を阻む。
網に触れた僕は強制的にその体をひとつに戻して走って逃げる。
回り込まれたせいで、その先は僕たちが住んでいた集落だ。ヤツらが火を放って仲間を生きながらに焼き殺した集落だ。
くそっ、なんで、なんで僕は殺される立場になっているっ。
僕は人間だろ。日本ていう国で生まれ育った平和に溺れた人間だろ。
大きなマントもズタズタ。上等そうな服も破れて穴が空いて、その周りを血の赤が染め上げている。
まさに瀕死。なのに、全快。
死に体とも見える僕だが、吸血鬼らしく夜は元気いっぱいらしい。
相手も隠れながら襲うのはやめたようだ。そんな姿の吸血鬼が脚を震わせながら、走るのもやっとといった逃げっぷりなのだから。
燃え盛る炎が熱い。山々の稜線が白くその輪郭をあらわにしていく。
夜明けだ。
人間たちが、僕を追い詰めようと炎の集落に突入してくる。
僕はつまづいて転び、アイツに馬乗りで拘束される。
肩、手のひら、腕、鎖骨、脇腹、太もも、足。
僕を地面に縫い付けた杭は、周りの人間たちも協力してあっという間に打ちつけられていた。
「こうやって、仲間を……」
「おうよ。化け物の最後には悪くねえだろうよ」
僕が動けないことを確認したエセ聖職者は、直径20cmほどの銀の杭を僕の心臓がある辺りに浮かべた。
「なぜって思ったか?俺が手を離した場所に固定できるアーティファクトだ。最後の一体は朝日で焼きながらじっくりと押し込んでいってやろうと思ってな」
「鬼畜か」
大笑いしてご機嫌なエセ聖職者の笑みは歪んでいる。
ソイツだけじゃない。僕を取り囲む人間たちの顔が、全部。
「おっ、お天道様のお出ましだ。んんー、化け物の肌を見ろよ。焼け爛れてどんどん焦げていくぜ」
身を焦がす朝日を僕は一生忘れないだろう。もしかしたら初日の出なんてのも来年からは見ないかもしれない。
「おらっ、おら、痛いか? 泣け、喚けっ!」
「ぐうっ、ごぼっ」
エセ聖職者が僕を見下ろしながら杭を踏みつけていく。確実にめり込んでいく先端に、圧迫されるような不快感を覚える。
「死ねっ死ねっ死ねっ!」
人間たちの大合唱。青く澄んだ空が遠い。炎で血でどんなに地上を赤く染めても、まだまだ青い。
「なぜ、僕たちを──」
「嘆願書とかなんとか、ありゃあ嘘だ。コイツらを扇動して俺が愉しめる。そういう祭なんだわ、これ」
お互いに接点を失くした人間と吸血鬼は混ざり合うことなく二百年ほどを過ごしていた。
にも関わらずこうして終わりを迎えたのは、このエセ聖職者の享楽のためだったらしい。
「ああ、なるほど──」
「そうだ。だからお前は、絶望して、死ね」
これで満足らしい。エセ聖職者は大きく脚を上げて杭を、踏み抜いた。
響く大絶叫。僕の、断末魔らしい。どうなっているのか、連動しているらしい他の杭も僕により深く刺さり、杭の中心から裂けて僕の五体を弾けさせる。
噴き上がる血しぶきも僕の体もまとめて太陽が焦がして霧のように広がり後には狂気に染まった人間たちだけが立っていた。
人間たちは、何やらぶつくさと呟くだけで空に大きな網を張って僕の逃走を阻む。
網に触れた僕は強制的にその体をひとつに戻して走って逃げる。
回り込まれたせいで、その先は僕たちが住んでいた集落だ。ヤツらが火を放って仲間を生きながらに焼き殺した集落だ。
くそっ、なんで、なんで僕は殺される立場になっているっ。
僕は人間だろ。日本ていう国で生まれ育った平和に溺れた人間だろ。
大きなマントもズタズタ。上等そうな服も破れて穴が空いて、その周りを血の赤が染め上げている。
まさに瀕死。なのに、全快。
死に体とも見える僕だが、吸血鬼らしく夜は元気いっぱいらしい。
相手も隠れながら襲うのはやめたようだ。そんな姿の吸血鬼が脚を震わせながら、走るのもやっとといった逃げっぷりなのだから。
燃え盛る炎が熱い。山々の稜線が白くその輪郭をあらわにしていく。
夜明けだ。
人間たちが、僕を追い詰めようと炎の集落に突入してくる。
僕はつまづいて転び、アイツに馬乗りで拘束される。
肩、手のひら、腕、鎖骨、脇腹、太もも、足。
僕を地面に縫い付けた杭は、周りの人間たちも協力してあっという間に打ちつけられていた。
「こうやって、仲間を……」
「おうよ。化け物の最後には悪くねえだろうよ」
僕が動けないことを確認したエセ聖職者は、直径20cmほどの銀の杭を僕の心臓がある辺りに浮かべた。
「なぜって思ったか?俺が手を離した場所に固定できるアーティファクトだ。最後の一体は朝日で焼きながらじっくりと押し込んでいってやろうと思ってな」
「鬼畜か」
大笑いしてご機嫌なエセ聖職者の笑みは歪んでいる。
ソイツだけじゃない。僕を取り囲む人間たちの顔が、全部。
「おっ、お天道様のお出ましだ。んんー、化け物の肌を見ろよ。焼け爛れてどんどん焦げていくぜ」
身を焦がす朝日を僕は一生忘れないだろう。もしかしたら初日の出なんてのも来年からは見ないかもしれない。
「おらっ、おら、痛いか? 泣け、喚けっ!」
「ぐうっ、ごぼっ」
エセ聖職者が僕を見下ろしながら杭を踏みつけていく。確実にめり込んでいく先端に、圧迫されるような不快感を覚える。
「死ねっ死ねっ死ねっ!」
人間たちの大合唱。青く澄んだ空が遠い。炎で血でどんなに地上を赤く染めても、まだまだ青い。
「なぜ、僕たちを──」
「嘆願書とかなんとか、ありゃあ嘘だ。コイツらを扇動して俺が愉しめる。そういう祭なんだわ、これ」
お互いに接点を失くした人間と吸血鬼は混ざり合うことなく二百年ほどを過ごしていた。
にも関わらずこうして終わりを迎えたのは、このエセ聖職者の享楽のためだったらしい。
「ああ、なるほど──」
「そうだ。だからお前は、絶望して、死ね」
これで満足らしい。エセ聖職者は大きく脚を上げて杭を、踏み抜いた。
響く大絶叫。僕の、断末魔らしい。どうなっているのか、連動しているらしい他の杭も僕により深く刺さり、杭の中心から裂けて僕の五体を弾けさせる。
噴き上がる血しぶきも僕の体もまとめて太陽が焦がして霧のように広がり後には狂気に染まった人間たちだけが立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる