僕が「可愛い」と言うと彼女はとても喜ぶんだ 〜難民対策課で働く僕の職場は異世界〜

たまぞう

文字の大きさ
10 / 20

非日常をもういちど

しおりを挟む
「喜べ健太郎、仕事だ」
「とうとう来たのかって感じしかねえよ」

 握手会の日から2日。僕は奄美の呼び出しで例の雑居ビル内のオフィスに訪れていた。

「他は出払っているからな。俺もこないだやったばかりだし、ここは健太郎に譲ろうと思ってな」
「はいはい。また……人助け?」
「その、まただ」

 前回は「人間に襲われているが、せっかく築いた友好関係を壊したくなくて、されるがままに破滅を間近に控えた吸血鬼たちの集落」を助ける仕事だった。今回はいったい?

「ハーフリングってのを知っているかい?」
「ハーフ?親が──」
「ちがう」
「……」

 こいつは。

「ようは、こびとさんだ。そのこびとさんの、ハーフリングが危機に瀕している。助けてやってくれないか」
「──また断れないやつ、だろ?」
「そう、その断れないやつさ」

 こいつは、奄美は俺の認識の確認も踏まえて言っているのだろう。今どきの若者みたいな恰好で、茶色の頭をツーブロックにした男は、僕のこの仕事の先輩で、巻き込んだ張本人だ。

「じゃあ今回の仕事について分かっていることを──」
「それよりも、さ。健太郎のここしばらくで変わった事とかない?」
「は?変わったことって……何もだぞ?」
「そうなのか?こんなに暇してたはずなのに、彼女のひとりも──」
「やかまし」

 俺の容姿は奄美と違って普通。いや、それも見栄を張ったな。普通よりも劣る。

 学生の頃であれば、下から数えたほうが早いくらいには劣っている。

「──けどそれは現代日本の美的センスに照らし合わせてこそでっ」
「何をひとりで狼狽えてるのさ」

 奄美のようないかにもなイケメンなら、どんな服装だろうが彼女に事欠くなんてこともないだろう。

 そういや高校の頃に関わりのなかった理由もそれだ。彼女を取っ替え引っ替え好き勝手俺様をやっていた奄美と、教室の隅で息を潜めていたような僕との人生が交わるわけもない。

「ん?だとするとなんで奄美は──」
「前にっ。前に言ってたアイドルはどうなんだよ」

 僕の、しょうもない質問を察知したのか、奄美は遮って話題を変える。けどその話題も別にアイドルなんて。

「ちとせちゃん、のこと?」
「なんで呼び方変わってんの。ははあ……さてはハマったな?」
「ぐぅっ……」

 ハマったかどうかは分からない。もしかしたら良いものかもと思った矢先に呼び出したのは奄美なんだから。

 思えば僕のような非モテだからこそ、アイドルにハマっても良いのかもしれない。

「何をぶつぶつ言ってんだ?」
「おっと、声に出てた?」

 それから少し桃里ちとせちゃんのことを話して、ドン引きされたりして、いよいよ仕事の話だ。

「知れば口外無用。この世界で漏らせばお前も、知った人間もただでは済まない」
「だから拉致られて、無理矢理仲間にされたんだもんな」
「──人員が減ったから補充の役目を負ってたんだ。すまない……」

 奄美は目覚めた僕に説明をしてくれていた。人員は常に7人。それらは番号で管理され、この仕事に就いている間は変わることはないそうだ。

「──国の、極秘事業だ。俺たちにはやるしか選択肢はない」

 僕は奄美が真面目くさった顔で謝罪の言葉を口にするのを見て、彼もまた──巻き込まれたひとりなのだろうと察した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...