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非日常をもういちど
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「喜べ健太郎、仕事だ」
「とうとう来たのかって感じしかねえよ」
握手会の日から2日。僕は奄美の呼び出しで例の雑居ビル内のオフィスに訪れていた。
「他は出払っているからな。俺もこないだやったばかりだし、ここは健太郎に譲ろうと思ってな」
「はいはい。また……人助け?」
「その、まただ」
前回は「人間に襲われているが、せっかく築いた友好関係を壊したくなくて、されるがままに破滅を間近に控えた吸血鬼たちの集落」を助ける仕事だった。今回はいったい?
「ハーフリングってのを知っているかい?」
「ハーフ?親が──」
「ちがう」
「……」
こいつは。
「ようは、こびとさんだ。そのこびとさんの、ハーフリングが危機に瀕している。助けてやってくれないか」
「──また断れないやつ、だろ?」
「そう、その断れないやつさ」
こいつは、奄美は俺の認識の確認も踏まえて言っているのだろう。今どきの若者みたいな恰好で、茶色の頭をツーブロックにした男は、僕のこの仕事の先輩で、巻き込んだ張本人だ。
「じゃあ今回の仕事について分かっていることを──」
「それよりも、さ。健太郎のここしばらくで変わった事とかない?」
「は?変わったことって……何もだぞ?」
「そうなのか?こんなに暇してたはずなのに、彼女のひとりも──」
「やかまし」
俺の容姿は奄美と違って普通。いや、それも見栄を張ったな。普通よりも劣る。
学生の頃であれば、下から数えたほうが早いくらいには劣っている。
「──けどそれは現代日本の美的センスに照らし合わせてこそでっ」
「何をひとりで狼狽えてるのさ」
奄美のようないかにもなイケメンなら、どんな服装だろうが彼女に事欠くなんてこともないだろう。
そういや高校の頃に関わりのなかった理由もそれだ。彼女を取っ替え引っ替え好き勝手俺様をやっていた奄美と、教室の隅で息を潜めていたような僕との人生が交わるわけもない。
「ん?だとするとなんで奄美は──」
「前にっ。前に言ってたアイドルはどうなんだよ」
僕の、しょうもない質問を察知したのか、奄美は遮って話題を変える。けどその話題も別にアイドルなんて。
「ちとせちゃん、のこと?」
「なんで呼び方変わってんの。ははあ……さてはハマったな?」
「ぐぅっ……」
ハマったかどうかは分からない。もしかしたら良いものかもと思った矢先に呼び出したのは奄美なんだから。
思えば僕のような非モテだからこそ、アイドルにハマっても良いのかもしれない。
「何をぶつぶつ言ってんだ?」
「おっと、声に出てた?」
それから少し桃里ちとせちゃんのことを話して、ドン引きされたりして、いよいよ仕事の話だ。
「知れば口外無用。この世界で漏らせばお前も、知った人間もただでは済まない」
「だから拉致られて、無理矢理仲間にされたんだもんな」
「──人員が減ったから補充の役目を負ってたんだ。すまない……」
奄美は目覚めた僕に説明をしてくれていた。人員は常に7人。それらは番号で管理され、この仕事に就いている間は変わることはないそうだ。
「──国の、極秘事業だ。俺たちにはやるしか選択肢はない」
僕は奄美が真面目くさった顔で謝罪の言葉を口にするのを見て、彼もまた──巻き込まれたひとりなのだろうと察した。
「とうとう来たのかって感じしかねえよ」
握手会の日から2日。僕は奄美の呼び出しで例の雑居ビル内のオフィスに訪れていた。
「他は出払っているからな。俺もこないだやったばかりだし、ここは健太郎に譲ろうと思ってな」
「はいはい。また……人助け?」
「その、まただ」
前回は「人間に襲われているが、せっかく築いた友好関係を壊したくなくて、されるがままに破滅を間近に控えた吸血鬼たちの集落」を助ける仕事だった。今回はいったい?
「ハーフリングってのを知っているかい?」
「ハーフ?親が──」
「ちがう」
「……」
こいつは。
「ようは、こびとさんだ。そのこびとさんの、ハーフリングが危機に瀕している。助けてやってくれないか」
「──また断れないやつ、だろ?」
「そう、その断れないやつさ」
こいつは、奄美は俺の認識の確認も踏まえて言っているのだろう。今どきの若者みたいな恰好で、茶色の頭をツーブロックにした男は、僕のこの仕事の先輩で、巻き込んだ張本人だ。
「じゃあ今回の仕事について分かっていることを──」
「それよりも、さ。健太郎のここしばらくで変わった事とかない?」
「は?変わったことって……何もだぞ?」
「そうなのか?こんなに暇してたはずなのに、彼女のひとりも──」
「やかまし」
俺の容姿は奄美と違って普通。いや、それも見栄を張ったな。普通よりも劣る。
学生の頃であれば、下から数えたほうが早いくらいには劣っている。
「──けどそれは現代日本の美的センスに照らし合わせてこそでっ」
「何をひとりで狼狽えてるのさ」
奄美のようないかにもなイケメンなら、どんな服装だろうが彼女に事欠くなんてこともないだろう。
そういや高校の頃に関わりのなかった理由もそれだ。彼女を取っ替え引っ替え好き勝手俺様をやっていた奄美と、教室の隅で息を潜めていたような僕との人生が交わるわけもない。
「ん?だとするとなんで奄美は──」
「前にっ。前に言ってたアイドルはどうなんだよ」
僕の、しょうもない質問を察知したのか、奄美は遮って話題を変える。けどその話題も別にアイドルなんて。
「ちとせちゃん、のこと?」
「なんで呼び方変わってんの。ははあ……さてはハマったな?」
「ぐぅっ……」
ハマったかどうかは分からない。もしかしたら良いものかもと思った矢先に呼び出したのは奄美なんだから。
思えば僕のような非モテだからこそ、アイドルにハマっても良いのかもしれない。
「何をぶつぶつ言ってんだ?」
「おっと、声に出てた?」
それから少し桃里ちとせちゃんのことを話して、ドン引きされたりして、いよいよ仕事の話だ。
「知れば口外無用。この世界で漏らせばお前も、知った人間もただでは済まない」
「だから拉致られて、無理矢理仲間にされたんだもんな」
「──人員が減ったから補充の役目を負ってたんだ。すまない……」
奄美は目覚めた僕に説明をしてくれていた。人員は常に7人。それらは番号で管理され、この仕事に就いている間は変わることはないそうだ。
「──国の、極秘事業だ。俺たちにはやるしか選択肢はない」
僕は奄美が真面目くさった顔で謝罪の言葉を口にするのを見て、彼もまた──巻き込まれたひとりなのだろうと察した。
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