13 / 20
ひとだけの街
しおりを挟む
空が茜色に染まるころに彼女は目を覚ました。
「ん……おはよう」
「──おはよう」
エリーの頭を撫でる手を止めて、僕はカチコチに固まってしまう。無防備な女の子に対してそんなことをする奴とバレたら警察を呼ばれるかもしれないからだ。
「綺麗な空……でももう帰る時間だなあ。もう少し寝たふりしておきたかったけど」
バレていた。というより騙されていた。なんという悪女か。
「ミャーはこの街に住んでいるの?」
「いや、その……」
僕は彼女のおかげで、おそらく怪しまれることなくハーフリングとしてこの街の人々を観察出来ていた。
だからこそ、彼女の質問は当然であり嘘をつく余地は無いのだろうとも思えたんだ。
「そうだよね。ここはヒューマンの街、だものね」
「そういうこと」
そう、そういうこと。エリーの頭を撫でていた僕はただ撫でていただけじゃない。たまにそのいい香りを嗅ぎながらも街行く人々を観察して、僕たちの他にハーフリングを見かけないどころか、ヒューマン──人間らしき種族以外を見ていない。
まるで、僕たちだけが見知らぬ世界に迷い込んだ小人のようであったのだ。
「でもミャーがこの街に住んでなくて良かった。わたしだけで、良かった」
「それってどういう──?」
「ううん、ただのひとりごと。ミャーはちゃんと帰るんだよ?道はわかる?」
「えっと……」
道、帰る。それはつまりハーフリングの住む場所はここではないということだろう。
答えに窮した僕は顔を上げてエリーの言葉を引き出そうと何かを言おうとした。
──したはずだけど、夜の訪れを予感させる夕日に照らされたエリーは、さっきまでの子どもを思わせるような彼女とはどこか別人のようで、きっと情け無い顔をしていたであろう僕にお姉さんのようにハーフリングの街への道のりを教えてくれた。
「人間の街、広すぎ」
僕の提げていたポーチにはいくらかの硬貨が入っていて、エリーの勧めの通りに馬車を乗り継ぎやっと街の外までたどり着いたときには日が暮れていた。
──夜になってもこの街にいたら出られなくなるから
エリーはそう言っていたからこんな時間にも関わらず僕は外に出てきたけど……なるほど、分厚い外壁にポッカリと開いた門はそろそろ閉められる時間のようだ。
「ん?ホテルとかなかったのかな?」
少し古めな洋風の建物が建ち並ぶ街で宿泊施設があってもおかしくはない。異世界の常識なんてのは知らないけど、それでも現代日本でもそうであるように夜中に灯りも持たずに野山を彷徨うのは普通ではないと思いたい。
しかし僕が思考に耽っているあいだに、街は重い音を立てて外界との門を閉ざしてしまった。
「ん……おはよう」
「──おはよう」
エリーの頭を撫でる手を止めて、僕はカチコチに固まってしまう。無防備な女の子に対してそんなことをする奴とバレたら警察を呼ばれるかもしれないからだ。
「綺麗な空……でももう帰る時間だなあ。もう少し寝たふりしておきたかったけど」
バレていた。というより騙されていた。なんという悪女か。
「ミャーはこの街に住んでいるの?」
「いや、その……」
僕は彼女のおかげで、おそらく怪しまれることなくハーフリングとしてこの街の人々を観察出来ていた。
だからこそ、彼女の質問は当然であり嘘をつく余地は無いのだろうとも思えたんだ。
「そうだよね。ここはヒューマンの街、だものね」
「そういうこと」
そう、そういうこと。エリーの頭を撫でていた僕はただ撫でていただけじゃない。たまにそのいい香りを嗅ぎながらも街行く人々を観察して、僕たちの他にハーフリングを見かけないどころか、ヒューマン──人間らしき種族以外を見ていない。
まるで、僕たちだけが見知らぬ世界に迷い込んだ小人のようであったのだ。
「でもミャーがこの街に住んでなくて良かった。わたしだけで、良かった」
「それってどういう──?」
「ううん、ただのひとりごと。ミャーはちゃんと帰るんだよ?道はわかる?」
「えっと……」
道、帰る。それはつまりハーフリングの住む場所はここではないということだろう。
答えに窮した僕は顔を上げてエリーの言葉を引き出そうと何かを言おうとした。
──したはずだけど、夜の訪れを予感させる夕日に照らされたエリーは、さっきまでの子どもを思わせるような彼女とはどこか別人のようで、きっと情け無い顔をしていたであろう僕にお姉さんのようにハーフリングの街への道のりを教えてくれた。
「人間の街、広すぎ」
僕の提げていたポーチにはいくらかの硬貨が入っていて、エリーの勧めの通りに馬車を乗り継ぎやっと街の外までたどり着いたときには日が暮れていた。
──夜になってもこの街にいたら出られなくなるから
エリーはそう言っていたからこんな時間にも関わらず僕は外に出てきたけど……なるほど、分厚い外壁にポッカリと開いた門はそろそろ閉められる時間のようだ。
「ん?ホテルとかなかったのかな?」
少し古めな洋風の建物が建ち並ぶ街で宿泊施設があってもおかしくはない。異世界の常識なんてのは知らないけど、それでも現代日本でもそうであるように夜中に灯りも持たずに野山を彷徨うのは普通ではないと思いたい。
しかし僕が思考に耽っているあいだに、街は重い音を立てて外界との門を閉ざしてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる