僕が「可愛い」と言うと彼女はとても喜ぶんだ 〜難民対策課で働く僕の職場は異世界〜

たまぞう

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ひとりとひとり

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「え、あ……」

 なんとなく何もないところに腰を下ろすよりは、と木の下を選んだわけだけど、不味かったのだろうか。それよりも彼女の見た目は──。

「ここ、わたしの家の畑なんだけど」
「ええっ、この荒地が……あ、ごめんなさい」

 どう見ても作物も植わっていない、荒れ放題な地面はこの人の敷地だったらしい。跳び上がるように立った僕は、この街に来たばかりのほぼ余所者であるとかなんとか見苦しい言い訳を交えて謝るばかりだ。

 その中で、彼女はエリーによく似てはいるが、エリーではない誰か知らない人という認識になった。

「──ふふっ。荒地は、確かにそうだもの。でも他所から来たハーフリング、ね。住むところもない……?」
「ホテルでもあれば、とは思うんですけど」
「……ホテル?」

 その金すらない。よくよく考えればこの街に入れたことさえ幸運だったのかもしれない。人間の街には入ることさえ出来ない貧乏人だったんだから。

「いいわ、うちへおいで。ちょうど部屋もひとつ余っていることだし」
「え?いや、そういうわけには。親御さんとかも、ねえ?」

 などと言いつつ、僕は彼女がハーフリングでは大人なのだと思い出して、また失言だと気づく。

「もう、身寄りはないから大丈夫よ」

 どうやらそれ以上に良くない発言だったらしい。



 エリーに似た誰かに連れられて入った家は当然として荒地に隣接した建物だけど、一瞬彼女から感じた哀愁とは違い、屋内は綺麗なものだった。

 ダイニングキッチンに、奥には部屋がふたつだろうか。

「お風呂とトイレは節水に協力してね」
「あ、あるんだ」
「あるわよ。どんな家を想像してたのよ」
「それは、まあ──」

 街の状況からして、てっきり誰も水が手に入らないものだと、トイレはボットンに風呂は濡れタオルだけかと想像していた。なんとも酷い話だ。

「気になってたんだけど、その袋ってなに?」
「ああ、いい加減重いし出して並べてもいいかな?」
「ええ」

 あの旅人たちの親切心は小さな僕には重過ぎた。物理的に。中身を確認することもしなかった僕だけど、机に並べながらどうやら生肉やらは入ってないらしいことに安堵する。

「これで最後、と」
「ずいぶんとまあ──」

 彼女が驚く声に改めてテーブルの上を眺める。

 うん、途中からおかしいなとは思っていた。主に果物に混じって何やら液体の入ったような小さな樽まで出てきたのもそうだけど、袋のサイズと出した中身の量は絶対に合わない。

「なんだこの袋……」
「マジックバッグでしょ? それよりも──」

 どうやら袋の方は大したことないらしい。異世界ってこれが普通なのだろうか。

「水……」
「うん、水だね」

 彼女は樽の中身が気になったらしい。それもそうだ。どう考えても、水不足のこの街で20リットルは下らない量の水だ。

「よく襲われなかったわね」
「いまその危機感を覚えているんだけど」
「なぜ」
「そりゃあ──」

 目の前の、知り合いによく似た別人とはいえ、この街の住人に。

「ふふ、わたしは──まあ、その心配はないわよ」
「どうだか」

 笑顔の彼女と疑う僕。どうやら油断のならない夜になりそうだ。
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