僕が「可愛い」と言うと彼女はとても喜ぶんだ 〜難民対策課で働く僕の職場は異世界〜

たまぞう

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異文化交流ってこんななのかな

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 僕は、背後から聞こえてきた声に、体の動かし方を忘れたみたいに棒立ちに固まって動けない。

「服も脱がないで入ったから、やっぱり生き方ちがったんだろうなって思ってさ。服、外に置いとくね」

 ミリーがぶつぶつ言っているのを要約すると、どうやらここに通じる廊下にカーテンがついていたらしく、そこを閉じて服を脱ぎ入るのがデフォだそうだ。

 ──文化!

 しかしそれだけだ。扉の閉じた音を聞き、落ち着きを取り戻した僕は安堵して振り返る。

 平静をとりもどした僕は、僕の服を外に放り出したミリーがそこにいたとしても動じない。

 すでに布一枚まとっていないミリーがいたとしても、だ。

「──ふわあああっ」
「ちょ、どうしたの。ははーん、さては……」

 振り返った僕は直立した体勢のままだ。あらたに直立したヤツと仲良く。

「えっと……まあ節水に協力してねってことで、さ。暮らし方の違いで使い切られても困るし……体、流してあげるから、その、とりあえず前……向いててちょうだい」
「──うん」

 冷静である。僕は、冷静に、落ち着いて、鎮める。出来たはずだ。他人の手がタオル越しとはいえ僕をくまなく拭ってくれて──。

「はい、終わりましたよー。じゃあ──」
「ありがとうっ! ありがとうっ!」

 綺麗に拭きあげてくれた僕の体は新品のようになったはずだ。いや、未使用新品なのは元からだ。

 冷静に礼を告げ、無駄のない動きで退散する。寝室の場所は既に聞いているのだ。その鮮やかな動きは僕の人生の集大成とも言えるものだっただろう。



 特に寝心地の良いとは言えない布団は、頭まで潜るとエリーの匂いがする気がする。まだ鎮めるべきヤツが鎮まらないうちは、寝るに寝られないだろう。かといって泊めてもらった部屋で、な。

 落ち着け、僕。そもそもこの体は僕のものじゃない。もしかしたら、僕が知らないだけで中古なのかも知れないし。いや、そんな事じゃない。僕の目に焼きついたネガが、目を閉じれば鮮明に映し出す。

 こびとのハーフリングといっても幼児体型ではない、その体を。

 まずいな。目を閉じてると嫌でも、嫌じゃないけど思い出して落ち着くどころじゃない。目を開いた闇にこそ、この布団の中の世界にこそ安寧はあるのだ。

 そう、開いた世界にこそ。

「ミャーはほんとひとりごとが多いね」

 いつの間に。いつの間に、だろう。

「ほらまた。いまさっき……おやすみって言おうと思ったらさ、なんか……ごめん、うなされるほど嫌だった?」

 布団の中にある小さな世界にいつの間にか入り込んでいた同居人は、僕の頬に手を当てて何かを謝ってきた。何を。

「嫌なわけ、ないじゃないか」

 ほら、な。落ち着いた僕はすんなりと言えたよ。
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