19 / 20
異文化交流ってこんななのかな
しおりを挟む
僕は、背後から聞こえてきた声に、体の動かし方を忘れたみたいに棒立ちに固まって動けない。
「服も脱がないで入ったから、やっぱり生き方ちがったんだろうなって思ってさ。服、外に置いとくね」
ミリーがぶつぶつ言っているのを要約すると、どうやらここに通じる廊下にカーテンがついていたらしく、そこを閉じて服を脱ぎ入るのがデフォだそうだ。
──文化!
しかしそれだけだ。扉の閉じた音を聞き、落ち着きを取り戻した僕は安堵して振り返る。
平静をとりもどした僕は、僕の服を外に放り出したミリーがそこにいたとしても動じない。
すでに布一枚まとっていないミリーがいたとしても、だ。
「──ふわあああっ」
「ちょ、どうしたの。ははーん、さては……」
振り返った僕は直立した体勢のままだ。あらたに直立したヤツと仲良く。
「えっと……まあ節水に協力してねってことで、さ。暮らし方の違いで使い切られても困るし……体、流してあげるから、その、とりあえず前……向いててちょうだい」
「──うん」
冷静である。僕は、冷静に、落ち着いて、鎮める。出来たはずだ。他人の手がタオル越しとはいえ僕をくまなく拭ってくれて──。
「はい、終わりましたよー。じゃあ──」
「ありがとうっ! ありがとうっ!」
綺麗に拭きあげてくれた僕の体は新品のようになったはずだ。いや、未使用新品なのは元からだ。
冷静に礼を告げ、無駄のない動きで退散する。寝室の場所は既に聞いているのだ。その鮮やかな動きは僕の人生の集大成とも言えるものだっただろう。
特に寝心地の良いとは言えない布団は、頭まで潜るとエリーの匂いがする気がする。まだ鎮めるべきヤツが鎮まらないうちは、寝るに寝られないだろう。かといって泊めてもらった部屋で、な。
落ち着け、僕。そもそもこの体は僕のものじゃない。もしかしたら、僕が知らないだけで中古なのかも知れないし。いや、そんな事じゃない。僕の目に焼きついたネガが、目を閉じれば鮮明に映し出す。
こびとのハーフリングといっても幼児体型ではない、その体を。
まずいな。目を閉じてると嫌でも、嫌じゃないけど思い出して落ち着くどころじゃない。目を開いた闇にこそ、この布団の中の世界にこそ安寧はあるのだ。
そう、開いた世界にこそ。
「ミャーはほんとひとりごとが多いね」
いつの間に。いつの間に、だろう。
「ほらまた。いまさっき……おやすみって言おうと思ったらさ、なんか……ごめん、うなされるほど嫌だった?」
布団の中にある小さな世界にいつの間にか入り込んでいた同居人は、僕の頬に手を当てて何かを謝ってきた。何を。
「嫌なわけ、ないじゃないか」
ほら、な。落ち着いた僕はすんなりと言えたよ。
「服も脱がないで入ったから、やっぱり生き方ちがったんだろうなって思ってさ。服、外に置いとくね」
ミリーがぶつぶつ言っているのを要約すると、どうやらここに通じる廊下にカーテンがついていたらしく、そこを閉じて服を脱ぎ入るのがデフォだそうだ。
──文化!
しかしそれだけだ。扉の閉じた音を聞き、落ち着きを取り戻した僕は安堵して振り返る。
平静をとりもどした僕は、僕の服を外に放り出したミリーがそこにいたとしても動じない。
すでに布一枚まとっていないミリーがいたとしても、だ。
「──ふわあああっ」
「ちょ、どうしたの。ははーん、さては……」
振り返った僕は直立した体勢のままだ。あらたに直立したヤツと仲良く。
「えっと……まあ節水に協力してねってことで、さ。暮らし方の違いで使い切られても困るし……体、流してあげるから、その、とりあえず前……向いててちょうだい」
「──うん」
冷静である。僕は、冷静に、落ち着いて、鎮める。出来たはずだ。他人の手がタオル越しとはいえ僕をくまなく拭ってくれて──。
「はい、終わりましたよー。じゃあ──」
「ありがとうっ! ありがとうっ!」
綺麗に拭きあげてくれた僕の体は新品のようになったはずだ。いや、未使用新品なのは元からだ。
冷静に礼を告げ、無駄のない動きで退散する。寝室の場所は既に聞いているのだ。その鮮やかな動きは僕の人生の集大成とも言えるものだっただろう。
特に寝心地の良いとは言えない布団は、頭まで潜るとエリーの匂いがする気がする。まだ鎮めるべきヤツが鎮まらないうちは、寝るに寝られないだろう。かといって泊めてもらった部屋で、な。
落ち着け、僕。そもそもこの体は僕のものじゃない。もしかしたら、僕が知らないだけで中古なのかも知れないし。いや、そんな事じゃない。僕の目に焼きついたネガが、目を閉じれば鮮明に映し出す。
こびとのハーフリングといっても幼児体型ではない、その体を。
まずいな。目を閉じてると嫌でも、嫌じゃないけど思い出して落ち着くどころじゃない。目を開いた闇にこそ、この布団の中の世界にこそ安寧はあるのだ。
そう、開いた世界にこそ。
「ミャーはほんとひとりごとが多いね」
いつの間に。いつの間に、だろう。
「ほらまた。いまさっき……おやすみって言おうと思ったらさ、なんか……ごめん、うなされるほど嫌だった?」
布団の中にある小さな世界にいつの間にか入り込んでいた同居人は、僕の頬に手を当てて何かを謝ってきた。何を。
「嫌なわけ、ないじゃないか」
ほら、な。落ち着いた僕はすんなりと言えたよ。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる