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第10弾『星の導き』
第10弾『星の導き』
しおりを挟む今夜は、星祭りの夜。
色々な仮装をして、誰もが自分ではない誰かになって楽しむ祭りだ。
本当は、ちゃんと別の意味がある真面目なお祭りなのだけれど、街で騒ぐのが楽しいからか、みんなお祭りの正しい意味なんて知らずに仮装を楽しんでいる。
できれば自分も、そちら側の立場で祭りを楽しみたかった、とノウェムは思っていた。
「ね、ねぇ、本当にこんなことするの……?」
着替えをするために用意されていた荷馬車の幌をぎゅうと握りしめ、ノウェムは隣で笑うディケムの顔をそっと見上げた。
そこには、自信に満ちあふれた自分によく似た顔がある。
ノウェムとディケムは、まるで鏡のようによく似た双子の兄弟だ。
だが、似ているのは顔の作りだけで、ノウェムにはディケムのように振る舞える自信はない。
一部の地域では、双子は凶星の証、なんて言われるところもあるけれど、ふたりは他の兄弟と同じく何不自由ない環境で育てられた。
「当たり前だろ。ここまで準備したんだ。いまさらやめるなんて言うなよ」
ディケムが着ているのは、ノウェムが着るはずだった衣装だ。
星祭りのはじまりに、第九王子のノウェムが王族の一員として国民の前で演説をするために用意されたものだった。
けれど、それを着ているのは、ノウェムの弟で第十王子であるディケムだ。
ではそれを着るはずだったノウェムは、といえば何故か平民の服に身を包んでいる。
いつもはきっちりとあげている前髪を無造作におろしたままなので、なんだかとても落ち着かない気分だった。
「で、でも、こんなこと、バレたら……」
じろりとにらまれ、ノウェムは口をつぐみかけた。
言いたいことはいっぱいあったが、こうなってしまったディケムが、どれだけ頑固で意見を曲げたりしない男か、ノウェムが一番よく知っている。
それに、ディケムがどうしてこんなことをしようとしているのか、ノウェムにはその理由についても心当たりがある。
だが、こればかりは黙っていられないと、口を開く。
「ハッ、バレたからどうだって言うんだよ。あっちはお前に一目惚れしたって言ってるんだろ? 本気でお前に惚れてるって言うんなら、これで騙される方がおかしいだろ。本当に好きなら、俺とお前の顔くらい簡単に見分けられるはずだ。お前だって、見分けられるやつと結婚したいんだろ」
いま、ノウェムたちがいるのは、王都から離れた辺境の領地だ。
本来なら、王家の直轄地でもない領地の星祭りのために、王子であるノウェムたちがくるようなことはないのだが、今回ばかりは事情が違った。
この領地を治める辺境伯家から、王子であるノウェムに縁談が持ち込まれたのだ。
平時ならば、一蹴されていただろう縁談が保留になっているのは、一重に隣国との関係が少々あやしくなってきているからだ。
隣国との関係がぎくしゃくする中、国境に位置する辺境伯家との関係向上のために、王家と辺境伯家の縁談もやむなしと判断された。
ただ、本当にノウェムとの縁組みになるかはまだ決まっていない。
なにしろ、歴代でも類を見ないほど子だくさんな王家には、まだまだ未婚の王女もたくさんいるからだ。
「そ、それは、そう……だけど」
「こんなことも見抜けないなら、一目惚れしたって言うこと自体が、嘘かもしれないしな。その時は、誰か他のやつに譲ってやれよ。姉様だって、喜んで嫁に行くだろ。あの男、顔だけはいいからな」
父親でもある国王からは、一度辺境伯領を見てから決めるといい、と送り出された。
王族でありながら恋愛結婚を繰り返し、家系図を爆発的に増やしている国王は、自分の子どもである王子や王女にも、恋愛結婚を推奨している。
どれだけたくさんいようとも、我が子にはよりよい相手と縁組みさせてやりたい、というのが、国王の持論だった。
父親がそういう考えの持ち主だからか、その子どもである王子や王女の中には、自分がしっかりしなければ、と思っているものたちがいる。
ディケムに関して言うなら、ノウェムに対する過保護なまでの対応がそれだ。
あまりにも熱心で、時々、どちらが兄かわからなくなる。
「そ、そんな……!」
正直、ノウェムはこの縁組みに賛成だった。
守ってくれようとするディケムには、悪いと思うけれど、彼とはもう何度も城を抜け出してデートをしている仲だ。
彼は近衛騎士団の一員で、ノウェムが判断できるようにと、国王が彼とデートできるように勤務時間を調整してくれたのだ。
まだ数回しか会えていないが、彼はいつでもノウェムのことだけを見つめてくれた。
どんなに可愛らしい女の子がいても、どれだけ綺麗な男の子がいても、いつでもノウェムだけを優しくエスコートしてくれる。
だからノウェムは、この人と一緒ならどこにいたって幸せになれる気がするのだ。
「これで騙されないなら、俺もあいつのことを信じてやってもいいよ。その代わり、間違えたら不敬罪で処分してやる。たかだか次期領主の分際で、王族を娶ろうっていうんだからそのくらい当然だよな」
ディケムが少し悪そうな顔で笑ったときだった。
くすくすと笑う声が、馬車の影から聞こえてくる。
「……ええ、それで構いませんよ」
「ヴァルナ……! なんで、ここに……?」
馬車の影から出てきたのは、ノウェムの縁組み相手であるヴァルナだった。
その姿を見て、ノウェムはひゅっと息を飲んだ。
いつもは綺麗に整えられている長い黒髪が、三つ編みにされ胸の前にゆるく垂らされ、ゆらりと風にゆれている。
優しく細められた宝石のような紫色の瞳には、びっくりした顔のノウェムだけが映りこんでいた。
近衛騎士であるヴァルナは、これから演説をするノウェムを護衛するためにいるはずなのに、いつもの鎧姿ではなく平民の服を着ている。
まるで、いまからここを抜け出そうとしていたノウェムに合わせたかのように。
「王子様たちが、なにやら企んでおられると聞きまして」
「……誰だよ、お前にそんなことを教えたやつは」
「それは明かせませんよ。貴重な情報源ですから」
まるで、真っ黒な猫のようにするりと近付いてきたヴァルナが、ノウェムにその手を差し出した。
「ノウェム様。どうか、我が領地をご案内させていただく栄光を、私に与えてくれませんか?」
「どう、して……」
「すべては、星の導きです。私の星は、ノウェム様、貴方ひとりだけですから」
星祭りの夜は、誰もが自分ではない誰かになれる不思議な夜だ。
けれど、本当に結ばれるべき運命の相手なら、どんな姿でいようとも、どんなところに隠れようとも、必ず巡りあえると言われている。
「ノウェム……!」
「ディケム、ごめん! ぼくの星も、ヴァルナだけみたいだ」
ノウェムを引き止めようとするディケムの声が響いたが、ノウェムはそう叫びながら馬車の荷台を蹴って、ヴァルナに向かって飛び降りていた。
ヴァルナは、飛び込んできたノウェムを軽々と抱きとめ、やわらかく微笑む。
「っ! ノウェムを泣かせたら、許さないからなっ!」
「もちろんです! ディケム様にも、星の導きがありますように」
「ごめん、ディケム! あとのことはよろしく!」
空を駆ける流れ星のようにぐんぐん遠ざかっていくふたつの背中を、ディケムは切ない気持ちで見送った。
「今度こそ、ずっと一緒にいられると思ったのに……」
ディケムの呟きは、夜の風にさらわれていった。
星の導きは、誰にでも平等に訪れるものだが、誰もが望む星にたどり着けるものではない。
何度繰り返そうとも、ノウェムの星の導きが指すのはディケムではなく、ヴァルナなのだ。
「……いい加減、諦めろってことなんだろうな」
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