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第2話 婆様
婆がお茶とお菓子を用意してきたので、恐る恐る手に取り口に含む。正座は崩せない。婆はニヤニヤしながら、
「お母さんにはバッチリ叱っといたと伝えたけん。大丈夫よ、よろしく言われたけんね」
と言っていた。確かに叱られた。
「アンタ、勉強が嫌で逃げてきたんやろ?アタシも勉強が嫌で山奥に逃げたことあるけん。ふふ、同志たいね」
なるほど、この婆は同志か、よし、それなら大丈夫やろと思い姿勢を緩めた。
しかし、婆は続けて言う。
「ばってん、苦労したよ、その分ね。やっぱりせんだっちゃいい。生きてもいけるけどね、大人になって、知らんよりは子どもの頃から知っとる方がずっといい。それに、子どもの時は勉強せんやったが、大人になってから勉強したとよ。それもまた苦労やった。子どもの時ほど頭に入らん。やっぱり子どもの時に勉強せやんと」
と言った。こりゃ、同志が裏切ったと思い、身を固くした。
「ごめんなさい……」
素直に謝った。勉強から逃げ出してごめんなさいと。
そしたら、婆が、怒っとりゃせんよ。と言った。
婆がニコニコしてたから、僕はその言葉を信じて一気に話してしまった。
「だってね、家に居ったら勉強しろ、勉強しろておかあが言うけんね、嫌で、嫌でね。それで、今まではこんなところまで来たことなかったけど、ここまで来たと」
と、打ち明けた。婆はそおね、そおねとニヤニヤ聞いていた。
「親のいうことはなるべく聞いた方が良かよ。あんたの為を想って言ってくれとるんやけんね。」
「そんなん分かっとるけど、いつもいつも言われたら嫌やん。うるさいてなるもん」
あーあ、やっぱし、この婆はおかあの味方なんやな、裏切りだ、騙された。そう思って、ぶすーっとしてると、なおさらニヤニヤを増して、婆は、あそこの家の坊はきかん坊やなぁと言ってお菓子を勧めた。
そして、ちょっと待っときと言って、袖の障子をあけて別の部屋へいそいそした。
婆、嘘つきやな、やっぱり大人はずるいな。
そう思ってもう一つお菓子を食べた。
添えられたお茶も飲んだがこれは苦くて、この近くで取れるものだが、この辺のお茶はやはりまずいなと思った。よくも、大人はこれを好き好んで飲むなぁと思った。
さて、婆が戻って来た時、手に持ってたのは遊び道具だった。それも古かったから、知らないものばかりで、最近のゲームとかはなかった。
「坊、婆とあそばんや?」
「遊ぶのはいいけど、そんな古いの面白くない。ゲームとかないの?」
「ゲームとかよりもずっと面白いよ、まあ、やってみらんね」
そう言われて、一応、機嫌損ねられても嫌なので、やってみる。そうすると、これが面白くて、気がついたら日も山の向こうに入りきって、月が面白い形になってでていた。
「しまった、もうこんな時間か。坊、お腹すいとらんね」
言われてみれば、空いている。ペコペコだ。急に元気がなくなって、うん、すいたと言った。
婆はニヤニヤしながら、じゃあ、晩ご飯ば用意するけんテレビでも見とき、と言ってテレビをつけて台所へ出ていった。
テレビを見ながら、この婆の事はよく分からんなぁと思った。「勉強、勉強」と言われたのに、婆は勉強させなかったな。そう思って、不意に左を向くと大きな本棚に本がずらっと並んでいたのに気づく。その量にビックリして、これ全部、あの婆は読んだのかな、と思う。そうこう、待っていると、台所から婆の声が聞こえる。
「そろそろ爺様も帰ってくるけん、坊、手伝っちゃらんね」
そう言われて、ご飯までもらうのに、何もしないわけにもいかず、ととと、と台所へ行って婆の手伝いをした。
おかあに習ったように、ご飯かき混ぜたり何だりしてると、婆は、
「坊、手伝いば、ちゃんと出来るとね、偉かね」
と、ニヤニヤ褒めてくれた。思わず嬉しくなって、もっと手伝った。
目の前にご飯が用意されて、二人で囲炉裏を囲んだ。流石にお腹も随分減って、もう食べたくて食べたくて仕方ないのに、家で飼ってる犬のジロウのように、「待て」をされていた。
「もう少しで爺様、帰ってくるけんねもう少し待っちゃらんかいな」
お腹が空いて仕方ない。しかし、ジロウも出来る待てを人間の僕がしない訳にはいかないと耐え忍ぶ。待ってる間にそういえばと思って、婆、この本棚にある本は全部読んだのか、と聞く。婆は少し苦い顔をしながら笑って、
「読んだのもあるし、読んでないのもある。半分位よ。あと半分はこれから読むとよ」
と、婆は言った。
「大人になってもまだ、勉強するとね、婆はすごかね!」
思わず叫んでしまったくらいだった。
「勉強」するのは学校に行く間だけだと思ってたから、学校が終わったら、大人になったら勉強しなくてもいいと思ってた。そんなものだから、なおさら驚いた。第一、ウチのおかあは勉強したのを見たことがない。
そのまま思ったことを婆に伝えると、
「そりゃ、アンタが起きとるうちは勉強なんてできんよ。寝とる間にしよるけん。今度見とき」
と言われた。うそだあ、そんなことないよ、と言ったが、今度見とこ、とも思った。
ガラガラと音がして、「ただいま」、と元気な声が聞こえた。
お帰りと婆が立ち上がって迎える。
何やら玄関で少し話してると思うと、
「こらぁ、小さなお客様が来とるやんな」
と、爺様と言われる人がニコニコ声をかけてきた。
飯の時間だ。
「お母さんにはバッチリ叱っといたと伝えたけん。大丈夫よ、よろしく言われたけんね」
と言っていた。確かに叱られた。
「アンタ、勉強が嫌で逃げてきたんやろ?アタシも勉強が嫌で山奥に逃げたことあるけん。ふふ、同志たいね」
なるほど、この婆は同志か、よし、それなら大丈夫やろと思い姿勢を緩めた。
しかし、婆は続けて言う。
「ばってん、苦労したよ、その分ね。やっぱりせんだっちゃいい。生きてもいけるけどね、大人になって、知らんよりは子どもの頃から知っとる方がずっといい。それに、子どもの時は勉強せんやったが、大人になってから勉強したとよ。それもまた苦労やった。子どもの時ほど頭に入らん。やっぱり子どもの時に勉強せやんと」
と言った。こりゃ、同志が裏切ったと思い、身を固くした。
「ごめんなさい……」
素直に謝った。勉強から逃げ出してごめんなさいと。
そしたら、婆が、怒っとりゃせんよ。と言った。
婆がニコニコしてたから、僕はその言葉を信じて一気に話してしまった。
「だってね、家に居ったら勉強しろ、勉強しろておかあが言うけんね、嫌で、嫌でね。それで、今まではこんなところまで来たことなかったけど、ここまで来たと」
と、打ち明けた。婆はそおね、そおねとニヤニヤ聞いていた。
「親のいうことはなるべく聞いた方が良かよ。あんたの為を想って言ってくれとるんやけんね。」
「そんなん分かっとるけど、いつもいつも言われたら嫌やん。うるさいてなるもん」
あーあ、やっぱし、この婆はおかあの味方なんやな、裏切りだ、騙された。そう思って、ぶすーっとしてると、なおさらニヤニヤを増して、婆は、あそこの家の坊はきかん坊やなぁと言ってお菓子を勧めた。
そして、ちょっと待っときと言って、袖の障子をあけて別の部屋へいそいそした。
婆、嘘つきやな、やっぱり大人はずるいな。
そう思ってもう一つお菓子を食べた。
添えられたお茶も飲んだがこれは苦くて、この近くで取れるものだが、この辺のお茶はやはりまずいなと思った。よくも、大人はこれを好き好んで飲むなぁと思った。
さて、婆が戻って来た時、手に持ってたのは遊び道具だった。それも古かったから、知らないものばかりで、最近のゲームとかはなかった。
「坊、婆とあそばんや?」
「遊ぶのはいいけど、そんな古いの面白くない。ゲームとかないの?」
「ゲームとかよりもずっと面白いよ、まあ、やってみらんね」
そう言われて、一応、機嫌損ねられても嫌なので、やってみる。そうすると、これが面白くて、気がついたら日も山の向こうに入りきって、月が面白い形になってでていた。
「しまった、もうこんな時間か。坊、お腹すいとらんね」
言われてみれば、空いている。ペコペコだ。急に元気がなくなって、うん、すいたと言った。
婆はニヤニヤしながら、じゃあ、晩ご飯ば用意するけんテレビでも見とき、と言ってテレビをつけて台所へ出ていった。
テレビを見ながら、この婆の事はよく分からんなぁと思った。「勉強、勉強」と言われたのに、婆は勉強させなかったな。そう思って、不意に左を向くと大きな本棚に本がずらっと並んでいたのに気づく。その量にビックリして、これ全部、あの婆は読んだのかな、と思う。そうこう、待っていると、台所から婆の声が聞こえる。
「そろそろ爺様も帰ってくるけん、坊、手伝っちゃらんね」
そう言われて、ご飯までもらうのに、何もしないわけにもいかず、ととと、と台所へ行って婆の手伝いをした。
おかあに習ったように、ご飯かき混ぜたり何だりしてると、婆は、
「坊、手伝いば、ちゃんと出来るとね、偉かね」
と、ニヤニヤ褒めてくれた。思わず嬉しくなって、もっと手伝った。
目の前にご飯が用意されて、二人で囲炉裏を囲んだ。流石にお腹も随分減って、もう食べたくて食べたくて仕方ないのに、家で飼ってる犬のジロウのように、「待て」をされていた。
「もう少しで爺様、帰ってくるけんねもう少し待っちゃらんかいな」
お腹が空いて仕方ない。しかし、ジロウも出来る待てを人間の僕がしない訳にはいかないと耐え忍ぶ。待ってる間にそういえばと思って、婆、この本棚にある本は全部読んだのか、と聞く。婆は少し苦い顔をしながら笑って、
「読んだのもあるし、読んでないのもある。半分位よ。あと半分はこれから読むとよ」
と、婆は言った。
「大人になってもまだ、勉強するとね、婆はすごかね!」
思わず叫んでしまったくらいだった。
「勉強」するのは学校に行く間だけだと思ってたから、学校が終わったら、大人になったら勉強しなくてもいいと思ってた。そんなものだから、なおさら驚いた。第一、ウチのおかあは勉強したのを見たことがない。
そのまま思ったことを婆に伝えると、
「そりゃ、アンタが起きとるうちは勉強なんてできんよ。寝とる間にしよるけん。今度見とき」
と言われた。うそだあ、そんなことないよ、と言ったが、今度見とこ、とも思った。
ガラガラと音がして、「ただいま」、と元気な声が聞こえた。
お帰りと婆が立ち上がって迎える。
何やら玄関で少し話してると思うと、
「こらぁ、小さなお客様が来とるやんな」
と、爺様と言われる人がニコニコ声をかけてきた。
飯の時間だ。
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どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。