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偽善
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ここは神が作り上げた第2の地球だ。見ている限り、地球とは大差ない環境のようだ。しかし今の地球のような文明はまだ築かれていないらしい。町らしい町が全く見つからない。
「とりあえず見守ればいいんだよな?」
神としての自覚が現れてきたのだろうか。心の中は使命感で燃えている。
「そうだよー」アスカが粘土をこねながら答える。
なんとも気の抜ける……
人見知りが取れたのかいつの間にか俺への敬語が取れている。今ではすっかり妹みたいな感じだ。
気を取り直して地球の方へ向き直し目をつむる。
目をつむることで、まるで雲の上から地上を見下ろすような感覚で見守ることができるのである。
*********************************
それにしても美しい星だ。全身で風を受け一糸乱れぬ動きで揺れる広大な草原、さんさんと輝く太陽の光を浴びている木々。そして青空に映える山。時間を忘れいつまででも見てられそうだ。
一本の大きな木の影に、座っている一人の女性を見つけた。
(女の子だ!しかもかわいい!)
足を伸ばし大きな木に自分の背中をあずけている。休憩でもしているのであろう。心地よさそうな顔で風を浴びている。風を受けて30cmはあろう大きな耳も揺れている……
えっ?
……見間違えだよな…………うん……。
目を凝らしてもう一度女性を見た。大きな耳をぴくぴくと動かしている。
…………なるほど。
********************************
「アスカさーん。ちょっと聞いていいいかーー?」
「はーい。どうしたの?」
「なんか耳がながーい子がいたんだが……」
「あっ! それは獣人だよ!」
「へ?」
また、すごいのぶっこんできたな。
「だって、動物みんなが仲良く暮らせたらすごく素敵でしょ!」アスカが満面の笑顔で答えた。
「おまえってやつは……」
***********************************
しばらくして、流れの緩やかな川の近くで集落があるのを見つけた。木と藁でできた簡易的な家が点在している。規模的に百人くらいがそこに暮らしているのだろう。そこの近くには田畑が広がっている。この世界でも耕作は行われているようだ。
なるほど。やはり水場の近くに集落ができるんだな。
その集落をしばらく見ていたが、確認できたのは耳が長い子やツノがある子ばかりだった。つまり獣人しかこの集落には暮らしていないみたいだ。
水場の近くで、他にもいくつかの集落を発見し観察していたが、やはり獣人しかいない。どこの集落でも、様々な種類の獣人が共存し、平和な暮らしを行っている。これを見る限りアスカの目指す平和な世界は現実のものとなっている感じがする。
(これなら俺の役目はほとんどなさそうだな)
しかし気になるのは人間がいないことだ。たまたま見つからないだけなのか。それとも他に何か原因があるのか。不審に思いつつ平和なこの世界をさらに見て回る。
すると一つの集落を見つけた。他の集落と違い、近くに川も池もない。周りは険しい山や、針葉樹林に囲まれている。明らかに人が暮らすのに適していない土地だということは俺にも分かる。
住みづらいからであろうか、村の規模も小さい。心なしか活気もないように感じる。暮らしている人々もみなやせ細っている。栄養が行き届いていないのだろう。そこで暮らしているのはあろうことか人間だった。
(……………)
はじめて会った人類への感動とその姿への戸惑いで俺はただ茫然と見ていることしかできなかった。
どれだけ時間がたったのだろうか……
空が夕日で染められてきた頃、一人の少女が村からとび出して行くのを見て、我に返った。
俺は少女を目で追ったが、木の陰に隠れてしまって姿はもう見えない。
しかし俺は気づいてしまった。彼女が泣いていたことを。
決意を固め、俺はマリアさんに告げる。
「マリアさん。俺、下界にいってきます」
「そうですか……でもどうなさるおつもりですの?」
「それは……分かりません。でも…………」
「ハヤトさんの気持ちは分かりますけど、行ったところで解決策がないのなら徒労に終わりますよ」
「…………」
「下界に降りるというのはそんな気軽なものではないのです」
「…………」
「今の力でしたら、下界に降りたら次降りるのに百年は待たなければいけません。ですので、今は堪えてもっと多くの命を救う局面を待ったらどうですか。厳しいことを言いますが、神はもっと大局を見なければいけません。それをこんなささいな……ましてや、たった一人の少女のために下界に降りるなんて…………………………偽善です」
マリアさんが言っていることは正しい。俺はその少女の事情すら知らない。もしかしたら理由なんてなにもないのかもしれない。
しかし俺の脳裏には少女の泣き顔がはっきりと残っている。
ここで俺が動かなくてどうする?目の前に泣いている少女すら助けられないで何が神様だ!!
決して少女が俺の好みの顔をしていたとかでは断じてないからな!
「偽善といわれてもかまいません!! 俺にはまだ神様がどうとか大局がどうだとか分かりません。でも……目の前に救い手を求めている人いるならば差し伸べてあげたい!!そんな神様じゃだめですか」
少し間があってからアスカさんの表情が和らぐ。
「ハヤトさん。ぜひ幸せに導いてきてくださいね。アスカ、あなたも一緒についていってハヤトさんをいろいろと助けてあげなさい」
「分かりました」
いつの間にか隣にいたアスカが凛とした表情で返事をする。
「下界では神も生身の人間と変わりません。死んでしまったら世界から神がいなくなってしまいます。十分に気を付けてくださいね」
「分かりました」
俺はやる気に満ち溢れていた。
「ではさっそく行ってきます」
「待ってください。ハヤトさんはまだアスカから神の継承をしてもらってないのではありせんか?」
「えっ?」
どういうこと? もしかして俺はまだカミサマジャナイノ?
「アスカさーーん?」
アスカの姿はもうほとんど見えない。
「あっ!? てめっ。逃げやがったな!!」
************************************
譲るのをすっかり忘れていたらしいダメ神様は涙目で俺の前にたっている。
「我、汝をこの星を統べるものと認め、我が力を授け給う」
辺りが暗くなりアスカが輝きだした。アスカのエネルギーがあふれ出てきているのが分かる。そのパワーに圧倒され立っているのがやっとだ。アスカの輝きが徐々に失われていく……
――「どうですか。ハヤトさん」
体の内側から力が溢れてくるのが分かる。これなら何でもできそうな気にもなる。
「行ってきます!!」
こうして俺とアスカの第二の地球での神様ライフが始まった
************************************
暑い……のども乾いている……でも、村の近くには水場もないし……
どうして私たちはこんなところに住まなければいけないの?どうして私たちだけ他の動物と仲良くできないの?
自然と頬を涙が伝っていくのに気づく。涙を周りに村人に気づかれてはいけない。なんたって私が村長なんだから。しっかりしないと!
私はいつもの場所に駆け込む。
そこは村から少し離れていて誰にも気を使う必要もない。
毎日泣いている。この境遇に。
毎日泣いている。己の無力さに。
きっかけだけでいいの。この窮地を変えてくれる何かがほしい。
この永遠に続く冷遇の世の中を変えてくれる何か。
不意に近くで草がこすれる音が聞こえてくる。誰かいるの?
涙をぬぐい周りに目を凝らす。
男と女、二人がこちらに近づいてくるのが分かる。
女の方は見たこともない異形な布切れを全身にまとっている。あんな派手なものを見たことない! でも少しかわいいかも……
男の方はさえない感じである。真っ白な布をはおり、手には武器と思える木の棒を持っている。しかしなんだあの武器は。先がとがっていない。それにあのにやけ面がなんか気持ち悪い!!
「止まれ!! お前たちは何者だ」
警戒したまま二人に話しかける。
にやけ面の男が口を開く
「私は神様です」
「とりあえず見守ればいいんだよな?」
神としての自覚が現れてきたのだろうか。心の中は使命感で燃えている。
「そうだよー」アスカが粘土をこねながら答える。
なんとも気の抜ける……
人見知りが取れたのかいつの間にか俺への敬語が取れている。今ではすっかり妹みたいな感じだ。
気を取り直して地球の方へ向き直し目をつむる。
目をつむることで、まるで雲の上から地上を見下ろすような感覚で見守ることができるのである。
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それにしても美しい星だ。全身で風を受け一糸乱れぬ動きで揺れる広大な草原、さんさんと輝く太陽の光を浴びている木々。そして青空に映える山。時間を忘れいつまででも見てられそうだ。
一本の大きな木の影に、座っている一人の女性を見つけた。
(女の子だ!しかもかわいい!)
足を伸ばし大きな木に自分の背中をあずけている。休憩でもしているのであろう。心地よさそうな顔で風を浴びている。風を受けて30cmはあろう大きな耳も揺れている……
えっ?
……見間違えだよな…………うん……。
目を凝らしてもう一度女性を見た。大きな耳をぴくぴくと動かしている。
…………なるほど。
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「アスカさーん。ちょっと聞いていいいかーー?」
「はーい。どうしたの?」
「なんか耳がながーい子がいたんだが……」
「あっ! それは獣人だよ!」
「へ?」
また、すごいのぶっこんできたな。
「だって、動物みんなが仲良く暮らせたらすごく素敵でしょ!」アスカが満面の笑顔で答えた。
「おまえってやつは……」
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しばらくして、流れの緩やかな川の近くで集落があるのを見つけた。木と藁でできた簡易的な家が点在している。規模的に百人くらいがそこに暮らしているのだろう。そこの近くには田畑が広がっている。この世界でも耕作は行われているようだ。
なるほど。やはり水場の近くに集落ができるんだな。
その集落をしばらく見ていたが、確認できたのは耳が長い子やツノがある子ばかりだった。つまり獣人しかこの集落には暮らしていないみたいだ。
水場の近くで、他にもいくつかの集落を発見し観察していたが、やはり獣人しかいない。どこの集落でも、様々な種類の獣人が共存し、平和な暮らしを行っている。これを見る限りアスカの目指す平和な世界は現実のものとなっている感じがする。
(これなら俺の役目はほとんどなさそうだな)
しかし気になるのは人間がいないことだ。たまたま見つからないだけなのか。それとも他に何か原因があるのか。不審に思いつつ平和なこの世界をさらに見て回る。
すると一つの集落を見つけた。他の集落と違い、近くに川も池もない。周りは険しい山や、針葉樹林に囲まれている。明らかに人が暮らすのに適していない土地だということは俺にも分かる。
住みづらいからであろうか、村の規模も小さい。心なしか活気もないように感じる。暮らしている人々もみなやせ細っている。栄養が行き届いていないのだろう。そこで暮らしているのはあろうことか人間だった。
(……………)
はじめて会った人類への感動とその姿への戸惑いで俺はただ茫然と見ていることしかできなかった。
どれだけ時間がたったのだろうか……
空が夕日で染められてきた頃、一人の少女が村からとび出して行くのを見て、我に返った。
俺は少女を目で追ったが、木の陰に隠れてしまって姿はもう見えない。
しかし俺は気づいてしまった。彼女が泣いていたことを。
決意を固め、俺はマリアさんに告げる。
「マリアさん。俺、下界にいってきます」
「そうですか……でもどうなさるおつもりですの?」
「それは……分かりません。でも…………」
「ハヤトさんの気持ちは分かりますけど、行ったところで解決策がないのなら徒労に終わりますよ」
「…………」
「下界に降りるというのはそんな気軽なものではないのです」
「…………」
「今の力でしたら、下界に降りたら次降りるのに百年は待たなければいけません。ですので、今は堪えてもっと多くの命を救う局面を待ったらどうですか。厳しいことを言いますが、神はもっと大局を見なければいけません。それをこんなささいな……ましてや、たった一人の少女のために下界に降りるなんて…………………………偽善です」
マリアさんが言っていることは正しい。俺はその少女の事情すら知らない。もしかしたら理由なんてなにもないのかもしれない。
しかし俺の脳裏には少女の泣き顔がはっきりと残っている。
ここで俺が動かなくてどうする?目の前に泣いている少女すら助けられないで何が神様だ!!
決して少女が俺の好みの顔をしていたとかでは断じてないからな!
「偽善といわれてもかまいません!! 俺にはまだ神様がどうとか大局がどうだとか分かりません。でも……目の前に救い手を求めている人いるならば差し伸べてあげたい!!そんな神様じゃだめですか」
少し間があってからアスカさんの表情が和らぐ。
「ハヤトさん。ぜひ幸せに導いてきてくださいね。アスカ、あなたも一緒についていってハヤトさんをいろいろと助けてあげなさい」
「分かりました」
いつの間にか隣にいたアスカが凛とした表情で返事をする。
「下界では神も生身の人間と変わりません。死んでしまったら世界から神がいなくなってしまいます。十分に気を付けてくださいね」
「分かりました」
俺はやる気に満ち溢れていた。
「ではさっそく行ってきます」
「待ってください。ハヤトさんはまだアスカから神の継承をしてもらってないのではありせんか?」
「えっ?」
どういうこと? もしかして俺はまだカミサマジャナイノ?
「アスカさーーん?」
アスカの姿はもうほとんど見えない。
「あっ!? てめっ。逃げやがったな!!」
************************************
譲るのをすっかり忘れていたらしいダメ神様は涙目で俺の前にたっている。
「我、汝をこの星を統べるものと認め、我が力を授け給う」
辺りが暗くなりアスカが輝きだした。アスカのエネルギーがあふれ出てきているのが分かる。そのパワーに圧倒され立っているのがやっとだ。アスカの輝きが徐々に失われていく……
――「どうですか。ハヤトさん」
体の内側から力が溢れてくるのが分かる。これなら何でもできそうな気にもなる。
「行ってきます!!」
こうして俺とアスカの第二の地球での神様ライフが始まった
************************************
暑い……のども乾いている……でも、村の近くには水場もないし……
どうして私たちはこんなところに住まなければいけないの?どうして私たちだけ他の動物と仲良くできないの?
自然と頬を涙が伝っていくのに気づく。涙を周りに村人に気づかれてはいけない。なんたって私が村長なんだから。しっかりしないと!
私はいつもの場所に駆け込む。
そこは村から少し離れていて誰にも気を使う必要もない。
毎日泣いている。この境遇に。
毎日泣いている。己の無力さに。
きっかけだけでいいの。この窮地を変えてくれる何かがほしい。
この永遠に続く冷遇の世の中を変えてくれる何か。
不意に近くで草がこすれる音が聞こえてくる。誰かいるの?
涙をぬぐい周りに目を凝らす。
男と女、二人がこちらに近づいてくるのが分かる。
女の方は見たこともない異形な布切れを全身にまとっている。あんな派手なものを見たことない! でも少しかわいいかも……
男の方はさえない感じである。真っ白な布をはおり、手には武器と思える木の棒を持っている。しかしなんだあの武器は。先がとがっていない。それにあのにやけ面がなんか気持ち悪い!!
「止まれ!! お前たちは何者だ」
警戒したまま二人に話しかける。
にやけ面の男が口を開く
「私は神様です」
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