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16・時代が加速している気がするのだが

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 1937年夏に起きた上海での衝突の報が世間を賑わせて暫くのち、その戦闘に関する話が伝わって来た。



 今回の衝突においても魚雷艇が多数海上へと展開して艦隊や上陸部隊を襲撃してきたそうだ。



 だが、以前と違って掃討艦という専用艦艇が目を光らせていた事から大きな被害を受けることなく撃退できているという。

 やはり、6斤速射砲を自動化しておいてよかった。あの6斤B砲にかなり助けられたらしい。これまで掃討艦をバカにしていた連中も下手な事は言えなくなるだろうし、6斤B砲の優秀さはもはや不動のものである。



 それを上回るのが、事変に間に合った沙弥型掃討艦搭載の九六式57ミリ自動速射砲だと聞いている。

 簡易射撃盤と組み合わせての運用は威力絶大との事で、支那派遣艦隊の艦艇に後付けの要望がかなり来ているんだとか。



「え?陸軍から6斤B砲の問い合わせ?」



 何に使うのだろうと不思議に思ったが、何の事はない。神州丸への装備を考えているという話なので納得した。

 さらに、同様の揚陸艦艇の増備ももくろんでいるそうで、その際に有力な近接火力として陸軍には同種の火器が無いので融通してほしいそうだ。



 なぜそんな話をわざわざしに来るのかと思ったが、そうか、発案者だったわ。



「それならば九六式を融通すれば良いのでは?今のところ掃討艦くらいにしか需要はないから陸軍が使ってくれるのなら良いじゃないか。ただ、貸し借りの話に敏感な連中もいるから、陸軍の適当な迫撃砲を提供してもらって投網のように小型爆雷を潜水艦に投げつける新型の対潜装備を開発するのはどうだろうか?」



 要するにスキッドだな。と言っても、あまり有名ではない英国面兵器か。その前身であるヘッジホッグの方があまりにも有名だし、後継兵器はスキッドだけではなく、新兵器がいくつも登場した時期でもあった。

 まあ、どちらでも同じだ,対潜前方投射装置の事である。日本でも大戦末期に15センチ九連装対潜噴進砲なるものが試作はされているが、登場が遅かったので実戦には使われていない。



 そこで、12センチや15センチクラスの迫撃砲を陸軍から提供してもらい、スキッドやヘッジホッグのように使える対潜兵器の開発を持ち掛けた訳だ。その方が陸軍も貸し借りなくて良いだろうし、コレも陸軍船舶に積むとなれば、対潜能力は飛躍的に上がるだろう。



「なるほど。持ちつ持たれつを演出する訳ですね」



 そう言って砲熕部の人は帰っていった。

 現状では九六式57ミリ自動速射砲は対水上火器としか思われていない。





 この世界では朝潮型駆逐艦をポスト条約型駆逐艦として大々的に設計した関係から、あとは小改良だけでよく、海軍も早々に新型駆逐艦について思いを巡らせ、史実より早くに島風の原案となる仕様を提示してきているほどだ。

 時は防空専用艦が世に出始める時期という事で、その船体をベースに秋月型な防空艦を提示していた。

 それがどうやら正式にという話になったので、島風原案では三基搭載する魚雷発射管のうち二基を撤去し、艦橋を後退させて艦首部にも12.7センチ砲を背負い式で配置するとともに、空いた魚雷発射管スペースに九六式を左右にそれぞれ2基一群を簡易射撃盤で管制する形で配置している。

 もちろんだが、主砲は前後2基づつをそれぞれ九四式射撃指揮装置で管制するし、後日装備として後部マストには大型デンケンの配置を可能としている。



 さらに815号型を実現すべく、軽巡をベースにアトランタな三階建ても提案しているが、当然ながら、それにも舷側に九六式を二群か三群配置するようになっている。



 そうした配置を不思議がられてはいるが、どうせ九六式25ミリ機銃と高角砲だけでは射程の隙間が出来てしまう。そのうち理解する時が来て、慌てて57ミリ速射砲を載せまくることになると睨んでいるんだがな。



 そして、気が付けば早くも1938年を迎えるという頃になった。



 とうとう大神工廠が稼働を始め、不幸な四姉妹の大改装が2年ほどかけて行われる予定だ。

 どこにそんな金がと思うが、上海事変以後、大陸での戦争が拡大して戦時体制に入ったとかで予算の制約がどんどんなくなっている。

 それに合わせて様々な計画が動いているが、その中には、何度も浮いては消えた二等駆逐艦計画などというモノまで存在する。



 二等駆逐艦計画というのは特型や朝潮型の様な高級駆逐艦ばかりではさすがに金がいくらあっても整備しきれないので、それを補うより安価で簡易な駆逐艦の事だ。

 実際の船団や艦隊の護衛を担うのは二等駆逐艦でという思惑もあるらしい。



 その話が持ち込まれてきたので、江田型掃討艦に三連装魚雷発射管1基を載せた案を出しておいた。

 江田型は掃討艦と言いながら、すでに千トンクラスの規模を誇る船の為、水雷艇ベースであった奄美型や沙弥型とは規模が違う。

 全長は100メートルに迫る大きさとなっているので、魚雷発射管の1基程度載せるのに何の問題も無い。

 要は、魚雷を積んで駆逐艦を名乗れるならばそれで良いのである。



 だが、文句が出た。



 なんでも、12センチ単装砲3基では威力過小ではないかというのである。ベースが掃討艦という事に不満もあるらしい。



 そうはいっても、手ごろなサイズで廉価に数を揃えるという要求に応えられる性能の船などどこにあるのだろうか?



「貴様は本当に戦闘艦というモノが分かっていないらしいな」



 と、そんな事を言う嘱託殿が持っていたのはどうやら対抗案であるらしいが、12.7センチ連装砲2基に四連装魚雷発射管を装備するという内容だった。

 いや、確かに強力だが、それではまず第一に、安価に大量にという要求には応えられんぞ?



 結果から言おう、いまの設計基準で嘱託殿の装備を有するには1500トンクラスの船になるという事であっさり却下された。そりゃあそうだろ・・・・・・



 当然のように残された藤本案ではあるが、単装3基では窮屈になるという事で、史実同様に後部は連装砲に換装するよう修正することで採用と相成った。 
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