1 / 1
残された最後の黄金
しおりを挟む
お腹が空いている。だけども今、絶望的に食材がない。なぜかというと、生協の注文に失敗したのだ。隔週で頼んでいるのだが、頼んでいると思ったのに注文処理に何かミスがあったのか、定期購入を頼んでいる最低限のものしか届かなかったのである。しかも丁度生鮮食品に加えて、乾物や麺の類など、切れた保存食の購入も頼んだと思ったところだった。つまるところ、家に絶望的に食材がない。
生協じゃなくて頼みに行けって? 外に行く余裕がないのだ。ここからスーパーまで片道三十分はあるし、こちとら在宅ワーカーである。外に出るのが当たり前の人種とインドアを極めた人間との外に出る労力を同じ秤に乗せないでほしい。というかほんとに仕事が忙しい。繁忙期極まっているのだ、こっちは。
最後の希望が残っていたのが幸いではあった。卵である。定期便で頼んでいた食材の一つだ。あと牛乳。米の備蓄もギリギリある。ほんとにギリギリだけど。具体的には一合。
「よし、今日は卵かけご飯だな!!」
牛乳は明日の朝ご飯だ。のどを潤し、一応胃にも溜まる(気がする)魔法の飲み物である。あとカルシウムが豊富。せめてパンかコーンフレークが残っていれば格好もついたが丁度切れた。まあ明日の俺のことはさておき。
粛々と残された米を三合炊きの炊飯器にセット。稼働する音を耳にしながら黙々と仕事をし、炊き上がっても蒸しの時間をじりじりと待ち続け、十分経った瞬間蓋を開ける。もあっとした蒸気が立ち上がり、炊きたてのご飯の香しい匂いが鼻孔を刺激した。
「ん~~」
きゅう、と鳴ったお腹の音が促すまま、しゃもじで炊きたての白米を炊飯釜の中で切り交ぜる。そしてしゃもじで米をひとすくい、猫の描かれた大きめの茶碗に盛った。
コトリ、と先に食卓へ茶碗を置き、冷蔵庫へ。白くてざらりとした卵を冷蔵庫から取り出し小皿に載せ、台所にあった濃口醤油と共に食卓へ向かう。
席に着き、まずは艶々の白米の小山の上に箸でくぼみを作る。それから卵を手に取り、コンコンと食卓の上で軽くヒビを入れる。そして炊きたてご飯の山の真上で、ぱきゃりと割った。白米へ吸い込まれるように落ちる黄金の黄身。つやつやと室内灯を反射する透明で弾力のある白身。そこへ醤油をかけると、つるりと滑り落ちて炊きたての白米へと滴り吸い込まれていく。ほう、と思わずため息が出た。
俺はそっと黄身に箸を差し入れ、緩くかき混ぜる。そして茶碗を持ち上げると、茶碗の縁に口をつけ、一気に茶碗の中身を口へと掻き込んだ。
「うまい……」
黄身と白米、醤油のハーモニーが口中を満たす。まさに口福。ああ、日本人に生まれて良かった。俺は現実からそっと目を背け、今はただひたすら、このなじみ深い美味しさに浸ったのだった。
生協じゃなくて頼みに行けって? 外に行く余裕がないのだ。ここからスーパーまで片道三十分はあるし、こちとら在宅ワーカーである。外に出るのが当たり前の人種とインドアを極めた人間との外に出る労力を同じ秤に乗せないでほしい。というかほんとに仕事が忙しい。繁忙期極まっているのだ、こっちは。
最後の希望が残っていたのが幸いではあった。卵である。定期便で頼んでいた食材の一つだ。あと牛乳。米の備蓄もギリギリある。ほんとにギリギリだけど。具体的には一合。
「よし、今日は卵かけご飯だな!!」
牛乳は明日の朝ご飯だ。のどを潤し、一応胃にも溜まる(気がする)魔法の飲み物である。あとカルシウムが豊富。せめてパンかコーンフレークが残っていれば格好もついたが丁度切れた。まあ明日の俺のことはさておき。
粛々と残された米を三合炊きの炊飯器にセット。稼働する音を耳にしながら黙々と仕事をし、炊き上がっても蒸しの時間をじりじりと待ち続け、十分経った瞬間蓋を開ける。もあっとした蒸気が立ち上がり、炊きたてのご飯の香しい匂いが鼻孔を刺激した。
「ん~~」
きゅう、と鳴ったお腹の音が促すまま、しゃもじで炊きたての白米を炊飯釜の中で切り交ぜる。そしてしゃもじで米をひとすくい、猫の描かれた大きめの茶碗に盛った。
コトリ、と先に食卓へ茶碗を置き、冷蔵庫へ。白くてざらりとした卵を冷蔵庫から取り出し小皿に載せ、台所にあった濃口醤油と共に食卓へ向かう。
席に着き、まずは艶々の白米の小山の上に箸でくぼみを作る。それから卵を手に取り、コンコンと食卓の上で軽くヒビを入れる。そして炊きたてご飯の山の真上で、ぱきゃりと割った。白米へ吸い込まれるように落ちる黄金の黄身。つやつやと室内灯を反射する透明で弾力のある白身。そこへ醤油をかけると、つるりと滑り落ちて炊きたての白米へと滴り吸い込まれていく。ほう、と思わずため息が出た。
俺はそっと黄身に箸を差し入れ、緩くかき混ぜる。そして茶碗を持ち上げると、茶碗の縁に口をつけ、一気に茶碗の中身を口へと掻き込んだ。
「うまい……」
黄身と白米、醤油のハーモニーが口中を満たす。まさに口福。ああ、日本人に生まれて良かった。俺は現実からそっと目を背け、今はただひたすら、このなじみ深い美味しさに浸ったのだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる