残された最後の黄金

神崎翼

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残された最後の黄金

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 お腹が空いている。だけども今、絶望的に食材がない。なぜかというと、生協の注文に失敗したのだ。隔週で頼んでいるのだが、頼んでいると思ったのに注文処理に何かミスがあったのか、定期購入を頼んでいる最低限のものしか届かなかったのである。しかも丁度生鮮食品に加えて、乾物や麺の類など、切れた保存食の購入も頼んだと思ったところだった。つまるところ、家に絶望的に食材がない。
 生協じゃなくて頼みに行けって? 外に行く余裕がないのだ。ここからスーパーまで片道三十分はあるし、こちとら在宅ワーカーである。外に出るのが当たり前の人種とインドアを極めた人間との外に出る労力を同じ秤に乗せないでほしい。というかほんとに仕事が忙しい。繁忙期極まっているのだ、こっちは。
 最後の希望が残っていたのが幸いではあった。卵である。定期便で頼んでいた食材の一つだ。あと牛乳。米の備蓄もギリギリある。ほんとにギリギリだけど。具体的には一合。
「よし、今日は卵かけご飯だな!!」
 牛乳は明日の朝ご飯だ。のどを潤し、一応胃にも溜まる(気がする)魔法の飲み物である。あとカルシウムが豊富。せめてパンかコーンフレークが残っていれば格好もついたが丁度切れた。まあ明日の俺のことはさておき。
 粛々と残された米を三合炊きの炊飯器にセット。稼働する音を耳にしながら黙々と仕事をし、炊き上がっても蒸しの時間をじりじりと待ち続け、十分経った瞬間蓋を開ける。もあっとした蒸気が立ち上がり、炊きたてのご飯の香しい匂いが鼻孔を刺激した。
「ん~~」
 きゅう、と鳴ったお腹の音が促すまま、しゃもじで炊きたての白米を炊飯釜の中で切り交ぜる。そしてしゃもじで米をひとすくい、猫の描かれた大きめの茶碗に盛った。
 コトリ、と先に食卓へ茶碗を置き、冷蔵庫へ。白くてざらりとした卵を冷蔵庫から取り出し小皿に載せ、台所にあった濃口醤油と共に食卓へ向かう。
 席に着き、まずは艶々の白米の小山の上に箸でくぼみを作る。それから卵を手に取り、コンコンと食卓の上で軽くヒビを入れる。そして炊きたてご飯の山の真上で、ぱきゃりと割った。白米へ吸い込まれるように落ちる黄金の黄身。つやつやと室内灯を反射する透明で弾力のある白身。そこへ醤油をかけると、つるりと滑り落ちて炊きたての白米へと滴り吸い込まれていく。ほう、と思わずため息が出た。
 俺はそっと黄身に箸を差し入れ、緩くかき混ぜる。そして茶碗を持ち上げると、茶碗の縁に口をつけ、一気に茶碗の中身を口へと掻き込んだ。
「うまい……」
 黄身と白米、醤油のハーモニーが口中を満たす。まさに口福。ああ、日本人に生まれて良かった。俺は現実からそっと目を背け、今はただひたすら、このなじみ深い美味しさに浸ったのだった。
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