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1話

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「好きです、付き合ってください!」


それは僕、宮守 翔(みやもり かける)の100回目の告白。
放課後の屋上、太陽が夕日に変わる頃、僕は彼女に100度目の愛を伝えた。

相手はもちろん同じクラスの安藤 愛(あんどう あい)さん。この学園のアイドルにして、誰もが憧れる高嶺の花。黒色のロングヘアーを一つ結びにしたシンプルなポニーテールに、白い肌がよく映える、キリッとした二重瞼の清純派。

そんな彼女に僕が恋をしてから、もう一年がたとうとしている。
受験の時、落とした消しゴムを拾ってくれたのが彼女だった。その時『美しい』とはこの人のためにある言葉なんだと僕は思った。
もちろんその消しゴムは今も大事に僕の部屋に飾ってある。

同じクラスのそれも隣の席だった時は、運命を感じた。そして、その勢いのまま僕は彼女に1回目の愛を伝えた。
あっさりと振られたが、そこで諦める僕じゃなかった。それからありとあらゆる方法で、晴れの日も雨の日も曇りの日も、僕は彼女に愛を伝えた。

そして今日、とうとう記念すべき100回目を迎えたのだ。

みんなからしたら『え?100回も?嘘でしょ(笑)。ありえない、キモすぎ!!』って思うのかもしれない。だけど、僕からしたらありえないのは彼女の方だ。だって、それぐらい彼女は素敵なんだから。

その容姿もさることながら、勉強だってテストの順位はいつも学年で上位だし、スポーツだって1年生なのに弓道部の全国大会で準優勝している。
性格だってとても優しい……はずだ、だってそうじゃないと、僕の告白に100回も付き合ってくれないだろう。

彼女は本当に完璧で、一方の僕はそんな彼女に99回も振られてるダメな男子。
勉強だってスポーツだって、たいしたことない。もちろん容姿だって、彼女の隣には不釣り合いだ。

そんなこと自分でもわかっている。だけど、大切なのは彼女が僕をどう思ってるかじゃなくて、僕が彼女をどう思ってるかだ。
そうやって自分を奮い立たせて、僕は言葉にする。
99回振られても変わらなかったこの気持ちを。


「好きです、付き合ってください!」


それは、私、安藤 愛に向けられた、100回目の告白。
相手はもちろん同じクラスの宮森 翔くん。彼を初めて見たとき「平凡」とはこの人の為にある言葉なんだと私は思った。
顔も身長も、真っ黒な短髪につくズボラな寝癖も、彼の全てが平凡だった。

そんな彼は、あろうことか高校初日、それも私が自分のクラスの自分の席に初めて座った、まさにその瞬間、隣の席にいた彼は1回目の告白を私に告げた。

なんだこいつ!?

聞けば受験の時に消しゴムを拾った私に、一目惚れしたそうで、当然私は断った。遺恨を残さないように、なるべく傷つけないように、丁寧に。
だって彼は隣の席で、これから毎日のように顔を合わせないといけないんだから。

だけど、それがいけなかったのだろうか……。

その日から、彼の告白は続いた。何回も何十回も、時には手紙に書いて、時には校内放送で、時には歌に乗せて……。
そして、今日彼はついに100回目の告白を私に伝えた。

いままで私に告白してくる人は、数え切れないくらいいた。というか、数えてこなかった。
だって数えたらキリがないし、みんながみんな、1回や2回の告白で諦めていったから。

だから実を言えば30回を超えたあたりからドキドキしていた。もしかしてこの人なら100回目を迎えられるんじゃないか!?って。

そう…私はずっと待っていた。この時を。だから、溢れる気持ちをそのまま言葉にした。

「はい、喜んで!」

「………………えっ、なんで?」

「なんでって、私と付き合いたいんじゃないんですか?」

「付き合いたい?っえ、あっ、いや、付き合いたんだけど……っえぇぇ?」

彼女の言っていることが理解できなかった。
だって、僕は99回も振られていたんだから。しかも、99回目はほんの3日前だ。
今日だって、いつものように振られて、思いっきり凹んで、寝て、元気出して、また告白する、その繰り返しだってそう思ってた。

なのに、彼女がOKなんてするもんだから、驚くなっていうほうが無茶である。
そう、おかしいのは安藤さんの方だ。
なんで急にオッケーなんかするんだよ……全く。

「あのっ!私と付き合ってくれるんですよね?」

その距離はおよそ20センチ。上目遣いで迫る安藤さんに、僕は条件反射のように思わず、

「えっ、もっ、もちろん!」

そう返事をすると、安藤さんはまるでサンタにおもちゃをもらった子どものように、あたりをピョンピョン走り回った。

だけど、僕には彼女がなんでそんなに嬉しのかわからなかった。
いや、僕と付き合えたから嬉しいんだろうけど、それがなんで嬉しのかわからないんだ。だって、しつこいようだが、僕は彼女に99回も振られているんだから。
でもどうやら、ドッキリや悪戯の類ではなさそうだ。
目の前の安藤さんがもし演技をしているなら、僕は今すぐ人間不信になってやろう。

……いやしかし、安藤さんならそれぐらいやってのけるんかもしれないが、たとえドッキリであったとしても、今この瞬間は間違いなく安藤さんは僕の彼女なんだ。

そう思うと、ニヤニヤが止まらなかった。

時間が経ったからだろうか、少しづつ実感が湧いてきた。
気分はフルマラソンを走り抜けたマラソンランナーのように爽快だった。

そんな僕に、思い出したように彼女は言った。

「そうだ、これだけは言っておかないと。」

「んっ?何?何?」

「私、アンドロイドなんです。」

「スマホの機種が?」

「いえっ、私がアンドロイドなんです」

それが彼女からの初めての告白だった。

アンドロイドって、あれだよな?ロボット的なやつのことだよなぁ……。安藤さんもそんな冗談言うんだなぁ。
あれ…?もしかして今笑った方がいいのかな……。

「あっ、信じてないですね?」

「いや、そんなことないよ。アンドロイドなんてすごいね!」

「むーっ、馬鹿にしてますね?いいです、証拠をみせてあげますね。」

そう言うと彼女は、軽く膝を曲げ空中へ跳び上がった。彼女の体は僕の頭上をゆうにこえ、後方に二回転してから華麗な着地をきめた。
きっとこれが体操競技なら、満点がいくつも並んだんだろう。だけど、そんな凄いジャンプより彼女のスカートから覗いた水玉模様のパンツに目がいったことはここだけの秘密だ。

「どうですか。私がアンドロイドって信じてくれましたか?」

「えっ?…あっ、あぁ、うん。凄いんだね。」

「じゃあ、良かったです。私ちょっと用事があるので、これで失礼しますね。また明日(ニコッ)」

彼女はそう言うと、何事もなかったように帰っていた。

残された僕に残されたのは、処理しきれない大爆発パニックである。

安藤さんがアンドロイド!?!?

そのあまりの衝撃に僕の脳は停止し、むしろ冷静になった。

そもそも、僕にとって安藤さんは憧れで、凄い人だった。その人が超凄い人?になっただけで、安藤さんは安藤さんだ。
そして今日1番の驚きはそんな彼女と僕は付き合うことができたんだ。その喜びを噛み締めて、僕は家へ帰った。
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