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第一夜 Executive Player「律」
経営者としての顔 2
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「そりゃあんたにとってはそうなんだろうが……」
律は余裕の笑みを浮かべ、レミを見すえる。
「……でもこれは約束して」
再び、律の目がすうっと冷え込んだ。
「明日からオーラスで毎日出勤するって。もちろん、遅刻は許さない」
「え……」
スウィートプラチナムは年末年始以外は無休で営業している。デリヘルの営業開始から終了まで、必ず出勤しろということだ。明日から、毎日。
五十万という借金は、風俗という職業柄そこまで返済が難しい額ではない。ただし、ある程度売れていて、かつ、客を選ばなければの話だ。
レミの顔はみるみるこわばっていく。その態度に、律はなんの感情もない声を出した。
「……一日で、三十万から九十万」
突拍子もない言葉に、レミはいぶかしげな表情を浮かべる。
「ホストクラブで俺が一日にだす売り上げ。単純計算だけど。最低でも三十万、一日で売り上げを出すことになる」
レミの表情は変わらず、首をかしげていた。
「あれ? よくわかんないかな? 一日で、三十万から九十万だよ? これを一カ月三十日だとして単純に計算したら、一カ月の売り上げは九百から二千七百万円になる。……有名なホストの億プレイヤーは、これがあたりまえ。他の店では俺より売り上げたたきだしてる人もいるし」
レミの生唾を飲む音が、小さく響いた。律の顔には、冷え切った笑みが浮かんでいる。
「俺はね、ある程度自由が許されてるけど、それでも毎日出勤して遅刻もせず時には同伴もして、一応オーラスでやってんの。一緒にいたいと思ってくださるお客様のおかげでここまで売り上げてんの。……君は、どうなの?」
律の冷たい視線が、レミを突き刺す。
「……一晩で、どれくらい稼げるの? 」
レミは答えられなかった。その顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「毎日出勤、オーラスで、どんな客でも相手して、無遅刻無欠勤、できる? 五十万だからそうだね……二カ月はそれを続けてもらわないと」
「……できます」
軽い言葉だ。少なくとも律はそう感じた。
「……できなかったときはどうする?」
「できます!」
「……腎臓ってね、片方売るだけで一千万らしいよ?」
「あ……」
唇を震わせるレミを見て、律はほほ笑んだ。
「冗談だよ。女の子にそんなことさせるわけないでしょ。でも……約束はちゃんと守ってね。レミちゃんを信用してるから、貸すんだよ?」
キラキラとした輝かしい笑みなのに、その目は一切笑っていなかった。
「とりあえず、五十万、明日用意するから。当然、営業開始の朝十時、ちゃんと来るよね? レミちゃん、仕事はこれだけでしょ?」
「……はい」
声が小さい。
「もし一分でも遅刻したときは……貸さないからね? 」
明日から毎日オーラスで五十万。真面目で熱心な風俗嬢からしてみれば、そこまでハードルは高くない。真面目で熱心な風俗嬢が、店に借金をすること自体あり得ないのだが。
律は念書まで用意した。レミはサインと判を押し、この日はもう帰っていった。
「……ふぅ」
律のため息が部屋に響く。
引き戸は開けっ放しで、働いている優希とメイコのようすが丸見えだ。律と部長は洋室で、テーブルに置かれた念書をはさむように座りなおしていた。
「大丈夫なのか~?」
部長はあきれている。
「絶対返さねぇってああいうタイプは」
「まあ、俺もそう思うんだけどねぇ」
部長の心配をよそに、律は優しくほほ笑んでいた。
「でも困ってるんだもん。男だったら女の子のこと信じてあげなくちゃ」
「正気かよ……」
律は念書に視線を落とす。
しばらくの沈黙のあと、ため息をつきながら背もたれにのしかかった。天井を見上げてつぶやく。
「多分、男関係だろうね」
部長が鼻を鳴らした。
「ダメ男に引っかかってるって? 」
「うん……たぶん、だけど。そんな気がする。結婚を考えてる彼氏が借金してる、とかね。そんな彼氏とはわかれるべきなんだけどさ」
「レミのやつ、男関係で悩むようには見えなかったがなぁ」
「ああいうタイプほど男に依存するもんだよ。しかも、俺たちだけじゃなくて、いろんなところからあの調子で借りてるんだろうね。消費者金融はすでに手を付けてるだろうし……闇金に手を染めるのも時間の問題だね」
律の冷静な口調に、部長は半信半疑といった表情を浮かべる。
「その話が本当だとしたら、あいつ、かなりやばいんじゃねえのか」
律は肩をすくめた。
「さあねぇ? 俺はあの子に金を貸してあげた。あとは、あの子が自分でどう動くか、じゃない?」
ふうっと息をつき、部長を見すえる。
「……レミちゃんの緊急連絡先って実家だっけ?」
部長は隣のリビングに顔を向ける。視線の先には、ホワイトボードに女の子の状況を記入するメイコがいた。
「橋本! レミの緊急連絡先は実家だったよな?」
「そうです! ……もしかして貸すんですか?」
メイコは眉をひそめ、部長を見つめる。部長は首を振り、律に向けて顎をしゃくった。
「なんで貸しちゃうんですか。レミちゃんの勤務態度、社長もご存じでしょ?」
「大丈夫だよ。俺の自腹だから」
不安げなメイコに対し、律は穏やかな声で返した。
「……じゃあ、メイコさん。明日、俺が金を渡すまえにちゃんと住所調べておいてくれる? 身元確認のために撮っておいた免許証の写真も用意しといてね」
「わかりました」
事務所の電話が鳴り響き、メイコが慌てて取りに向かう。パソコンの前に座っている優希も、出先の女の子と連絡を取っていた。
「……ほんと、バカだよね。身の丈に合わない借金しちゃってさ」
薄い笑みを浮かべる律に、部長はため息をつきながらうなずいた。
律は余裕の笑みを浮かべ、レミを見すえる。
「……でもこれは約束して」
再び、律の目がすうっと冷え込んだ。
「明日からオーラスで毎日出勤するって。もちろん、遅刻は許さない」
「え……」
スウィートプラチナムは年末年始以外は無休で営業している。デリヘルの営業開始から終了まで、必ず出勤しろということだ。明日から、毎日。
五十万という借金は、風俗という職業柄そこまで返済が難しい額ではない。ただし、ある程度売れていて、かつ、客を選ばなければの話だ。
レミの顔はみるみるこわばっていく。その態度に、律はなんの感情もない声を出した。
「……一日で、三十万から九十万」
突拍子もない言葉に、レミはいぶかしげな表情を浮かべる。
「ホストクラブで俺が一日にだす売り上げ。単純計算だけど。最低でも三十万、一日で売り上げを出すことになる」
レミの表情は変わらず、首をかしげていた。
「あれ? よくわかんないかな? 一日で、三十万から九十万だよ? これを一カ月三十日だとして単純に計算したら、一カ月の売り上げは九百から二千七百万円になる。……有名なホストの億プレイヤーは、これがあたりまえ。他の店では俺より売り上げたたきだしてる人もいるし」
レミの生唾を飲む音が、小さく響いた。律の顔には、冷え切った笑みが浮かんでいる。
「俺はね、ある程度自由が許されてるけど、それでも毎日出勤して遅刻もせず時には同伴もして、一応オーラスでやってんの。一緒にいたいと思ってくださるお客様のおかげでここまで売り上げてんの。……君は、どうなの?」
律の冷たい視線が、レミを突き刺す。
「……一晩で、どれくらい稼げるの? 」
レミは答えられなかった。その顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「毎日出勤、オーラスで、どんな客でも相手して、無遅刻無欠勤、できる? 五十万だからそうだね……二カ月はそれを続けてもらわないと」
「……できます」
軽い言葉だ。少なくとも律はそう感じた。
「……できなかったときはどうする?」
「できます!」
「……腎臓ってね、片方売るだけで一千万らしいよ?」
「あ……」
唇を震わせるレミを見て、律はほほ笑んだ。
「冗談だよ。女の子にそんなことさせるわけないでしょ。でも……約束はちゃんと守ってね。レミちゃんを信用してるから、貸すんだよ?」
キラキラとした輝かしい笑みなのに、その目は一切笑っていなかった。
「とりあえず、五十万、明日用意するから。当然、営業開始の朝十時、ちゃんと来るよね? レミちゃん、仕事はこれだけでしょ?」
「……はい」
声が小さい。
「もし一分でも遅刻したときは……貸さないからね? 」
明日から毎日オーラスで五十万。真面目で熱心な風俗嬢からしてみれば、そこまでハードルは高くない。真面目で熱心な風俗嬢が、店に借金をすること自体あり得ないのだが。
律は念書まで用意した。レミはサインと判を押し、この日はもう帰っていった。
「……ふぅ」
律のため息が部屋に響く。
引き戸は開けっ放しで、働いている優希とメイコのようすが丸見えだ。律と部長は洋室で、テーブルに置かれた念書をはさむように座りなおしていた。
「大丈夫なのか~?」
部長はあきれている。
「絶対返さねぇってああいうタイプは」
「まあ、俺もそう思うんだけどねぇ」
部長の心配をよそに、律は優しくほほ笑んでいた。
「でも困ってるんだもん。男だったら女の子のこと信じてあげなくちゃ」
「正気かよ……」
律は念書に視線を落とす。
しばらくの沈黙のあと、ため息をつきながら背もたれにのしかかった。天井を見上げてつぶやく。
「多分、男関係だろうね」
部長が鼻を鳴らした。
「ダメ男に引っかかってるって? 」
「うん……たぶん、だけど。そんな気がする。結婚を考えてる彼氏が借金してる、とかね。そんな彼氏とはわかれるべきなんだけどさ」
「レミのやつ、男関係で悩むようには見えなかったがなぁ」
「ああいうタイプほど男に依存するもんだよ。しかも、俺たちだけじゃなくて、いろんなところからあの調子で借りてるんだろうね。消費者金融はすでに手を付けてるだろうし……闇金に手を染めるのも時間の問題だね」
律の冷静な口調に、部長は半信半疑といった表情を浮かべる。
「その話が本当だとしたら、あいつ、かなりやばいんじゃねえのか」
律は肩をすくめた。
「さあねぇ? 俺はあの子に金を貸してあげた。あとは、あの子が自分でどう動くか、じゃない?」
ふうっと息をつき、部長を見すえる。
「……レミちゃんの緊急連絡先って実家だっけ?」
部長は隣のリビングに顔を向ける。視線の先には、ホワイトボードに女の子の状況を記入するメイコがいた。
「橋本! レミの緊急連絡先は実家だったよな?」
「そうです! ……もしかして貸すんですか?」
メイコは眉をひそめ、部長を見つめる。部長は首を振り、律に向けて顎をしゃくった。
「なんで貸しちゃうんですか。レミちゃんの勤務態度、社長もご存じでしょ?」
「大丈夫だよ。俺の自腹だから」
不安げなメイコに対し、律は穏やかな声で返した。
「……じゃあ、メイコさん。明日、俺が金を渡すまえにちゃんと住所調べておいてくれる? 身元確認のために撮っておいた免許証の写真も用意しといてね」
「わかりました」
事務所の電話が鳴り響き、メイコが慌てて取りに向かう。パソコンの前に座っている優希も、出先の女の子と連絡を取っていた。
「……ほんと、バカだよね。身の丈に合わない借金しちゃってさ」
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