律と欲望の夜

冷泉 伽夜

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第一夜 Executive Player「律」

波乱の順位

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 Aquariusアクエリアスの営業は終了した。いつものとおり、志乃がラスソンを歌って、店は閉まる。

 終礼時には、締め日恒例の順位発表だ。シャンデリア下のソファ席にホストたちが座り、全員を見渡せる位置に店長やスタッフたちが立つ。

 十位から順に、資料を持つ店長が口頭で発表していった。

「四位、拓海。六百四十万」

 湧き上がる拍手。だが、拓海は顔を伏せ、微動だにしなかった。それもそのはず。売り上げの半分以上は掛けが飛ばれているからだ。借金まで背負ったというのに、中途半端な順位に終わる。

「二位、志乃。九百五十万」

「あー! もうちょっとで一千万オーバーだったのに~」

 悔しがる志乃だったが、敬愛の拍手がこれでもかと送られる。

「一位、律」

 店長は息を吸い、声を張った。

「千八百万オーバー。よくがんばった」

 拍手の音が一番に響く。律はあいかわらず愛想のない顔で、ぺこりと頭を下げるだけだ。

 拍手が続く中、志乃の声があがる。

「桁が違うんだよな~、桁が」

 勝ち目など、ないのだ。勝てると思うことすらおこがましい。決して敵に回せる相手ではない。

 終礼が終わり、ホストたちはそれぞれにはけていく。その中で、拓海は顔を伏せて座ったまま、動こうとしなかった。

「エース、来てたら違ったんじゃないの?」

 うなだれる頭に、律の声が落ちる。拓海の前に立つ律が、冷めた顔で見下ろしていた。

「今日、来てなかったな」

 閉店一時間前になっても、リオが来ることはなかった。その時点ではもう、連絡を送っても既読がつかない状況だった。

「俺、言ったよな? このままだと飛ぶよ、って。俺だけじゃない。みんなそう思ってた。もっと、周りを見るべきだったな。俺ばかりを、敵視してないで」

 拓海はなんの反応も返さない。聞いているのかいないのかもわからない。

「掛けをするなとは言わねえよ。女の子を金でしか見れないのもわからんじゃない。でも、女の子を財布そのものとして扱うのは違うだろ。……明日から、心入れ替えて頑張れよ」

 返事は、ない。

 律は短く息をつき、その場をあとにした。



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