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攻略3:ツンネ・デレニズム

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「う、うわあああああああああああ!?」 
「うおっ!? 何だよ、急に大声出して……」 

 デレニズム家次男坊。その名もツンネ。そう、ツンデレなんです。私の推しなんです。
 攻略対象の中では貴重な、サラフィナと同年齢であり、同級生である。
 はあ、しかし話しかけられるとは、心の準備ができていなかったよ。
 目が合った瞬間に叫んでしまった。推しと会えて叫ばない人間なんていないでしょう? 
 あ……やらかしたわ。お兄さんデレクがこっちに来た。

「何ごとだい!? ってツンネとサラちゃんか。悪いな~、どうせツンネが何かしたんだろう?」

 いえ、私が叫びました。ごめんなさい。

「ツンネは天邪鬼だからなあ、好意を持つ人ほど強く当たっちゃうその悪癖、いい加減直さなきゃダメだぞ?」

 そう言ってツンネにデコピンするデレク。いいね~お兄さんしてるところを見ると、より本性とのギャップが……

「イテっ! 別に俺は何もしてねえよ……こいつに話しかけたら勝手に叫んだだけだ!! あと変な勘違いするな!」  

 左様でございます。ついでにもう一回叫んじゃいそう。気持ち悪い笑みと共に。 

「……デレクさん。ツンネくんの言う通りなんです。私が呆けているところに、話しかけられて驚いてしまっただけなんですよ」 
 
 だって話しかけられると思わないし。ツンネくんから話しかけてくるなんて激レアなんですけど。

「そうなのか、いや~悪いな、ツンネ。……に、してもお前から話しかけるとは珍しいな」 

 それ、今さっき思いました。初期はかなーーりの
ツン>デレだから、ヒロイン側から話しかけなきゃイベントは発生しなかったはずなんだけど。

「別に……毎日早く登校して、俺が来る頃には教室にいるはずのこいつがいたから気になっただけだ」

……ん? 私の推しの状態がゲーム初期じゃない? そもそもこんな会話あったかな? あれ、私がサラフィナの習慣崩したせいで、少し話変わってる?

 思い出せ。ゲームのプロローグは、学院の始業式から始まる。そうか、時系列を把握するのを忘れていた。
 私としたことが……転生モノの主人公は必ず今いつ? って聞くじゃないか。

「ははっ、そうかそうか。お兄ちゃんは心配して損したぞ、少しは成長してるなあ!」
「何がだよ!」
「ちょ、イタイ、蹴らないで!」

 うーん、それはそうと目の前で行われてることで萌え死にしそう。限定スチルが動く感動に近い。

「あー、えっと、では、私行きますね」
 
 これ以上関わるのは心臓に悪い。まずいな、誰も攻略できない気がしてきた。

「あーあ、サラちゃん行っちゃうぞ?」
「ハッ、あいつがいようがいまいが、もう行くつもりだったっつーの」
「やっぱり素直じゃないねえ……」    




――王城学院はとにかく広い。
 現代で言えば幼稚園から高等学校まで全部1つの施設にまとめるのと同じなんだからそりゃそうか。

 攻略した記憶が無ければ詰みだった。記憶があっても、教室にたどり着くまで結構苦労する。

 サラフィナのクラスは高等2、A-1クラスだ。
 王族とか、宰相の子とか、王族とワンチャン婚約したい令嬢~とか、いわゆる政略、政治に関係する子たちが多いんだよね。

 サラフィナは正統な婚約者候補なんだよなあ。だから変なやっかみを買ってしまうことがある。
 
「あら、本日は始業式ですのに。いつもより来るのが遅いじゃありませんの? お寝坊でもなさったのですか?」

 ほら来たよ。お、やっぱりゲームのプロローグからじゃん。本格的にさっきのことが心配になってきた。
 まあ、ありがとう。今いつなのかを聞く手間が省けた。

 彼女はエミリー。いわゆる、第2王子ツンネを攻略するとなると関わらざるを得ない悪役(?)、かな。
 私は嫌いではない。むしろ好きだ。こう、表情が豊かで、手のひらで転がせる感じがたまらない。

「ごきげんよう、エミリーさん」
「ご、ごきげんよう、ですわ……」

 ほら、チョロいのだ。私が笑顔で挨拶しただけで、照れて赤くなっちゃって……控えめに言ってかわいい。
 それだけサラフィナの顔が良いんだろうな。さっきも手を振っただけで叫ばれたし。同性も惚れる顔面凶器ってか。

 エミリーは嫌味が通じなかったからか、不承ながらも自身の席に着いた。
まあ、彼女とは後々仲良くなって、手助けしてもらえばいい。

 ツンデレ王太子に対応しているため、エミリーはツンデレ悪役令嬢なのだ! 対応難度は易しめ。
 壮大なざまぁを期待していたり、恋の障害が手強い方が燃えたりする人には少々物足りないかもね。
  
 最高難易度のヤンデレ悪役令嬢なんかは……思い出しただけで鳥肌物だ。確実に刺される。
 だからこそ、できればデレニズム兄弟三男、ヤンセンだけには関わりたくない。 
 
 そして今ここに、即行で回収されるフラグが立ったことを、私は知らなかったのである。
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