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朝っぱらから4人パーティで心霊スポットに突入してみた結果www
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「はぁ........クソ面倒臭えな、この仕事.......」
俺は一枚の紙を手に、溜息をついた。
俺は、この街で唯一の職業冒険家である。
新たなダンジョンの情報を察知し、いち早く踏破して報酬を手に入れる。昨今はそういった類の冒険家が多いが、それでは安定した収入は稼げない。
その弱点を克服したのが、職業冒険家だ。
世の中誰もが躊躇いなくダンジョンに行ける訳じゃない。戦闘の技術がない者が中途半端な覚悟でダンジョンに潜入すれば、命取りになりかねない。
だが一方で、特定のダンジョンでしか採取できない薬草や素材は存在する。店にも滅多に出回らないそういった品々を、非力な者が緊急に手に入れたい時はどうするか?
俺たち職業冒険家に、代わりに行ってきてもらうのだ。
そんな稼業をしている俺だが、実際問題依頼は来るのか?
ぶっちゃけ、ほとんど来ない。そりゃそうだ、余程急ぎじゃない限り、店に入荷するのを待った方が確実で安上がりである。
よって、たまに来る依頼は俺にとっての命綱で、選り好みなんてしてる場合じゃない。ないのだが。
「でも........怖えよなぁ.......」
今回の依頼の内容は、廃校となった魔法学校の調査だった。
ずいぶん昔に人がいなくなった後は、モンスター達の手によって荒れ放題だったらしいのだが........どうやら、ここ最近怪奇現象らしきものがそこら中で起きてるらしい。
現在の管理者は只の爺さんということで、俺に依頼が回ってきたって訳だ。
報酬は申し分ない、むしろ破格の5000G。
他の依頼だったら断る理由がない、はずなんだが.........。
何を隠そう、俺はオバケの類が大の苦手である。
理由は分からない。子供の頃に母親に怖い話ばっか聞かされてたとか、そんなだった気がするが、とにかく怖いものは怖い。
だが、もちろん断る訳にもいかない。ここの家賃だって、そろそろ支払期日が迫っているのだ。
「うーん........」
俺は、考えに考え抜いた結果........。
「みんな、よろしくな!」
翌朝6時前、俺は3人のギルドメンバーと件の廃校の前に来ていた。
「何でこんな朝早くなんですかぁ........眠いっすよ........」
とにかく時間がなかったので、メンバーは全員適当に募集した初対面である。自分から応募してきたくせに不満タラタラなこのデブの名前は........いや、もうデブでいいや。この先二度と会うこともなさそうだし。
「しかも、職業冒険家のトウマさんといえばLv.158の凄腕でしょう?この程度のダンジョン、僕たちなんかいらないんじゃないですか?」
鋭いところを突いてくるのはひょろ長眼鏡Lv.25。ぶっちゃけ一番戦力外なのに、なんか偉そうなのが癪にさわるのでクソメガネと呼ぶことにする。
「まぁまぁ、皆さんそんなこと言わずに.........ねぇ?」
そんな状況下で俺が理性を保てているのは、この娘がいるからだ。名前はリンちゃん、特徴は.......とにかく可愛い。めっちゃ可愛い。とても可愛い。
だが、同時に危ない状況を作り出しているのもこの娘。この娘に「オバケが怖い」なんてバレたら、俺はもう男として生きていけない。気を引き締めなければ.......
ピトッ。
「うおおおおおっっっ!?」
突然肩に白い手が触れ、俺は思わず叫び声をあげる。
「.......どうしたんすか、トウマさん。ただの子供ですよ」
「え?」
デブに言われて振り返れば、確かにそこにいたのは十にも満たないであろう少女。
「.......いやいや、何でこんな所にガキがいるんだよ......いや、そう言えば」
依頼人の爺さんが、案内人として孫を用意するとか何とか言ってたような.......おい、孫ってこのガキかよ!?
最低でもある程度は戦える男かと思っていたが......このガキも守らなきゃいけない分、相当面倒臭い依頼だぞコレ。割増料金請求してやろうか。
「せんせー、おはようございます」
誰が先生だ。思わず殴りたくなるが、リンちゃんの前だからグッと堪える。
.......はっ!そうだ、リンちゃん!
あろうことか、ガキにビビるという醜態を晒してしまった。どうにかして取り繕わなければ.......。
「ふふふ、トウマさんって意外と怖がりなんですね。.......ふふっ」
駄目だ、めっちゃ笑われてる!でも可愛い!
そんなこんなで先が思いやられるが、とにかくダンジョンに潜入だ。いつもと違うことが起きている以上、どんなモンスターがいてもおかしくない。
「気をつけろよ、みんな」
「トウマさんこそ気をつけてくださいね。さっきのことといい、今日はなんだか注意力散漫みたいなんで」
デブが要らない忠告をしてくるので、迷うことなくぶん殴る。てめぇLv.42だぞ、分かってんのか。
そもそも案内できるのかさえ怪しいガキを守りながらの冒険でストレスが溜まっているのだ、このくらいは.......っておい、ガキはどこだ?
「トウマさんトウマさん、女の子行っちゃいますよ」
リンちゃんが玄関を指差す。あのガキ、生意気にも俺たちを置いていこうとしてやがる。
「.......ったく、危なっかしいな」
だが俺はリンちゃんの前では紳士だ。余裕の笑みを浮かべながら走って追いついた。
「あ、待ってくださいよ~!」
クソメガネがヒイヒイ言いながらついてくる。いいザマだ。
マイペースでどんどん進んでいくガキについていき、渡り廊下にさしかかる。
「うわっ、何だよコレ!?」
かつては天井と壁がガラス張りで、さぞ豪華な造りだったのだろう。だが今となってはガラスは風化で粉々に割れ、柱一本で何とか支えられている吹き抜け状態だ。
壁もないので、ふと足を踏み外せば——そこに待っているのは、死。
「トウマさん、あの子.......」
リンちゃんの声で我に帰る。前を見ると、あのガキは何の躊躇もなく廊下をスイスイ渡っていく。
「——っ、馬鹿!危ねぇだろうが!」
慌てて駆け出し抱きかかえると、ガキは満面の笑みでこちらを見ていた。
「........せんせー、こんにちは」
「だから、先生って誰だよ.......」
俺はため息をつき、急いで廊下を渡りきる。
「リンさんも気をつけて!」
はーい、という甘い声に、俺は思わずにんまりしてしまう。先程までのイライラも吹っ飛び、心が浄化されていくようだ。
「トウマさん、僕の心配は~!?」
同時に聞こえてきたデブの声ですぐさま腐ったが。
校舎の中は、全くモンスターがいなかった。こういうケースは時折みられ、大体の場合二つのパターンに分けられる。
一つ目は、そのダンジョンからモンスターが絶滅した場合。
そしてもう一つが.......モンスターが、群れをなして潜んでいる場合だ。
ポロロン........
「ひゃっ!?」
突如、奥からピアノの音が響いてくる。誰もいないはずのダンジョンで、何故........それも気になったが、それよりも注意を向けるべき事が俺の目の前で起きている。
「.......えーと、リ、リンさん?」
俺の左腕をがっちりホールドしたまま離さないリンちゃん。嬉しい、ものすごく嬉しいのだが.......心臓に悪い。
「ごめんなさい.......私、こういうのめっぽう苦手で......」
恥ずかしがりながらリンちゃんは呟いた。泣きそうになっているリンちゃんをどうにかして安心させるためにはどうしたらいいのか.......まとまらない頭で一生懸命考えて、俺は答える。
「お、俺も、実はオバケとか苦手なんですよ。ははは.......で、でも、多分今回は違います。たまにあるんですよ、ずる賢いモンスターがこうやって侵入者を脅かすの」
本で得た知識をそのまま喋ると、リンちゃんは少しだけ落ち着いたようで、俺から手を離す。それでもまだ、不安そうな顔は崩さないままだ。
「じ、じゃあ、俺が先に行ってきますよ!どうせモンスターの仕業なんですから、さっさと倒して戻ってきます!」
「.......じゃあ.......お願いしても、いいですか?」
最高級に可愛い笑顔を見せて、リンちゃんは手を振ってくれる。俺はといえば、さっき喋ったことは本当に正しかっただろうかと急に不安になりながらへっぴり腰で音楽室に歩いていく。
「モンスターの仕業、モンスターの仕業.......」
半ば自分に言い聞かせるように呟きながら音楽室の中に入ると、ピアノの音はぴたりと止む。後に残るのは静寂と、不気味な雰囲気を漂わせるピアノのみ。
周りを注意深く眺めながら、じりじりとピアノに近づいていく。
そして、ピアノの鍵盤に指をかけようとしたその時——
ザシュッ!
「うわっ!」
突如斬撃がこちらに飛んできて、慌てて避ける。振り返るとそこには、緑色の小鬼が三体、呆然と突っ立っていた。
「......ゴブリンか」
ホッと胸をなでおろす。怪異の正体は、低級モンスター、ゴブリンによる悪戯。俺の敵じゃないし、むしろ放っておいても大した害はない。
が、安心した俺はリンちゃんを怖がらせた罰として、ゴブリンに向けて剣を抜く。
「キ、キイイ!」
「必殺剣.......《蒼の銀河に願いを込めて》!」
「ふー、いい汗かいた」
俺は額の汗を拭いながら、あの吹き抜けの渡り廊下まで戻って来る。
これで5000Gは俺のもの、いや、パーティの奴らにもちょっと分けなきゃならないか、リンちゃんには多めに........
ん?リンちゃんどこ行った?
よく見れば、デブやクソメガネもいつの間にか姿を消している。........そういえば、あのガキもどこにもいない。皆、俺を置いて帰ったのか?
プルルルルル。
ポケットの中の携帯電話が鳴る。画面には、あの依頼主の爺さんの名前があった。
「もしもし」
答えると同時に、足下にあのガキが寄ってきていることに気づく。他の奴らがどこに行ったのか聞きたいが、まずは電話に応えなければ。ガキに「ちょっと待て」のジェスチャーをしつつ、携帯を耳にあてる。
「おお、トウマさん。すみません、こちら側に不備があったようで」
「不備?.......いや、別段問題はありませんでしたよ?今原因も退治してきましたけど.......」
「そんなはずは.......ウチの孫が、急に高熱を出して行けなくなってしまって.......」
「え?お宅の孫って......じゃあ、このガキは.......?」
俺が足元を見ると、さっきまでいたはずのガキがいない。
そして、次の瞬間、世界が反転した。
とんっ
後ろから軽く押されたのだろうか、バランスを崩して倒れる。
倒れた先は、虚空。
何かをつかもうとして必死に手を伸ばすが、無意味。
「せんせー、さようなら」
冷たい目で少女が微笑む姿。それが、俺が最後に見た光景だった。
俺は一枚の紙を手に、溜息をついた。
俺は、この街で唯一の職業冒険家である。
新たなダンジョンの情報を察知し、いち早く踏破して報酬を手に入れる。昨今はそういった類の冒険家が多いが、それでは安定した収入は稼げない。
その弱点を克服したのが、職業冒険家だ。
世の中誰もが躊躇いなくダンジョンに行ける訳じゃない。戦闘の技術がない者が中途半端な覚悟でダンジョンに潜入すれば、命取りになりかねない。
だが一方で、特定のダンジョンでしか採取できない薬草や素材は存在する。店にも滅多に出回らないそういった品々を、非力な者が緊急に手に入れたい時はどうするか?
俺たち職業冒険家に、代わりに行ってきてもらうのだ。
そんな稼業をしている俺だが、実際問題依頼は来るのか?
ぶっちゃけ、ほとんど来ない。そりゃそうだ、余程急ぎじゃない限り、店に入荷するのを待った方が確実で安上がりである。
よって、たまに来る依頼は俺にとっての命綱で、選り好みなんてしてる場合じゃない。ないのだが。
「でも........怖えよなぁ.......」
今回の依頼の内容は、廃校となった魔法学校の調査だった。
ずいぶん昔に人がいなくなった後は、モンスター達の手によって荒れ放題だったらしいのだが........どうやら、ここ最近怪奇現象らしきものがそこら中で起きてるらしい。
現在の管理者は只の爺さんということで、俺に依頼が回ってきたって訳だ。
報酬は申し分ない、むしろ破格の5000G。
他の依頼だったら断る理由がない、はずなんだが.........。
何を隠そう、俺はオバケの類が大の苦手である。
理由は分からない。子供の頃に母親に怖い話ばっか聞かされてたとか、そんなだった気がするが、とにかく怖いものは怖い。
だが、もちろん断る訳にもいかない。ここの家賃だって、そろそろ支払期日が迫っているのだ。
「うーん........」
俺は、考えに考え抜いた結果........。
「みんな、よろしくな!」
翌朝6時前、俺は3人のギルドメンバーと件の廃校の前に来ていた。
「何でこんな朝早くなんですかぁ........眠いっすよ........」
とにかく時間がなかったので、メンバーは全員適当に募集した初対面である。自分から応募してきたくせに不満タラタラなこのデブの名前は........いや、もうデブでいいや。この先二度と会うこともなさそうだし。
「しかも、職業冒険家のトウマさんといえばLv.158の凄腕でしょう?この程度のダンジョン、僕たちなんかいらないんじゃないですか?」
鋭いところを突いてくるのはひょろ長眼鏡Lv.25。ぶっちゃけ一番戦力外なのに、なんか偉そうなのが癪にさわるのでクソメガネと呼ぶことにする。
「まぁまぁ、皆さんそんなこと言わずに.........ねぇ?」
そんな状況下で俺が理性を保てているのは、この娘がいるからだ。名前はリンちゃん、特徴は.......とにかく可愛い。めっちゃ可愛い。とても可愛い。
だが、同時に危ない状況を作り出しているのもこの娘。この娘に「オバケが怖い」なんてバレたら、俺はもう男として生きていけない。気を引き締めなければ.......
ピトッ。
「うおおおおおっっっ!?」
突然肩に白い手が触れ、俺は思わず叫び声をあげる。
「.......どうしたんすか、トウマさん。ただの子供ですよ」
「え?」
デブに言われて振り返れば、確かにそこにいたのは十にも満たないであろう少女。
「.......いやいや、何でこんな所にガキがいるんだよ......いや、そう言えば」
依頼人の爺さんが、案内人として孫を用意するとか何とか言ってたような.......おい、孫ってこのガキかよ!?
最低でもある程度は戦える男かと思っていたが......このガキも守らなきゃいけない分、相当面倒臭い依頼だぞコレ。割増料金請求してやろうか。
「せんせー、おはようございます」
誰が先生だ。思わず殴りたくなるが、リンちゃんの前だからグッと堪える。
.......はっ!そうだ、リンちゃん!
あろうことか、ガキにビビるという醜態を晒してしまった。どうにかして取り繕わなければ.......。
「ふふふ、トウマさんって意外と怖がりなんですね。.......ふふっ」
駄目だ、めっちゃ笑われてる!でも可愛い!
そんなこんなで先が思いやられるが、とにかくダンジョンに潜入だ。いつもと違うことが起きている以上、どんなモンスターがいてもおかしくない。
「気をつけろよ、みんな」
「トウマさんこそ気をつけてくださいね。さっきのことといい、今日はなんだか注意力散漫みたいなんで」
デブが要らない忠告をしてくるので、迷うことなくぶん殴る。てめぇLv.42だぞ、分かってんのか。
そもそも案内できるのかさえ怪しいガキを守りながらの冒険でストレスが溜まっているのだ、このくらいは.......っておい、ガキはどこだ?
「トウマさんトウマさん、女の子行っちゃいますよ」
リンちゃんが玄関を指差す。あのガキ、生意気にも俺たちを置いていこうとしてやがる。
「.......ったく、危なっかしいな」
だが俺はリンちゃんの前では紳士だ。余裕の笑みを浮かべながら走って追いついた。
「あ、待ってくださいよ~!」
クソメガネがヒイヒイ言いながらついてくる。いいザマだ。
マイペースでどんどん進んでいくガキについていき、渡り廊下にさしかかる。
「うわっ、何だよコレ!?」
かつては天井と壁がガラス張りで、さぞ豪華な造りだったのだろう。だが今となってはガラスは風化で粉々に割れ、柱一本で何とか支えられている吹き抜け状態だ。
壁もないので、ふと足を踏み外せば——そこに待っているのは、死。
「トウマさん、あの子.......」
リンちゃんの声で我に帰る。前を見ると、あのガキは何の躊躇もなく廊下をスイスイ渡っていく。
「——っ、馬鹿!危ねぇだろうが!」
慌てて駆け出し抱きかかえると、ガキは満面の笑みでこちらを見ていた。
「........せんせー、こんにちは」
「だから、先生って誰だよ.......」
俺はため息をつき、急いで廊下を渡りきる。
「リンさんも気をつけて!」
はーい、という甘い声に、俺は思わずにんまりしてしまう。先程までのイライラも吹っ飛び、心が浄化されていくようだ。
「トウマさん、僕の心配は~!?」
同時に聞こえてきたデブの声ですぐさま腐ったが。
校舎の中は、全くモンスターがいなかった。こういうケースは時折みられ、大体の場合二つのパターンに分けられる。
一つ目は、そのダンジョンからモンスターが絶滅した場合。
そしてもう一つが.......モンスターが、群れをなして潜んでいる場合だ。
ポロロン........
「ひゃっ!?」
突如、奥からピアノの音が響いてくる。誰もいないはずのダンジョンで、何故........それも気になったが、それよりも注意を向けるべき事が俺の目の前で起きている。
「.......えーと、リ、リンさん?」
俺の左腕をがっちりホールドしたまま離さないリンちゃん。嬉しい、ものすごく嬉しいのだが.......心臓に悪い。
「ごめんなさい.......私、こういうのめっぽう苦手で......」
恥ずかしがりながらリンちゃんは呟いた。泣きそうになっているリンちゃんをどうにかして安心させるためにはどうしたらいいのか.......まとまらない頭で一生懸命考えて、俺は答える。
「お、俺も、実はオバケとか苦手なんですよ。ははは.......で、でも、多分今回は違います。たまにあるんですよ、ずる賢いモンスターがこうやって侵入者を脅かすの」
本で得た知識をそのまま喋ると、リンちゃんは少しだけ落ち着いたようで、俺から手を離す。それでもまだ、不安そうな顔は崩さないままだ。
「じ、じゃあ、俺が先に行ってきますよ!どうせモンスターの仕業なんですから、さっさと倒して戻ってきます!」
「.......じゃあ.......お願いしても、いいですか?」
最高級に可愛い笑顔を見せて、リンちゃんは手を振ってくれる。俺はといえば、さっき喋ったことは本当に正しかっただろうかと急に不安になりながらへっぴり腰で音楽室に歩いていく。
「モンスターの仕業、モンスターの仕業.......」
半ば自分に言い聞かせるように呟きながら音楽室の中に入ると、ピアノの音はぴたりと止む。後に残るのは静寂と、不気味な雰囲気を漂わせるピアノのみ。
周りを注意深く眺めながら、じりじりとピアノに近づいていく。
そして、ピアノの鍵盤に指をかけようとしたその時——
ザシュッ!
「うわっ!」
突如斬撃がこちらに飛んできて、慌てて避ける。振り返るとそこには、緑色の小鬼が三体、呆然と突っ立っていた。
「......ゴブリンか」
ホッと胸をなでおろす。怪異の正体は、低級モンスター、ゴブリンによる悪戯。俺の敵じゃないし、むしろ放っておいても大した害はない。
が、安心した俺はリンちゃんを怖がらせた罰として、ゴブリンに向けて剣を抜く。
「キ、キイイ!」
「必殺剣.......《蒼の銀河に願いを込めて》!」
「ふー、いい汗かいた」
俺は額の汗を拭いながら、あの吹き抜けの渡り廊下まで戻って来る。
これで5000Gは俺のもの、いや、パーティの奴らにもちょっと分けなきゃならないか、リンちゃんには多めに........
ん?リンちゃんどこ行った?
よく見れば、デブやクソメガネもいつの間にか姿を消している。........そういえば、あのガキもどこにもいない。皆、俺を置いて帰ったのか?
プルルルルル。
ポケットの中の携帯電話が鳴る。画面には、あの依頼主の爺さんの名前があった。
「もしもし」
答えると同時に、足下にあのガキが寄ってきていることに気づく。他の奴らがどこに行ったのか聞きたいが、まずは電話に応えなければ。ガキに「ちょっと待て」のジェスチャーをしつつ、携帯を耳にあてる。
「おお、トウマさん。すみません、こちら側に不備があったようで」
「不備?.......いや、別段問題はありませんでしたよ?今原因も退治してきましたけど.......」
「そんなはずは.......ウチの孫が、急に高熱を出して行けなくなってしまって.......」
「え?お宅の孫って......じゃあ、このガキは.......?」
俺が足元を見ると、さっきまでいたはずのガキがいない。
そして、次の瞬間、世界が反転した。
とんっ
後ろから軽く押されたのだろうか、バランスを崩して倒れる。
倒れた先は、虚空。
何かをつかもうとして必死に手を伸ばすが、無意味。
「せんせー、さようなら」
冷たい目で少女が微笑む姿。それが、俺が最後に見た光景だった。
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