邪神さんはキミを幸せにしたい

ぺす

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十三話

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「うむ、まずいなこれは」

「不敵そうなあんたでもそう思うのかい? あたしもアレはヤバいと思うよ」

「……あんなのは俺も見たことがない。 洒落にならんぞ」

 三者意見が揃っているように見えるが実のところ違う。
 あれから準備に一日を費やして、件の特殊変異個体のいる場所へとやってきた。
 本来なら出会う場所はもっと先の予定だったが、魔物が予想以上に速く移動していた。
 今は魔物から数百メートル程離れた位置で様子を見ている。
 あれ程の巨体が走れば移動速度も中々のもののようだ。
 三人で実際にその姿を見て二人はその異様さに驚いているが、私は少し違う。

 ……アレは私が自分の肉を与えたグラスウルフの珍種だ。
 出会った時の理性など吹き飛び、いかにも暴走しているように見える。
 可愛らしさなど欠片もなく見た目も完全に変わっている。
 偵察の報告よりも更に変化が進んでおり頭は二つに増え、顔は鼻の潰れた奴が禍々しくなったものと何やら鳥とも魚ともつかないようなものが生えており背中には無数の触手が蠢いている。
 肉体もガッシリとした巨体で変化が激しすぎる。

 ……………………間違いなく私の肉を食べたせいだな。
 しかし私の肉を食べてここまで変化するとは。
 面白い変化ではある。もう少し色々と試してみたいが、とりあえず今回は失敗ということで始末するしかないか。
 まだ人に危害は加えていないようだが、あの様子だとこの辺りの生態系を完全に狂わせそうだ。

「あれを弱らせるから最後の止めは任せるぞ」

「弱らせるって、あんたどうするんだい? 攻め手が全く思い付かないんだけど」

「こうする」

 二人は完全に萎縮しているようだが、弱った状態なら多少大きくても首を落とすくらいはやれるだろう。
 ちゃんと二人にも手柄を立てさせてやらないとな。

「闇よ彼の者に重き縛りを」

 魔物の足元に巨体な影の渦が広がり、異変を察知した魔物が飛び退こうとするがそれよりも速く極太の影の鎖が無数に広がり魔物の手足や身体を縛り上げる。
 敵の足止めに関してこの魔法は実に便利だ。
 あとはどの魔法で弱らせるかだが……あの触手、私のモノが劣化した状態で生えている。
 劣化しているとはいえ私の触手であれば多少の魔法は防いできそうだ。
 ならば超高火力で押しきるのがいいかもしれない。

「原初の焔。 万物を呑み込み焼き尽くすは煌々たる顎」

 灰塵に帰する手前まで焼いてやろう。
 私の触手であっても劣化程度であればこれは防げまい。
 魔法の発生点を犬の顔面の近くに設定し、練り上げた魔力を解放する。

「喰らえ」

 解放の言葉と共に赤黒い炎がまるで魔物を呑み込むように現れ、超々高熱の炎が魔物を燃やし始める。
 逃げようにも鎖のせいで動けず、魔物の苦し気な咆哮が響くがそれも数秒。
 炎に喉を焼かれ声は潰れ、暴れる身体も少しずつ静かになっていった。
 魔物は炭化し周囲の大地が赤熱化し溶岩のようにグズグズとなった辺りで炎を止める。
 かなり離れているがそれでも中々の熱さだな。

「よし。 じゃあ止めを頼む。 首を落としてこい」

「………………あたし必要なかったな」

「……同じ気持ちだ。 というかもうアレは死んでいるだろう? なぜ首を落とす必要がある?」

「私一人で倒した、などと喧伝しては冒険者組合の立場が無いのではないか? 人間はそういうことを気にするものだと思っていたが」

 立場だの面子だのを気にするのが人間だろうし、組合に入りたくない私としてはこういう手柄は遠慮したい。
 金さえくれれば十分だ。
 
「しっかし……あんたといい勝負出来るかと思ったけど、あんた化物だね。 こんな魔法使われたら足の速さなんて関係無いじゃないか。 使われる前に全速力で潰すしか思いつかないけど、あの鎖や障壁を突破する方法を考えないとね」

 この女は戦うことしか考えていないのか?
 まあしかし本当に突破する方法を考えてきそうだな。
 それはそれで楽しみかもしれん。

「……ま、まあいい。 では私とレイラは化物の首を落としてこよう。 貴殿はどうする?」

「少し考えたいことがあるからここにいる」

「そうか、分かった」

 魔物の後処理のために動き出した二人。
 少し離れた事を確認して時を止める。

「念のため証拠隠滅しておかないとな」

 バレることは無いと思うが、自分の肉体のせいで変異したとされては色々と面倒だからな。
 そのせいで立て直し中のアイレノールの民のもとに私を調査する名目で邪魔が入っても困るからな。

 炭化した魔物の元へ到着し確認すると、まだ息はあるようだ。
 が、もう反撃する力も無さそうだ。
 身体に触れ自分の肉体に呼び掛けると、魔物の情報を得た細胞達が戻ってきた。
 これなら私の力でこの魔物を再現出来るかもしれないな。
 私の細胞を失った魔物がもはや復活する事もないだろう。
 あとは二人に任せて帰る準備でもしておくか。
 レーティアが美味しい食事を作っておくと言っていたしそれが楽しみ…………ああ。
 やりたいことが見つかったかもしれん。
 是非ともレーティアに話を聞いてもらうとしよう。



※風邪引いたぜ!みんな体調には気をつけて(*‘ω‘ *)!
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