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悪役令嬢のとある日常

大運動会(3)

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 ヘンゼとグレタが声を合わせる。

『『続いての種目は! 玉入れだーーー!』』

 ぱんぱかぱーん、とラッパが鳴る。それに合わせたように、赤チームと白チームのメンバーが集まる。

『選ばれし玉入れメンバーの皆! お兄さんが見つめているよ! ふっ! 頑張ってくれたまえ!』
『赤チームも白チームも頑張るんだぞ!俺はここで、全力で応援する!!』

 放送が鳴る一方、リオンがテリーの横に立つ。

「ニコラ、奴らを見てごらん」

 キッドとリトルルビィがにやついている。リオンとテリーがごくりと唾を飲んだ。

「あの顔、きっと、とんでもないことを考えているに違いない。これは負けられない戦いだ。分かってるね」
「分かってるわ。玉を籠に入れたらいいんでしょう」

 白チームの籠を二人で見上げる。

「やるぞ。ニコラ」
「ええ」
「兄妹は二人で一つ。皆の力を借りて、何とかキッドの思惑を阻止するんだ」
「あんたならあいつを負かせられるかも。信じてるわよ」
「ああ。今こそ、分からせてやるんだ」
「キッドにあたし達の立場を分からせるのよ」
「そうだ。そして……」

 ――どっぴんしゃん! ああ! 二人がこんなにもすごい奴らだったなんて! 負けたよ! 完全に俺の負けだ! 畜生! 悔しい! うえええん! じいやぁー!

「「キッドを泣かせてやる!!」」

 二人の声が揃う。二人の拳が握られる。

「やるわよ! レオ!」
「本気を出すんだ! ニコラ!」

(近い)

 キッドがにこにこしながら仲良しな二人を眺める。

(リオンとテリーの距離が近い。あいつ、また浮気か? リオンはあとで斬る)

 テリーに胸元を見て、にこにこ笑う。

(てりぃだって)

 キッドの口角が上がってしまう。

(可愛い)

 半袖半ズボン。三つ編みテリー。

(愛しい)

 この手で抱きしめて、その運動服で身を包むテリーを愛でてあげたい。

(ああ、ブルマならよかったのに。よし、今すぐテリー専用のやつを取り寄せよう)

 キッドがGPSで連絡を取り出す。

(テリーに頭なでなで……)

 キッドの横で、リトルルビィがにやつく。

(テリーに頭なでなで……)

 ――リトルルビィ、赤チームのためにすごく頑張って、偉いわ。よしよし。

(でへへへー!!)

「キッド、私、頑張る!」
「気合い入れていくぞ」
「うん!!」

 二人でハイタッチ。スピーカーからは、ヘンゼの声。

『ふっ! それでは、玉入れを開始します! 皆さん、準備を!』

 レオとニコラが目を光らせる。
 キッドとリトルルビィが目を光らせる。
 サガンが空に向かって銃を構えた。片耳を塞ぐ。

「よーい」

 ぱん。と銃を撃ったと同時に、両者が動き出す。

「「うらあああああああああああああ!!!」」
「「おらあああああああああああああ!!!」」

 高い位置にある籠に向かって全員が玉を入れまくる。リトルルビィが両腕に大量に抱える。そして、高らかにジャンプして、一斉に投げ入れる。

「えい」
『おーーーーっと! なんてことだーーー!』

 ヘンゼがマイクを握る。

『赤き小さなレディが玉を大量に入れてしまったーーー!』
『これは、白チームのピンチだぞ!!』
「まだ大丈夫だ!」

 レオが叫ぶ。

「カモン! 同志達!」

 レオの周りにミックスマックス愛好者が集まる。

「「ミックスマックス最高だぜ!!」」

 ミックスマックス愛好者達が肩車しあって、立ち並ぶ。それを蹴り上り、レオが玉を入れた。

「シュート!」
「「きゃー! リオン様、かっこいいいいい!!」」

 乙女達が目をハートにさせる。なぜか肩車し合う男達がすまし顔をした。

「俺達、モテまくってるぜ…」
「ああ、これだからイケメンは困るぜ…」
「これらも全て、ミックスマックスのおかげ」
「皆で歌おうぜ」

 ミックスマックス最高だぜ!

 ミックスマックス愛好者達が歌いながら籠に玉を入れまくる。しかし赤チームも負けていない。

「皆、そんな状態で、真のキッド様ファンだって言えるの!?」

 アリスが応援団長の上着を着て、スピーカーを持って叫ぶ。

「ほら見て! キッドが見てる! 皆! アピールするなら今よ!」

 キッドが微笑む。乙女達のハートが撃ち抜かれる。

「ああ、キッド様素敵…!」
「ああ、キッド様が微笑んでいるわ!」
「駄目よ…! 今の私は白チーム。キッド様は赤チームの王子様。私とキッド様が関わることは、禁じられてるのよ!」
「ああ、駄目、キッド様、どうかそんな目で見ないで…!」

 キッドが微笑み、呟いた。

「俺、玉入れ、勝ちたいな…」

 切なげに呟くと、赤チーム、白チームのキッドファンの乙女たちが、目をハートにした。

「「任せてください! キッド様ぁぁああん!!」」

 赤チームの乙女たちが頑張る。籠に玉を全力で投げ入れる。白チームの乙女たちが寝返る。赤チームの籠に玉を入れる。テリーが悲鳴をあげた。

「あああああああああ!! 裏切り者どもが現れやがった!! メニー! 見ておきなさい! 死刑にするなら、ああいう奴らをするのよ!! こんなの理不尽よ!!」
「お姉ちゃん、落ち着いて! 何の話をしてるの!?」
「大丈夫! 僕を誰だと思っている! 策は取ってある!」

 レオが振り向いた。

「ピグレット! 勝ちたいよな!?」

 リオンの声に、乙女達が振り向いた。
 レオの声に、男達が振り向いた。
 ピグが立っていた。ポークが立っていた。その先に、超イケメンのピグレットが立っていた。

「え」

 ピグレットがはにかんだ。

「そりゃ、勝てたら嬉しいけど……」

 イケメンのさわやかな笑みに、乙女達とテリーのハートが撃ち抜かれた。

「「誰あの子! 超イケメン!!」」
「やるわ! ピグレットのために、あたしやるわ!!」

 乙女達とテリーの目がメラメラと燃えだし、白チームが一丸となってイケメンの揃う我がチームのために、玉を全力で入れていく。リオンが正々堂々と言う。

「僕だって勝利が欲しい。兄さん、絶対負けないよ」

 きりっとした表情に、赤チームの乙女達が寝返った。

「リオン様ぁぁあああん!!」

 赤チームの乙女達が白チームの籠に玉を入れ、白チームの乙女達が赤チームの籠に玉を入れ、運動場は大混乱となる。

『なんてことだ! 恋に恋するレディ達が頑張っているじゃないか! ふっ! 光り輝く汗が眩しいよ!』
『頑張れ!! 俺はここから君達を見ているぞ!!!!!』

 アリスが全力投球で籠に玉を入れる。

「全てはキッド様のために!!」

 テリーが全力投球で籠に玉を入れる。

「全てはピグレットのために!!」
「見てみろよ。ポーク、俺様のために、ニコラが頑張ってるぜ!」
「何言ってるんだい! 兄ちゃん! ニコラは俺のために頑張ってるんだぜ! ちょーかっこいいぜ!」
「二人も玉入れてよ」

 三人兄弟がぽいぽい入れていく。メニーもぽい、ぽいっと入れていく。しかし、玉が籠の中に入らない。メニーが眉を下げた。

「うう……入らない……」
「ぼ、僕が入れてあげるよ!」

 メニーと同じ年頃の少年が籠に玉を投げてみる。入る。メニーが喜んだ。

「わ、すごい!」
「え、えへへ!」
「俺だって入れられるさ!」

 メニーと同じ年頃の別の少年が籠に玉を投げてみた。入った。メニーが拍手をした。

「わあ、すごい」
「き、君、名前なんて言うの?」
「うう……また玉入らない……」
「じゃ、じゃあ、玉が入ったら教えてくれよ」
「なら、俺が入れてやる! ねえ、俺とデートしてよ!」
「邪魔するなよ! 僕が一番に入れるんだ!」

 メニーに魅了された少年たちが全力で籠に玉を狙っていくが、メニーは全てを無視する。アメリアヌがふふっと笑う。

「さすがメニーね。あの子の美人さは侮れないわ」
「アメリアヌ!!」

 レイチェルがアメリアヌの肩を叩く。

「キッド様が玉を投げているわ! ああ、なんて麗しいお姿なの!! なんて美しいの! 素敵! かっこいい!」
「ほらほら、あんたも投げたら喜んでもらえるわよ」
「アメリアヌも投げるのよ! ほら、早く! 一緒に!」
「はいはい」

 レイチェルとアメリアヌが一緒に玉を投げていく。テリーも全力投球。

「ニクス!! あたしはやるわ! やってやる!!」
「テリー、すごいね! いっぱい入れてる!」
「え、す、すごい?」
「うん!」

 ニクスが素直な笑顔で頷く。

「テリーって命中率あるんだね! すっごい!」
「そ、そーんなことないんだけどねー!」

 親友からの言葉に、顔をにやつかせながら、テリーが玉を投げた。

「こ、これも入るといいなー? なんてー?」

 テリーが玉を投げた。偶然にも、そのタイミングで籠に入る。ニクスが手を叩いて喜んだ。

「わ! テリーすごい! 流石だね!」
「おっほっほっほっほっほ! なんの、これしき!!」

 テリーがどんどん玉を入れていく。すごい速さで入れていく。

(この玉達はあたしの奴隷よ! あたしは玉の国の女王となるのよ!!)

 おーーーーっほっほっほっほっほっ!

 テリーが調子に乗って大量に玉を投げる。その拍子に、テリーの体重が前にかけられた。

「わっ」

 テリーが転んだ。

「ぎゃ!!」
「わ! テリー! 大丈夫!?」
「うう……」

 その瞬間、キッドが、メニーが、リトルルビィが、ソフィアが、視界にとらえる。

(はっ!)

 涙目で足を押さえる、いじらしいテリーが顔を上げた。

「……いたい……」

 どきゅーーーーーーん!!

「大丈夫? テリー?」

 ニクスがテリーの足を撫でる。

「よしよし。痛いの痛いの、どこかにとんでいけー」
「……ありがとう、ニクス……」

 涙目のテリーに、キッドが、メニーが、リトルルビィが、ソフィアが、同時に思った。

(なんって可愛いんだ……!!)
(お姉ちゃん……!)
(テリィイイイアァアアア!)
(くすすすすすすすすす)

 ソフィアがカメラのシャッターを連続で押す。押しまくる。サリアが険しい顔でソフィアを見る。構わない。ソフィアは無言で押しまくる。しかし心の中ではテリー一色。

(テリー……。恋しい……。私のテリー……!)

 今日も脳内ではぶんぶん言わせる脳内妄想暴走族。

 一方、キッドの目がきらんと光る。今ので本気ゲージに到達する。容赦なく赤チームの籠に玉を投げまくる。

(こうなったら、どんなことがあっても絶対勝つ。運動能力の違いを見せつけてやる。テリーの心は俺のもの。必ず手に入れる!)

 痛いと呟くテリーを思い出す。胸がきゅんと、ときめく。

(ああ、くそ。今すぐにぎゅってしたい……!)

 リトルルビィも全く躊躇なく、全力で籠に玉を投げていく。

(テリー! 可愛い! かわいいいいいい! かぁあああいいいいいいいいいい!!!)

 そこでキッドとリトルルビィは、はっとした。

((あ、そうだ。結果発表が終わったらテリーの元へ行こう))

「お姉ちゃん」

 メニーがテリーの横に並んだ。

「今のうちに逃げる準備して」
「え? 何言ってるの。あんた」
「いいから」
「は?」

 サガンが鉄砲を撃った。

「終了」
『そこまでーーーーー!!』

 ヘンゼの声がスピーカーから流れる。皆の動きが止まる。

『さあ! 籠に入った玉の数を、数えてもらいましょー!! 皆はその間、仲良くしゃがんで、お兄さんのことでも考えてくれ!』

 両者がしゃがむ。兵士たちが籠を下ろす。玉を持って、一つずつ空高く投げ飛ばして、数えていく。

『いーち! にぃー! さーん!』

 しゃがみながら、メニーがテリーの手を掴んだ。

「お姉ちゃん、もう逃げる準備して」
「え」
「こっち」
「え」

 メニーがしゃがみながらテリーを引っ張る。ニクスは不思議そうな顔でじりじり移動する二人を眺める。

「メニー、あたしは足が痛いの」
「結果出たら、何としてでもサリアのところまで行ってね。…ソフィアさんが来ても、ついて行っちゃ駄目だよ」
「は?」
「ほら、走る準備して」

 籠から玉が投げられる。

『ごじゅーろくー! ごじゅーななー!』
「いい? 結果出たら、すぐにだよ?」
「別に次の競技、すぐに出番があるわけじゃないし、大丈夫よ」
「そういう問題じゃないの」
「はあ? あんたはさっきから何言ってるのよ」
『ひゃくにじゅー! にゃくにじゅういちー!』

 おーっと、これは。

『一個差で、赤チームの勝利ー!』
「やったわ! 皆! キッド様がお喜びよ!!」

 アリスの一言に、歓声が沸き起こる。

「「全ては、キッド様のために!」」
『それでは、片付けに入りまして、次の種目に…』

 ヘンゼの声が次の進行した途端、キッドの目が、リトルルビィの目が、ぎらりと光った。メニーが立ち上がり、テリーを立たせ、背中を押した。

「お姉ちゃん! 今だよ!」
「え?」
「早く!!」
「え?」

 何が何だかわからないテリーがサリアに向かって走り出す。しかし、後ろからキッドとリトルルビィが一斉に走り出した。テリーが振り向く。にこにこ笑う二人が追いかけてくる。テリーがぎょっとした。

「ひ!?」
「テリー、ちょっとこっちおいで!」
「テリー! 私テリーに用があるの!!」
「さ、サリアぁぁぁああああ!!!!」

 ソフィアが壁になる。テリーがぎょっとする。

「くすす! テリー、ほら! ポーズして!」
「うえええええええええええん!! サリアあああああああああああ!!」
「ソフィアさん、退いてください。どうされました? テリー」
「うわぁあああああん!!」

 メニーの助言により、テリーは無事にサリアの元へとたどり着いたのだった。

((泣き喚いてぎゅってするテリーも可愛い!!))

「……はあ……」

 三人の視線に、メニーが呆れたため息を吐いた。






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