おとぎ話の悪役令嬢のとある日常(番外編)

石狩なべ

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悪役令嬢のとある日常

大運動会(5)

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 時は流れ、とうとうこの競技が来てしまった。

『午後の部の、借り物競争ぉぉおおおお!』

 ヘンゼとグレタが声を揃える。

『借り物競争用のメモを置いておいたよ!』
『皆! 必要なものは大きく! 元気に声をあげて求めるように!』
『もちろん、お兄さんの貸し出しも、OKだよ!!』

 馬鹿な放送が鳴る中、アリスが深呼吸していた。

「借りもの競争、ああ、どきどきする……」

 アリスが構える。

(でも大丈夫よね! 皆優しいもの! 元気よく、声を出すわよ!)

 サガンが銃を構える。

「よーい」

 ぱん!
 アリスが走り出す。

「ふおおおおおおお!」

 目の前にあるメモを掴み、広げる。

「えっと! お題は!」

『上司』

「……上司?」

 アリスがメモを持った手を振る。

「すみませーん。上司っていらっしゃいますかー?」
「おやおや、これは」

 にょこっと、紫色の紳士ジャージTシャツを着るガットが横から出てくる。胸には『がっとくん』と可愛らしく書いてある。そして本日も相変わらずのにやけ顔。

「アリス、上司と書かれていたということは、俺の出番ではないか?」
「げっ! なんでガットさんがいるんですか!?」
「あんたの応援に来てあげたのさ。従業員が参加している運動会だからね」
「そうですか! だったらガットさん、お席にお戻りください! 私、別の人を探します!」
「照れている場合じゃないぞ。アリス。俺と手を繋いで、ゴールまで走ろう」
「いや、結構です!」
「アリス、ふふふふ」
「やめてください!」
「ふふふふふふ」
「気持ち悪い!」
「ふふふふふ!」
「た」

 アリスが全力疾走で逃げだす。

「助けてぇぇえええええ!」
「ふふふ! 待つんだ。アリス!」
「悪夢よ! こんなの悪夢よぉぉおおお!」

 アリスがガットから逃げるために死に物狂いで走り出す。しかし、ゴール寸前にガットが追いつき、アリスの手を握ってゴールしたため、見事に一位を獲得したのであった。

「いやあああああああああああああああああ!! 手を洗わないとぉおおおおおおおお!」
「はっはっはっはっはっ!」

 アリスをからかって、本日もガットは満足そうである。
 続いて、ニクスが構える。サガンが銃を上に上げる。

「よーい」

 ぱん!
 ニクスが走り出す。周りが素早くメモを取っていく。

(あー、一枚しか残ってない……)

 ニクスが残った一枚のメモを拾い、広げた。

「おっと、これはしまった……」

 ニクスが周りを見る。そして、大きく手を振った。

「ビリーさん! いいですか!」
「うん?」

 ビリーがのそのそとニクスに走っていく。

「私かい?」
「おじいちゃんって書いてあって、あの、あたし、……おじいちゃん、いないから……」
「いいよ」

 ビリーが優しく微笑む。

「ニクス、一緒に走ろう」
「ありがとうございます!」
「行くぞ」
「はい!」

 ニクスの足に、ビリーが合わせて走る。最下位ではあるが、温かい拍手が迎えられた。

「ニクス、よくやった。えらいぞ」
「えへへ!」

 照れ臭そうに笑うニクスを横目に、テリーが走る準備をする。

(いいこと。テリー。ニクスの代わりに、あたしが一位を取るのよ!)

 白組優勝! あたしは、白組の柱になるのよ!

「っしゃあ!」
「よーい」

 サガンが銃を上に上げ、撃った。
 ぱーん!

(っしゃああああ!)

 テリーが走り出す。しかし遅い。それでも必死に走る。メモを拾い上げる。

(どうだ!)

 メモを広げる。

「……っ」

 メモの内容に絶句する。しかし、迷っている暇はない。

「畜生!  ニクスのために我慢よ!」

 テリーが動いた。





 NEXT
 引き続き大運動会(5)
 密会(キッド)



(*'ω'*)


 その頃一方、ドロシーが空を飛んで運動会を眺めていた。

(ああ、なんか眠たくなってきたなぁ。借り物競走かぁ……)

 チラッと目玉を動かす。

「……ん? なんだあれ」

 一人の参加者から禍々しいオーラが見える。ドロシーが眉をひそめた。

「……何あれ……」

 禍々しいオーラが、光り出す。

「こ、これはまさか!」

 ドロシーが目を見開いた。

「呪い!」

 その瞬間、運動会会場に台風のような風が吹き荒れ、砂嵐が発生する。

「きゃー!!」
「目に砂がーーー!」

 会場全体が砂嵐に包まれてしまう。

「な、なんだ! これは!?」

 リオンが腕で顔を隠し、目を細めながら叫ぶ。

「ジャック!」

 ジャックが影から周りを見回す。突然の突風に混乱する人々。

「ぎゃーーー!」
「うわーーー!」
「吹き飛ばされるーーー!」
「僕のミックスマックスハンカチーー!」
「いやーーー! パンツが見えちゃうーーー!」

 ドレスや体操着を押さえる者、ハンカチや荷物が飛ばされる者。大混乱の会場。
 テリーがニクスと手を繋ぎながら、腕で顔を隠し、目を細める。

「一体何なの! これは!!」
「テリー! お父さんの時と同じ感じだ!」
「ということは……!?」

 ニクスが頷いた。

「中毒者だ!」

 その瞬間、リトルルビィが駆け出した。赤い目玉を砂の中で見開き、その影を追う。

 砂の煙が舞い散る中、キッドが耳をすます。変な音が聞こえれば、そちらに向かって銃を構える。

 ソフィアの目が黄金に輝く。砂が幻覚なのか確かめる。これは本物の砂であり、標的は風だ。

 アリスがシャツを押さえた。

「きゃーーーー! このままじゃ下着が見えちゃうじゃないー!! 今日は勝負下着じゃないのにーーー!!」
「アリスちゃん! そういう問題じゃない!」

 横でメニーが冷静な突っ込み、声をテリーに向けた。

「お姉ちゃん!」
「メニー! 動かないで!」

 テリーが空を見上げる。ドロシーが箒に乗って砂嵐に耐えている。

「ドロシー!」
「テリー! 中毒者だ!」
「分かってるわよ! どうしたらいい!?」
「まずは風を押さえないと!」

 リオンがドロシーを見上げ、叫ぶ。

「ドロシー、一瞬でいい! 一瞬隙を作るだけ! 出来るか!?」
「やってみよう!」

 ドロシーが集中する。星のついた杖を振る。

「砂漠を超えるは我が故郷。風がなっては越えられない。風よ止まれ。嵐よ止まれ!」

 ドロシーが杖を振った瞬間、杖から魔法がほんの一瞬だけ、風が止む。
 直後、リトルルビィの赤い目玉が動いた。標的は、砂嵐の中に紛れているのが見えた。

「キッド!」
「でかした!」

 キッドが銃を撃つ前に、ソフィアがキッドの肩を掴み、黄金の目を見せる。

「くすす。この方が狙いやすいのでは?」
「流石、ソフィア。お見事」

 砂が見えなくなったキッドから、ソフィアが離れる。標的の影は一つ。

「消毒!」

 薬の入った銃をこまかみに目掛けて撃つ。影がはっと気づき、避けようとした瞬間、その足を影が捕らえた。

「っ」
「ウフフフフ!」

 風の中から笑い声。

「トリック・オア・トリート!」
「っっっっ!!」

 ぱこーん、とこめかみに薬が入った。
 脳が薬にジャックされる。

 毒が浄化される。

「っっっっ!」

 中毒者がぱたりと倒れる。また吹き荒れ始めた風がどんどん収まっていく。やがて弱くなる。無くなる。

 砂嵐が消えていく。

 砂嵐が消えた。

 砂だらけになった人達が呆然と立ち尽くす中、キッドが手を叩いた。

「さあ、自然による砂嵐は去りました。皆さん、靴に入った砂を捨てて、また駆け出しましょう!」

 呆然としていたヘンゼとグレタがはっと我に返り、マイクを前に口を開き出す。

『さあさあ! 砂嵐も去ったことですし! 皆さん、競技の続きを致しましょう! ぺっぺっ!』
『それにしてもすごい砂嵐だった! 皆、無事を確認したら、各自持ち場に戻るように! ぺっぺっ!』
「「……」」

 テリーとニクスが顔を見合わせる。
 二人とも、砂だるま。
 メニーを見る。メニーも砂だるま。
 アリスを見る。アリスが砂山に埋もれていた。
 テリーとニクスが再び顔を見合わせた。

「持ち場に戻る前に……砂を落とした方が先決かも」
「だね」
「メニー、こっち来なさい」
「はい」

 メニーがテリーに砂を払い落とされる。
 テリーがニクスに砂を払い落とされる。
 ニクスがメニーに砂を払い落とされる。
 三人がアリスに振り向いた。
 アリスは砂山に埋もれている。手を上げた。

「ニコラー……へるぷみー……」
「今行くわ」

 三人でアリスを囲んだ。




(*'ω'*)




 色々あったが、最終種目、リレー。
 リオンとキッドが舞台に上がる。
 選ばれしリレー選手達がごくりと唾を飲む。
 リオンとキッドが微笑み合う。

「これが最後の試合だ。兄さん、負けないよ」
「ああ。楽しく最後の幕を閉じようとじゃないか」
「賛成だ」

 握手を交わす。リオンの耳に、キッドが囁いた。

「勝つのは俺だ」

 離れる。リオンが口笛を吹いた。

「おお、おっかない」

 リオンが振り向く。白チームのリレーの選手が集まっている。

「行くぞ! 白チームの勝利を願って!」
「「うおおおおおおおおおおお!!!」」

 キッドが振り向く。赤チームのリレーの選手が集まっている。

「皆、全力を出そう。皆の力はチームの力。出し惜しみせず、ここで全力を尽くすんだ!」
「「うおおおおおおおおおおお!!!」」

 赤チーム、白チーム、気合は十分。
 ヘンゼがマイクを握った。

『皆、気合は十分入ったようだ! 席に座ってるレディ達は、彼らに全力の応援を!!』
「キッド様ぁぁああああ!!!」
「リオン様ぁぁぁあああ!!!」
「やれーーーー!!」
「うわああああああああ!!!」
「キッド! 頑張ってぇーーー!」
「リオン様ーーーー!!」
「赤チームーーーーー!!!」
「白チームーーーーー!!!」

 皆が全力で声を出す中、テリーが掌にグミを広げた。

「ニクス、これあげるわ」
「わあ、可愛い。クマの形だ」
「違うわ。これ、鼠の形なのよ」
「あ、本当だ。鼠だ」
「あげるわ。レモン味よ」
「じゃああたしもあげる」
「え、いいの?」
「交換でしょ?」
「え、あ、じゃ、じゃあ、ニクス、あの……」
「メニーにもあげるよ。はい」
「ニクスちゃんありがとう!」

 選手たちが構える。サガンが笛を咥え、銃を空に構える。

「よーい」

 ぴーーーーー!

 ぱん、という銃の音が天まで響く。
 その瞬間、選手たちが走り出した。

「「うおあああああああああああああああああああ」」
「「ぎゃああああああああああああ!!!!」」

 選抜選手たちによる、リレーが始まる。
 ヘンゼとグレタと手に汗握る。

『とうとう始まったーーー!! 最後の戦いだ!! いけ! 頑張れ!! これで勝ったら、お兄さんみたいにモテるぞーーーーー!!』
『ああ! 興奮が止まらない!! いげぇぇぇええええええええ!!!』

 アリスが赤旗を掲げる。

「赤チーム!! ファイトオオオオオオオ!!!」

 赤旗がぶんぶん振られる。負けじと白旗がぶんぶん振られる。
 ビリーがお茶を飲む。メイドが歩いてくる。

「ビリー様、おがわりはいかがですか?」
「結構だよ。コネッド」
「かしこまりましたぁ」

 びゅーん! と選手が走っていく。サリアが目で追いかける。

「ソフィアさんはどちらを応援されてます?」
「私は勝負に興味はありません」

 興味があるのは、一人だけ。

(くすす。呑気にお菓子を食べてるテリーも、とても恋しいよ)

 カメラをズームしてテリーを覗く。その前を選手が走っていく。
 アーメンガードとギルエドが声を張り上げる。

「行きなさい!!」
「そうだ! そこだ!」
「走りなさい!!」
「そうだ! そこだ!」
「そうよ! いけー!」
「そうだ! いけー!」

 二人の応援の声に、クロシェがくすくすと笑う。また向こうの応援席からアメリとレイチェルが会話する。

「レイチェル、ほら、応援するわよ!」
「声を張り上げるだなんて、はしたない」
「応援したら勝てるかもよ。ほら、私と一緒に声を出しましょうよ」
「あ、アメリアヌと……一緒に……?」
「いけー! 赤チームー!」
「い、いけー……」

 赤旗と白旗が振られる中、選手達が交代する。バトンを持って、走り出す。抜かし、抜かされ、全力を尽くし、我がチームの勝利を導く。

 そして、最終コース。

 先には、キッドとリオンが待っている。
 二人が一瞬顔を見合わせる。選手たちに顔を向ける。選手達が走ってきた。赤のバトンをキッドに差し出す。

「キッド殿下!」

 白のバトンをリオンに差し出す。

「リオン殿下!」

 二人が笑った。

「「よし、きた!」」

 同時にバトンを受け取り、走り出す。
 観客席から声がさらに強くなる。

「ぎゃぁああああああああああ!!!」
「うわぁああああああああああ!!!」
「キッド殿下!」
「リオン殿下!!」
「いけーーーー!」
「うおーーーーーー!!!」

 リオンが走る。全力で走り出す。

(負けてたまるか!)

 今まで散々負けてきた勝負を思い出す。その度に勝ったキッド本人に慰められ、惨めな思いをした日々。

(だが、今の僕は一人じゃない)

 大きな歓声。拍手。応援の声。白チームの皆がいる。空から応援してるドロシーがいる。

 そして、

(ニコラがいる!)

 一人じゃない。
 チームがいる。
 チームの人々に背中を押されるように、リオンの足が軽やかに動く。

(勝つ)

 リオンは見えている。

(勝てる!)

(とか、思ってるんだろうな)

 キッドがにんまりと笑う。

(勝つのは俺だ)

 キッドも同様。背負っているものが違う。
 赤チームを背負う。
 期待を背負う。
 勝ちを背負う。
 キッドは結果を出す。
 キッドは完璧を求める。
 勝ちは見える。
 勝てば欲しいものが手に入る。
 名誉、栄誉、

 そして、

(テリー)

 キッドは求める。
 リオンは求める。

(この勝負)
(何があっても負けられない)
(赤チームの勝利を)
(白チームの勝利を)
(勝つのは)
(勝利は)

 キッドとリオンがゴールを目指す。

「俺のものだ!」
「僕のものだ!」

 二人が走る。足を揃える。悲鳴。歓声。轟く声。

「きゃー! キッド! 頑張ってー!」
「リオン! やれ! キッドを討て!」

 スノウがはしゃぐ。国王は手に汗握る。兵士は興奮しすぎて握っていた綱を離してしまう。

「あ、やっべ」

 アレキサンダーが走り出す。

「ひひん!」
「わー! アレクちゃんがー!」
『あれ!? アレクちゃん!!』

 グレタが慌てて立ち上がった。

『兄さん! アレクちゃんが! アレクちゃんが走ってるぞ!』
『え!? あ、本当だ。……え、なんで?』
『アレクちゃん! 何をしている!』
「ひひーん!」

 ドカドカと近づいてくる音に、キッドとリオンが目を見合わせた。

(これは)
(馬の音……?)

 二人が振り向く。アレキサンダーが走っていた。

「はっ!? アレクちゃん! 何してるんだ!?」

 叫んだリオンの横を通り過ぎ、アレキサンダーが全力で走り出す。

「ひひーん!」
「なんでお前が走るんだよ! ちょ! 待て! アレキサンダー!!」

 ゴールの綱が破かれた。サガンが銃を天に向けて撃つ。

 優勝は、黒馬アレキサンダー。

「ひひーん!」

 しかし止まらない。応援席に向かって走っていく。応援席に座っていた人々が悲鳴をあげて逃げ出した。しかしアレキサンダーは止まらない。もっとスピードをあげていく。人々がさらに悲鳴をあげる。

「リオン!」

 キッドが振り向き、指を指す。

「横に回れ!」
「わかった!」

 リオンが方向転換する。キッドが石を蹴り、手に持った。足を止め、アレキサンダーにめがけて投げる。

「それ!」

 石が当たり、アレキサンダーが驚き、一度体を起こした。逃げ惑う人々が悲鳴をあげる。声に驚いたアレキサンダーが慌てて方向転換した。リオンがいる。

「よし、きた!」

 リオンが走る。自分に向かって走ってくるアレキサンダーに華麗に飛び乗った。

「それ!」

 綱を引くと、アレキサンダーが再び体を起こし、地面に足を置く。そして、わたわたと周りを回り始める。

「アレクちゃん! 僕だよ! さあ! もう大丈夫!」

 リオンが声を届け、優しくアレキサンダーの背中を叩いた。

「僕さ! リオンさ! 落ち着いて! さあ! もう大丈夫!!」

 キッドがアレキサンダーの前に立つ。顔に触れる。

「よし、アレキサンダー。俺が分かるか? ん?」

 アレキサンダーがキッドを見る。目にキッドが映ると、動きがどんどん収まっていく。

「よしよし。いい子だ」
「お腹空いてるのか? 人参いるか? アレクちゃん」

 リオンの声に、アレキサンダーが鼻を鳴らした。リオンが綱を持って背中から下り、アレキサンダーを撫でる。

 数人の兵士が慌てて走ってきた。

「キッド様!」
「リオン様!」
「大丈夫だよ」

 キッドがアレキサンダーの頬を撫でる。リオンがグレタに振り向いた。

「グレタ! アレクちゃんの面倒くらいちゃんと見ろ!」
『リオン様! 私は解説してました!!』
「ああ、そうだった」
「まあ、怪我人はいないみたいだし」

 キッドが辺りを見渡す。

「……この場合、どうやって結果を出すのかな?」
「そうだ!」

 リオンが不満げに腕を組んだ。

「今の試合がノーカウントなんて嫌だぞ!」
「だからと言って、二回走るのは無理だ。選手達も疲れてるだろうし」
「ちゃんと公平に点数入れるんだろうな」

 リオンとキッドがヘンゼとグレタを睨む。ヘンゼとグレタがにこりと笑った。

『当然です!』
『我々に不平などありません!』
『しかし、キッド殿下、リオン殿下、今までの得点をですね、こう、我々が色々計算した結果』

 得点が出された。

『赤チーム、100点!!』
『白チーム、100点!!』
『アレキサンダーは200点!!』
『よって……』

 ヘンゼとグレタが声を揃えた。

『アレキサンダーの勝利ーーー!!』

 応援席の人々がずっこけた。そして、すぐに起き上がり、抗議の声を実況解説席に向ける。

「おい! 実況解説!」
「ちゃんとやれ!」
「なんで引き分けなんだよ!」
「俺達の苦労は何だったんだよ!」
「時間返せ!」
「キッド様頑張ってたのに! あんまりよ!!」
「リオン様だって頑張ってたわ!!」
「ちゃんとしてよ!!」
『はははは! おいおい! 待ってくれよ! 子猫ちゃん達! お兄さん達は何も悪くないよ!』
『そうだ! 俺達は計算しただけだ!』
「なんで馬が優勝するんだよ!」
「こんなのあんまりよ!!」
「うおおおおおおお!! こんな結果、認めねぇぇえええ!!」
「こうなったら、色んな競技で点数を稼ぐしかないわ!!」
「行きましょう! ぐずぐずしてはいられないわ!!」

 皆がそれぞれ勝手に舞台にあがり、それぞれの競技を勝手に始めだす。

「長距離リレーだ!」
「幅跳びだ!」
「騎馬戦だ!」
「風船割りだ!」
『ちょ、ちょっと勝手に始めるな!』
『皆! 青春してていいぞ!』
『グレタ! 馬鹿! 余計なことを言うな!!』
「「全ては、キッド様のために!」」
「「全ては、リオン様のために!!」」

 人々が勝手に競技を始め、競い合う。
 リオンが皆の前向きな姿勢に感動する。
 キッドがクスクス笑い出す。
 スノウと国王は写真の確認を始める。
 テリーはお菓子を食べる。

「ま、運動会だもの。運動してなんぼよね」
「テリーはもうしないの?」
「あたし、体動かすの嫌いだから」

 ニクスと一緒にテリーがお菓子を食べる。メニーが手を伸ばす。

「お姉ちゃん、それ取って」
「これ?」
「ありがとう」

 メニーがお菓子を食べる。隣にアリスが座ってくる。

「あ、お菓子パーティー? いいわね。私もあげるから皆のちょうだい!」
「アリス、これ食べる?」
「あら、いいの? ニコラ。私達敵同士よ?」
「もうチームは崩壊したわ。いいから食べて」
「やった」

 アリスがお菓子を食べる。アリスの横に、リトルルビィが座った。

「私も食べたい!」

 アリスがリトルルビィに悪戯な笑みを見せた。

「リトルルビィ、お菓子はあるの? ここはお菓子の交換場所よ」
「あるもん!」

 リトルルビィがお菓子の袋を開けた。

「はい。アリス」
「ありがとう」
「ニクスもいる?」
「うん。ありがとう」
「テリー!」
「ん」
「メニーも!」
「ありがとう! リトルルビィ!」
「にゃー」
「あ、ドロシーは駄目だよ」
「にゃっ」

 皆でお菓子を食べる。リトルルビィの後ろに、ソフィアが座った。

「良かったら、パイ食べる?」
「食べる!」

 リトルルビィがパイを受け取る。その後、テリーの後ろにサリアが座った。

「テリー、こちらもどうぞ」
「わ、サリア」

 サリアが持ってきたアイスとソフィアの持ってきたアップルパイが追加される。
 そんな匂いにつられて、ニクスの隣にキッドが座った。

「やあ、ニクス」
「あ、キッドさん。お疲れ様です」
「げっ」

 テリーがお菓子を食べながらキッドを睨んだ。

「あんた何やってるのよ」
「競技が終わったからお菓子交換に来た。俺もあげる」
「わあ、美味しそう」
「くくっ。ニクスは良い子だね。好きなだけ食べて」
「ありがとうございます」
「ニクス、こんな奴のお菓子なんか食べる必要ないわよ」
「キッド、リオン様は?」

 リトルルビィが訊くと、キッドが肩をすくめた。

「薬切れ」
「ああ」

 リトルルビィが頷いた。
 太陽に当たりすぎたリオンは、お菓子交換に来る前に倒れて病院へ搬送中だろう。

(……あとで見舞いに行ってやろうかしらね)

「テリー」

 じろりと、キッドにテリーの顔が覗かれる。テリーが睨んだ。

「何よ」
「今、余計なこと考えただろ」
「別に?」
「リオンなんかどうでもいいよ。ね、ニクス、ちょっと席変わって」
「あ、はい、どう……」
「駄目よ。ニクス、ここにいて」
「あ、でも、テリー」
「ニクス、ね、一瞬だけ。テリーの隣に座らせて」
「駄目。ニクス、ここにいて」
「テリー、俺の走りはどうだった?」
「残念ね。見てなかったわよ」
「キッド、いい加減にしたら? テリーはキッドなんかに興味ないのよ」
「リトルルビィ、お前は黙ってろ」
「くすす。キッド殿下、フラれたからって八つ当たりはよくありませんよ」
「ソフィア、お前はあとでデコピンだ」
「くすす。気難しい上司はこれだから困る」
「ニクス、お菓子美味しいでしょ? ね、ここにいて」
「テリー、キッドさんとイチャイチャしなくていいの?」
「いいのよ。あたしはニクスとイチャイチャするんだから、邪魔させないわ」
「また浮気か?」
「浮気じゃないわよ。ばーか」
「お姉ちゃん、お茶いる?」
「ん」
「キッド、これ美味しいわよ。はい」
「ありがとう。アリス」
「サリアもいる?」
「ありがとう。テリー」
「ね、写真は?」
「ふふっ。沢山撮れましたよ」

 サリアが微笑む。

「現像したら、皆で見ましょうね」
「あたし、変な顔してなかった?」
「可愛かったですよ。テリー」
「キッド、これソフィアのアップルパイだって」
「ソフィアのパイ美味いんだよな」
「くすす。キッド殿下、下ネタは止めていただけますか? 汚らわしい」
「汚らわしいのはお前だ。ったく。ニクスもどう?」
「あ、いただきます」
「リトルルビィ、お茶いる?」
「ありがとう。メニー!」

 グラウンドで競技が行われる中、応援席では遠足が繰り広げられ、一方では病院に運ばれる熱中症のリオンがいた。

(……テリーの代わりに、様子を見に行くか)

 ドロシーが欠伸をした。

 それぞれ体を動かし、元気で健康な姿を見せる大運動会は、こうして幕を閉じたのであった。





 番外編:大運動会 END






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 ドレスの代償(メニー)
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