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324 可愛い末っ子

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“ユイトが成人したら、プロポーズするから”


 真剣な表情で僕を見つめるアレクさん。
 まさか、そんな風に思っていてくれていたなんて……!

 アレクさんはそう言うと、僕の顔に優しく手を伸ばす。
 柔らかく、癖になりそうなプニプニ感……。
 ……あれ? プニプニ……? アレクさん、いつの間にこんなに柔らかく……。ん? もしかして、目の前のアレクさん……、ではない……?

 ──じゃあ、一体誰が……?

 そう思った瞬間、視界がぐにゃりと靄がかかった様に歪んでいった。




「ん~……? なに……?」

 気持ちよく寝ていると、僕の顔をペタペタと触る柔らかい感触……。

 ……これ、知ってるなぁ……。

 そう思いながらゆっくり目を開けると、僕の目の前にはにこにことご機嫌のメフィストが。どうやら僕が起きるのを待っていたみたいだ。

「……メフィスト、おはよう……。もう起きちゃったの……?」
「あ~ぅ!」

 僕の周りには、ハルトにユウマ、そしてレティちゃんがまだスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。ノアたち五人も、タオルのベッドでぐっすり夢の中だ。
 トーマスさんとオリビアさんはもう起きてるみたいで、この寝室には見当たらない。

「ふふ、朝からご機嫌だねぇ?」
「あ~ぃ!」

 皆を起こさない様にそっと体を起こすと、メフィストは嬉しそうに抱っこをせがんでくる。ふにゃふにゃの小さくて柔らかい体に、甘いミルクの匂い。それと……。

「……オムツ、変えなきゃね?」
「う!」

 先程までとは違う凛々しい顔つきに、思わず笑ってしまった。





*****

「メフィスト、キレイになったよ~」
「あ~ぃ!」

 メフィストはオムツを替えてスッキリした様子。寝かせた体勢のまま、両手を叩いて嬉しそうに僕を見上げている。
 そっと抱き上げると、小さな手で僕の服をぎゅっと掴む。その仕草が堪らなく愛おしい。僕のブレスレットが気になる様で、片手で僕の服、もう片方でブレスレットを弄って遊んでいる。

「今日は途中まで一緒だね?」
「あぅ!」

 今日は孤児院でお米の炊き方を教える予定になっている。フレッドさんが手配してくれた馬車が迎えに来てくれる予定だったんだけど、トーマスさんとオリビアさんはハルトたちを連れて街で買い物をするらしく、途中までサンプソンの馬車で一緒に向かう事になった。
 お米も鍋も全部準備してくれてるらしいから、後は僕がちゃんと炊き方を指南するだけなんだけど……。

「失敗したらどうしよう~……」

 少し早めに行って確認はするけど、僕の知らない調理器具とかだったら……? ドリューさん達には好評だったけど、もし子供達にお米を受け入れてもらえなかったら……?
 今になって少し不安になってきた。

「う!」

 すると、メフィストが僕の頬をぺちぺちと両手で触りだす。

「ん~? ……励ましてくれてるの?」
「あぃ!」

 まるで、そうだ! と言わんとばかりににぱっと笑うメフィスト。あまりの可愛さに、トーマスさんじゃないけど唸ってしまった。





*****

「オリビアさん、おはようございます」
「あ~ぃ!」

 メフィストのオムツを替えリビングに向かうと、オリビアさんがキッチンで朝食の準備を始めていた。どうやら今朝はお米らしく、白米が水に浸かっている。昆布も鰹節も出しているし、オリビアさんが最近嵌っている和食かな?

「ユイトくん、メフィストちゃん、おはよう。二人とも早起きね?」
「メフィストに起こされました……。ね?」
「あ~ぅ!」

 僕が冗談ぽく言うと、メフィストは胸を張って満面の笑み。まるで起こしてあげたと言ってるみたいだ。ハルトとユウマに仕草が似てきたかもしれない。我が家の可愛い末っ子は、色んなものを見て成長しているらしい。

「あら、お兄ちゃんを起こせたから朝からそんなにご機嫌なの~?」
「あ~ぃ!」
「もう! 可愛いわね~!」

 オリビアさんから頬にキスされ、メフィストは楽しそうに笑い声をあげる。ふと周囲を見渡すと、起きている筈のトーマスさんの姿が見当たらない。

「あれ? トーマスさんは?」
「トーマスならユランくんと一緒に庭にいるわよ」
「あ、ユランくんももう起きてるんですね」
「そうなの。ユイトくんはまだ見てないけど、二人とも庭にある物が気に入っちゃったみたいでねぇ……」
「庭にある物……?」

 あ、そう言えば……。レティちゃんが庭で魔法の練習をしたって言ってたな~。一緒に稽古をしていたハルトと、一足早く帰って来たユウマが、おにわしゅごぃの! って興奮してたし。
 昨日は日が暮れてから帰って来たから、僕はまだ実物を見れてないんだけど。
 どんな物があるんだろうと少しワクワクしながらメフィストを抱えて庭に出ると、トーマスさんとユランくんの後ろ姿が見えた。サンプソンと他のたち、それにドラゴンも既に起きている。セバスチャンは……、木の枝でまだ就寝中だ。メフィストはそれを見てあぅ~、とガッカリしている。また遊んでもらうつもりだったんだろうな。


「おはようございます」
「あ~ぃ!」
「お、おはよう。二人とも早起きだな」
「ユイトくん、メフィストくん、おはよう!」
「たっ!」
「お? メフィストはご機嫌だな~?」

 声を掛けると、二人とも楽しそうに振り返る。トーマスさんは朝から元気なメフィストを僕の腕からそっと抱きかかえ、オリビアさん同様チュッと頬にキスを贈る。

「ユイトくん、早くこっち来て!」
「え? ユランくん、興奮してるね……?」
「ボク、こういうの大好きなんだ!」

 そんなに凄い物なの? そう思いながら近付いていくと……。

「うわ……! スゴ……」

 僕の記憶が確かなら、一昨日まで何も無かった筈の庭先に大きな大きな銅像が……。そしてその銅像の周りに、可愛らしい動物の形をした銅像が。それも何体も……。あ、手の形をしたのはちょっと怖いかも……!

「あ! ノアみたい!」

 そしてその一角に、ノアそっくりな妖精の形をした銅像が。羽も薄く、まるで本当に動き出しそうだ。

「ボクもこれ見て驚いたよ」
「真ん中のがオリビアが見本で出した泥人形ゴーレムで、周りにあるのがレティが練習で出した物らしい」
「レティちゃん、どんどん凄くなっていきますね……」

 魔力が豊富だって言うのは知っていたけど、魔法陣を使ったりハンカチにおまじないを掛けたり……。あと広範囲の魔力探知も得意だし。僕は魔力や魔法って言うモノに無知だけど、これが誰でも出来る事じゃないっていうのは分かる。

「元々魔力もあるし、器用な子だからなぁ……。コツさえ掴めばこれからもっと上達するだろうな」
「ボクとドラゴンを見つけてくれたのもレティちゃんですし」
「クルルル!」
「ボクたちの恩人だもんね」
「クルル!」

 ドラゴンもユランくんの手にスリスリと鼻先を寄せ、機嫌良さそうに返事をする。メフィストはドラゴンの動きに合わせて声を上げ楽しそうだ。トーマスさんの顔が今日も蕩けている。

「……でも、この庭……。元に戻せるんですか?」

 イーサンさんが手配してくれた家の庭。
 管理してくれているコールソンさんが見たら驚くんじゃ……?

「いやぁ、それが……。コールソンさんも大分興奮してるみたいでな。暫くこのままの状態にしておくそうだ」
「興奮……」

 昨日、オリビアさんがさすがにはしゃぎ過ぎたと庭の状態を謝罪しに行き、コールソンさんが見に来たところかなり気に入ってしまったらしい。
 どうやらコールソンさんもユランくんのお仲間らしく、ゴーレムを暫く眺めていたそうだ。子供みたいに目をキラキラさせていたって。
 ……まぁ、僕もその気持ちは分かるけど。

「それにしても、今にも動き出しそうですね……!」

 アレクさんと一緒に見た聖騎士パラディンの像みたいに鎧を着て剣を携えている。これはハルトのリクエストかな? そこにあるだけで迫力が……!

「これか? 多分オリビアが魔力を流したら動くと思うぞ?」
「「えっ!? 動くんですかっ!?」」

 思わずユランくんと声がハモッてしまった。

「ハハ! そんなに食いつくとは……! 後でオリビアに動かしてもらうといい」
「え……、見たい……!」
「ユイトくん、後で一緒に頼んでみよ!」
「うん!」

 これは絶対見たい……! 出掛ける前に忘れない様にお願いしないと!







《 ……ユイトとユランは朝から元気だな 》
《 あぁ、セバスチャン。起きたのか 》
「クルルル!」
《 元気な声が響いてきたからな 》
《 昨日も遅くまで飛んで疲れただろう 》
《 必要な事だ。問題ない。それよりも…… 》
《 それよりも? 》
「クルルル……?」
《 さっきからメフィストの視線が…… 》
《 ……あぁ、また涎まみれ確定だな 》
《 勘弁してくれ…… 》
「クルルル!」
「あ~ぃ!」

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