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04:孤児院での出会い
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セオが孤児院に預けられたのは、生まれてすぐのことだった。
父親は子爵家の嫡男で、母親は子爵家で働く平民のメイドだったらしい。既婚者である父親が軽い気持ちで美しいメイドに手を出し、その結果、セオが生まれた。
すでに本妻の子がいた父親にとって、セオは不要な存在だった。結局、セオは父親の治める領地から遠く離れた、他領の田舎の孤児院に捨てられた。
孤児院で、セオは他の子供たちに虐められた。平民の子供たちは黒やこげ茶などの濃い色の髪と瞳を持ち、肌も浅黒い者ばかりだ。その中で、輝く金色の髪、黄緑色の瞳、白磁のように美しい肌を持つセオは異質な存在に見えたせいだった。
「なんでそんなに白いんだ?」
「オバケみたい、気持ちわるーい!」
「病気じゃないのか? うへぇ、あっち行けよ!」
そんな風に、いつもセオは嫌われ、仲間外れにされた。
幼い頃から容姿を悪く言われ、虐められてきたセオは、本当は稀に見る美しい容姿なのにも関わらず、自分は世界一醜いのだと勘違いして育った。友達もできず、いつも虐められ、孤独で寂しい毎日を過ごしていた。
そんなセオの辛い日々は、七才の時、ハーディが孤児院に入ってきてから変わった。
ハーディの亡くなった両親は商人で、貴族とも取引があった。その関係から貴族を何度も見たことがあるハーディにとって、セオは変でも妙でもなく、むしろ天使のように美しい少年に見えた。
「俺はハーディ。おまえは?」
「ぼ、僕はセオ」
「そっか。よろしくな、セオ! 俺たち今日から友達だ」
ハーディは笑顔でセオに手を差し伸べ、セオはおっかなびっくりしながらも、その手をそっと握った。それはとても温かかった。
その時以来、ハーディはセオを守るようになった。孤児院の庭の隅で他の孤児たちに虐められているセオを見かけると、すぐに駆けつけ、いじめっ子を撃退してくれた。
「ったく、あいつら仕方ないな。セオ、大丈夫か? 怪我は?」
「平気。いつもありがとう、ハーディ」
殴られて転ばされて怪我をして痛くても、ハーディに優しくしてもらえるだけで、セオは幸せで温かい気持ちになれた。
ハーディはセオ以外の孤児たちともすぐに仲良くなった。喧嘩が強く、明るくて人懐っこい性格のハーディの周りには、自然と人が集まってくる。見目の良さから女の子たちからの人気も絶大で、彼女たちは毎日のようにハーディのお気に入りの座を争っていた。
そんなハーディが「セオは俺の一番の友達だ」と公言してくれるおかげで、セオへの不当な虐めは次第に減っていった。「白くて気持ち悪い」と敬遠されることはあったが、暴力を振るわれることはなくなり、それだけでセオにとっては十分ありがたいことだった。
気づけば、セオはハーディを恋愛的な意味で好きになっていた。いやきっと、初めて声をかけてもらった瞬間から、好きになり始めていたのだろう。
だから、十才の時にハーディから「ギルドに登録できる年齢になったら、一緒に冒険者になってパーティを組まないか」と誘われた時、セオは考える間もなく大喜びで頷いた。
その約束通り、二人は十二才でギルドに登録し、冒険者として活動を始めた。最初は町のドブ掃除や薬草集めなど、簡単な仕事をして小銭を稼いだ。得た金の半分は孤児院に渡すが、残りは自分たちのものになる。
セオとハーディは、他の冒険者が嫌がるような仕事でも積極的に引き受けた。少しずつ貯めた金で装備や道具を整え、ギルドが行う有料の戦闘訓練研修を受けるなどして、ゆっくりだが確実に実力を高めていった。
セオが魔力に目覚めたのは十三才の頃だ。魔力は貴族の血を引く者にか宿らず、魔術師は存在そのものが貴重とされている。魔法の習得は難しいが、有用性は非常に高い。それを知ったセオは、ギルドの書庫にある本を借りて、必死になって魔法を学ぶようになった。
冒険者の中には貧乏貴族の次男や三男坊がチラホラいて、彼らはパーティ仲間を魔法で支えている。セオもハーディの役に立ちたい一心で、先輩魔術師たちに頭を下げて魔法の使い方や活用方法を教わり、寝る間を惜しんで訓練に励んだ。
そのおかげで、今ではいくつかの魔法を自在に使えるようになった。魔力量は少ないが、支援魔法や治癒魔法で戦闘をサポートできるようになり、ハーディに喜んでもらえている。
「魔法ってすごいよな。ありがとな、セオのおかげだ」
ハーディからそんなことを言われるたび、セオは最高に嬉しく、幸せな気持ちになれた。セオにとってハーディの笑顔は、この世のなににも勝る宝物だった。
セオにとって、ハーディ以上に大切なものはない。自分がここまで生きてこられたのも、冒険者としてやっていけているのも、すべてハーディのおかげだと心から感謝している。
だからこそ、大切で大事で大好きなハーディを、自分のせいで困らせるのは嫌だった。告白なんてとんでもない。醜い自分から恋愛的な好意を寄せられていると知ったら、ハーディがどれほど嫌な気持ちになることか。そんなことは絶対に許されない。
そう思ってきたからこそ、セオはこれまで、ハーディを好きだという自分の恋心を、必死に隠して生きてきた。だから、「恋人はいるのか?」というハーディからの問いにも、動揺することなく平然と嘘をつくことができるのだ。
「恋人なんていないよ。好きな人もいない」
「……そうか」
ハーディは少し考えるように、うーんと唸った。
「ってことは、これから好きな人を作らなきゃならないな。呪いを解くには、かなりの時間がかかりそうだな」
「うん。だからさ、ハーディ。俺たちのパーティは解散しよう」
セオが好きなのはハーディだ。それはこれからも変わらない。きっと、ずっとハーディだけを想い続ける。けれど、ハーディの恋愛対象は女性だ。仕事の後、足しげく娼館通いをしていることが、その証拠だ。つまり、男であるセオとハーディとが恋仲になるなど、あり得ないことなのだ。だから、セオの呪いが解ける日は遠にこないということになる。
今のセオは痩せこけた小さな子供だ。魔法が少しくらい使えたところで、ハーディの役に立つどころか、足手まといにしかならない。それならば、パーティを解散することが最善の選択だとセオは思った。
本音を言えば、パーティを解散したくなどない。ハーディと離れるなんて考えたくもなかった。けれど、呪われた役立たずには、一緒にいたいと望むことすら罪深い。今のセオがハーディのためにできる最善の選択は、パーティを解散することだ。
そう思うからこそ、セオはパーティの解散をハーディに提案したのだった。心の中の悲しみを押し隠して。
父親は子爵家の嫡男で、母親は子爵家で働く平民のメイドだったらしい。既婚者である父親が軽い気持ちで美しいメイドに手を出し、その結果、セオが生まれた。
すでに本妻の子がいた父親にとって、セオは不要な存在だった。結局、セオは父親の治める領地から遠く離れた、他領の田舎の孤児院に捨てられた。
孤児院で、セオは他の子供たちに虐められた。平民の子供たちは黒やこげ茶などの濃い色の髪と瞳を持ち、肌も浅黒い者ばかりだ。その中で、輝く金色の髪、黄緑色の瞳、白磁のように美しい肌を持つセオは異質な存在に見えたせいだった。
「なんでそんなに白いんだ?」
「オバケみたい、気持ちわるーい!」
「病気じゃないのか? うへぇ、あっち行けよ!」
そんな風に、いつもセオは嫌われ、仲間外れにされた。
幼い頃から容姿を悪く言われ、虐められてきたセオは、本当は稀に見る美しい容姿なのにも関わらず、自分は世界一醜いのだと勘違いして育った。友達もできず、いつも虐められ、孤独で寂しい毎日を過ごしていた。
そんなセオの辛い日々は、七才の時、ハーディが孤児院に入ってきてから変わった。
ハーディの亡くなった両親は商人で、貴族とも取引があった。その関係から貴族を何度も見たことがあるハーディにとって、セオは変でも妙でもなく、むしろ天使のように美しい少年に見えた。
「俺はハーディ。おまえは?」
「ぼ、僕はセオ」
「そっか。よろしくな、セオ! 俺たち今日から友達だ」
ハーディは笑顔でセオに手を差し伸べ、セオはおっかなびっくりしながらも、その手をそっと握った。それはとても温かかった。
その時以来、ハーディはセオを守るようになった。孤児院の庭の隅で他の孤児たちに虐められているセオを見かけると、すぐに駆けつけ、いじめっ子を撃退してくれた。
「ったく、あいつら仕方ないな。セオ、大丈夫か? 怪我は?」
「平気。いつもありがとう、ハーディ」
殴られて転ばされて怪我をして痛くても、ハーディに優しくしてもらえるだけで、セオは幸せで温かい気持ちになれた。
ハーディはセオ以外の孤児たちともすぐに仲良くなった。喧嘩が強く、明るくて人懐っこい性格のハーディの周りには、自然と人が集まってくる。見目の良さから女の子たちからの人気も絶大で、彼女たちは毎日のようにハーディのお気に入りの座を争っていた。
そんなハーディが「セオは俺の一番の友達だ」と公言してくれるおかげで、セオへの不当な虐めは次第に減っていった。「白くて気持ち悪い」と敬遠されることはあったが、暴力を振るわれることはなくなり、それだけでセオにとっては十分ありがたいことだった。
気づけば、セオはハーディを恋愛的な意味で好きになっていた。いやきっと、初めて声をかけてもらった瞬間から、好きになり始めていたのだろう。
だから、十才の時にハーディから「ギルドに登録できる年齢になったら、一緒に冒険者になってパーティを組まないか」と誘われた時、セオは考える間もなく大喜びで頷いた。
その約束通り、二人は十二才でギルドに登録し、冒険者として活動を始めた。最初は町のドブ掃除や薬草集めなど、簡単な仕事をして小銭を稼いだ。得た金の半分は孤児院に渡すが、残りは自分たちのものになる。
セオとハーディは、他の冒険者が嫌がるような仕事でも積極的に引き受けた。少しずつ貯めた金で装備や道具を整え、ギルドが行う有料の戦闘訓練研修を受けるなどして、ゆっくりだが確実に実力を高めていった。
セオが魔力に目覚めたのは十三才の頃だ。魔力は貴族の血を引く者にか宿らず、魔術師は存在そのものが貴重とされている。魔法の習得は難しいが、有用性は非常に高い。それを知ったセオは、ギルドの書庫にある本を借りて、必死になって魔法を学ぶようになった。
冒険者の中には貧乏貴族の次男や三男坊がチラホラいて、彼らはパーティ仲間を魔法で支えている。セオもハーディの役に立ちたい一心で、先輩魔術師たちに頭を下げて魔法の使い方や活用方法を教わり、寝る間を惜しんで訓練に励んだ。
そのおかげで、今ではいくつかの魔法を自在に使えるようになった。魔力量は少ないが、支援魔法や治癒魔法で戦闘をサポートできるようになり、ハーディに喜んでもらえている。
「魔法ってすごいよな。ありがとな、セオのおかげだ」
ハーディからそんなことを言われるたび、セオは最高に嬉しく、幸せな気持ちになれた。セオにとってハーディの笑顔は、この世のなににも勝る宝物だった。
セオにとって、ハーディ以上に大切なものはない。自分がここまで生きてこられたのも、冒険者としてやっていけているのも、すべてハーディのおかげだと心から感謝している。
だからこそ、大切で大事で大好きなハーディを、自分のせいで困らせるのは嫌だった。告白なんてとんでもない。醜い自分から恋愛的な好意を寄せられていると知ったら、ハーディがどれほど嫌な気持ちになることか。そんなことは絶対に許されない。
そう思ってきたからこそ、セオはこれまで、ハーディを好きだという自分の恋心を、必死に隠して生きてきた。だから、「恋人はいるのか?」というハーディからの問いにも、動揺することなく平然と嘘をつくことができるのだ。
「恋人なんていないよ。好きな人もいない」
「……そうか」
ハーディは少し考えるように、うーんと唸った。
「ってことは、これから好きな人を作らなきゃならないな。呪いを解くには、かなりの時間がかかりそうだな」
「うん。だからさ、ハーディ。俺たちのパーティは解散しよう」
セオが好きなのはハーディだ。それはこれからも変わらない。きっと、ずっとハーディだけを想い続ける。けれど、ハーディの恋愛対象は女性だ。仕事の後、足しげく娼館通いをしていることが、その証拠だ。つまり、男であるセオとハーディとが恋仲になるなど、あり得ないことなのだ。だから、セオの呪いが解ける日は遠にこないということになる。
今のセオは痩せこけた小さな子供だ。魔法が少しくらい使えたところで、ハーディの役に立つどころか、足手まといにしかならない。それならば、パーティを解散することが最善の選択だとセオは思った。
本音を言えば、パーティを解散したくなどない。ハーディと離れるなんて考えたくもなかった。けれど、呪われた役立たずには、一緒にいたいと望むことすら罪深い。今のセオがハーディのためにできる最善の選択は、パーティを解散することだ。
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