6 / 29
5.
しおりを挟む「えへへ、国春くんと同室で良かったぁ……」
「うん、俺も」
「ほんと?嬉しいなぁ」
リビングのソファに2人腰掛け、ホッと息を着く。俺の数少ない荷物は既にリビングに運び込まれていて、隅っこの方にぽつんと寂しそうに置かれていた。
桜花クンの荷物は結構多い。やっぱり仰々しい名前の通り、彼のお家も金持ちなのだろう。
なんにせよ、今のところ桜花クンは「月待」の人間とは違う。俺も同室になるなら彼がいいと思っていたし、実際運良くそうなった事に肩の荷が降りた気分だった。
ボンヤリとソファに背を預け、先程寮監に言われたことを思い返す。
『リビング、ダイニング、シャワールーム、他水周りの家電は2人で共有だ。洗濯・掃除は各自でやってもいいが、一応登校時間後に希望者の部屋には清掃員が入る。他人が部屋に入るのが嫌なら本人達で分担するのが吉だ』
自室に桜花クン以外の人間を入れるなんて論外だ。家事は料理以外ならまぁ並の人間程度には出来るし、自分達でやりたい。そのことをぼそりと告げると、桜花クンも笑顔で頷いてくれた。有難い。
料理は出来ないけれど、食事は売店がある。馬鹿豪華な食堂もあるらしいが、沢山の人がいると聞いて行く気にはなれなかった。それに金掛かるし。
「月待家」での待遇を余程周囲に知られたくないらしい父親は「学園内での生活は不自由なく出来るよう支援はする。しかし、浪費はするな」と言っていた。売店がある以上食堂は「浪費」になるだろう。この際料理を練習してみるのもいいかもしれない。
「国春くん」
「なに」
「あらためてさ、自己紹介とかしたいなと思って」
自己紹介。――中学1年生の最初の頃に、一度だけしたことがあるような。俺が首を傾げると、桜花クンは照れたように頬を掻いた。
「えっと……僕は桜花 美月。中学は近所の私立中学に通ってたんだけど、高等部からは『帝華』に通うのが僕の家のルールなんだ。好きなものは桜餅に、わらび餅。嫌いなものはナス。甘い物は基本好きかなぁ。――そのせいでちょっと太っちゃったから今はダイエット中!」
「へぇ。頑張れ」
「うん、ありがとう。……あとは……何か聞きたいことはある?」
別にない。
けれど、馬鹿正直に本音を言うことだけが良い事ではないことくらい、流石の俺でも知っている。首を傾げ、適当に「どこのお店の桜餅とわらび餅が美味しいの」と聞くと、桜花クンは殊更嬉しそうに頬を染めた。どうやら正解を導き出せたらしい。
知らない名前が続々と出てくるので、合格発表の際学校から支給された携帯端末のメモアプリを開き、メモしていく。今後ともお世話になる事はないだろうが、念のために。
ちなみに俺は桜餅もわらび餅も食べた事がない。そもそも餅もない。バーでは和菓子は出なかった。
さて、桜花クンの自己紹介が終わったところで、今度は俺の番らしい。別に紹介することなんてないけれど。
「佐野 国春。中学は近所の公立。父親に言われて高等部から『帝華』に入ることになった。好きな食べ物…………は、チョコレートの何か丸い奴」
「――トリュフ?」
「多分それ。嫌いなのはトマト。死んでも食べない。俺も甘い食べ物は基本的に好きだと思う。和菓子は食べた事ないからわかんないけど」
「それ人生の9割損してる」
そんなに?――確かに、俺の人生「ABYSS」の皆に会えたこと以外ほとんど不幸ばっかりだった。マジか。和菓子があれば解決した?
なんとも言えない顔をしていたんだと思う。桜花クンはくすくすと楽しそうに笑って「今度父さんが和菓子を送ってくれることになってるから食べてみるといいよ」と言ってくれた。君ダイエット中なんじゃないの?
まぁ彼は別に痩せなければ不健康な身体ではないから問題ないと思うけど。
ちなみに、トマト嫌いは初めてトマトクリームパスタを食して全てリバースしたことで発覚した。現物は勿論、トマトの味がする場合は全て受け付けない。ケチャップでギリギリセーフ。
自己紹介を終えて小さく息を吐く。なんだか無性に緊張した。
俺の自己紹介をメモアプリにメモしていたらしい桜花クンは、顔を上げてニコニコと微笑む。緊張からの解放もあってか、今の彼は非常に機嫌が良いみたいだった。楽しそうで何より。
「国春くんの事、もっと沢山知れたらなって思う。これからも仲良くして欲しいな」
「……」
多分、こういう人が人から好かれるのだと思う。本心かどうかはさておき、人に対して優しい感情と言葉を向けられる人。俺には無理だ。
「家族」以外に優しくされたことがないから、何だか照れ臭い気分だ。首裏を撫でさすり、目を逸らして頷く。かっゆい。
「……うん。俺も」
そしたらまた、彼は嬉しそうに笑ってくれるのだ。
俺の顔にも穏やかな笑みが浮かんでいたことを知っているのは、桜花クンただ1人である。
その後、寮監にアドバイスされた通り「じゃんけん」で公平に個室を決め(後に俺は左希望で桜花クンは右希望だったのでそもそも不要だった事が発覚した)、各々荷物を運び入れた。
俺の荷物の少なさに、桜花クンなりに察するところがあったのかもしれないけれど、何も言わずにいてくれたのに正直救われた気がする。
お風呂は湯船に入れて心地良かった。「月待」では水シャワーしかダメだったから、「ABYSS」に戻ったような気持ちだ。
これから3年間、毎日お湯を浴びれると思うとこの学園に来て良かったのかもしれない。
でも。
「…………差し引きマイナスなんだよなぁ……」
真正面に座ってた奴は要注意だ。出来る限り関わらないように平和に過ごそう。
桜花クンは『帝華学園』にそこそこ詳しいみたいだったから角が立たないように色々と教えてもらおうか。明日。
今日は、ちょっと無理。疲れた。
43
あなたにおすすめの小説
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
眠りに落ちると、俺にキスをする男がいる
綿毛ぽぽ
BL
就寝後、毎日のように自分にキスをする男がいる事に気付いた男。容疑者は同室の相手である三人。誰が犯人なのか。平凡な男は悩むのだった。
総受けです。
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
ひみつのモデルくん
おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。
高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎
主人公総受け、総愛され予定です。
思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。
後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる