佐野国春の受難。

千花 夜

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19.

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  流石にトイレで長話(俺はするつもりはないのだけど)はどうかということで、空き教室にご案内された。どうも、何かと空き教室にご縁がある男、佐野 国春です。
 おら座れよ、と言われたので先日と同様机の上に腰掛ける。そして、何故か物凄く楽しそうな顔をして俺を観察している風紀委員長を見上げた。


「……俺、なんかしました?」
「いんや?寧ろ新入生の癖に問題の『も』の字もないんで風紀からの評判はいいぜぇ」


 という事は、他の新入生は何らかのことを既にやらかしているのか。やべぇな。


「俺、その『Vine』とかじゃないですよ。不良じゃないですし。……風紀委員長なら、俺がだって知ってるんでしょ」
「そうだなァ」
「なら、不良とか有り得なくないですか」
「報告に上がってるお前は結構不良ムーブカマしてるけどな」


 え、嘘。どのへん?

 今までの行動に思いを巡らせてみるが、本当に心当たりがない。喧嘩もしてないし、イライラしても八つ当たりしてないし、なんなら要を改心させた。寧ろヒーロームーブでは……?
 首を90°傾けて「心当たりないですね……」と呟くと、風紀委員長は楽しそうにケラケラと笑った。

 「Noah」の総長としての彼は普通にヤベー奴だったけど、案外普通に話せるものなんだな。初めての抗争で永久に街中を追い回された時は本当に死ぬかと思ったものだ。


「なんで俺だと?」
「お前が入学式で派手に目ェ逸らしてきたからだなァ」
「あーそれ、俺人と目合わせて喋るの苦手なんですよ。多分それですね。その節は申し訳なかったです」
「……」


 勝った。
 口を噤んだ風紀委員長に勝利を確信した俺は心中でガッツポーズを決める。残念だったな俺は3年間逃げ切るって決めてんだよ。

 俺が人の視線や声に過敏であることは、要やクラスメイトのおかげで既に多くの人が知るところとなっている。
 当然風紀委員長の耳にも入っているのだろう。彼は「そう来るかぁ」と退屈そうに息を吐いた。

 そもそも、なんで「ABYSS」より最初に「Noah」が気付くんだ。せめて「ABYSS」が気付けよ。生徒会の彼等を偶に寮等で見かけることがあるが、彼らは物凄く順風満帆といった様子だった。
 俺なんて所詮、数合わせに過ぎなかったのかも。


「……『中立派』の誘いを受けたらしいな」
「はぁ」
「何故断った?『ABYSS』に逆らいたくなかったんじゃねぇのか?」
「や、普通に誘ってきた人がヤバい人だったんで」


 そう言うと、風紀委員長にも心当たりがあったのか「……それはそうだなァ」と疲れきったように呟いた。
 どうやら先輩、日頃からかなり風紀にご迷惑おかけしているらしい。でしょうね。

 だってこの前何食わぬ顔で俺にお茶点ててくれたけど制服の袖に血痕付いてたし。別に彼自身が怪我をしている様子はなかったので突っ込んだりはしなかったけれど。
 別れ際に「次は身嗜みに注意するね」と照れたように言っていたので、途中で気付いたらしい。

 ちなみに最近先輩がいなくても茶室に入れるよう、カードキーを貰った。あの和な雰囲気で鍵はカード式。……まぁセキュリティって大事ですもんね。


「流石に『中立派っていいなぁ』とは……」
「お前があの顔面に釣られないで正常な判断ができるやつで良かったわァ……ちなみに『中立派』トップは彼奴の数倍ヤバいから関わるなよ」
「マジすかありがとうございます」  


 あれ、この人もしかして普通にいい人か?

 いやいや。
 俺はかぶりを降ってその考えを訂正する。
 そもそも風紀委員長って学園の規律を守らせる組織か。模範じゃないとおかしいのか。俺もこの学園に来てはや数週間。ここの慣習に徐々に染められつつある気がする。

 紅林先輩よりヤバい人なんて存在するんだなぁ。


「えと、俺もう帰っていいんですかね」
「いいや?」
「え?」
「俺の話はまだ終わってねぇよ」


 ジリジリとゆっくり扉から俺の方に近付いてくる風紀委員長。背も高くガタイも良いので威圧感が半端ない。小さい子だったら普通に泣くレベル。
 俺も正直逃げ出したい気持ちしかないが、ここで逃げ出そうものなら殴り掛かられそうな気がするので机の縁を両手で掴んで耐える。

 そして、遂に目の前にやってきた風紀委員長は。

 手を、俺の頭上に翳した。


「ーーッッ」


 慌てて殴られないように両手で頭と顔を守る。咄嗟にこっちも拳が出そうになったが、それはすんでのところで耐えきった。あっぶねぇ不良尋問はまだまだ続いていたらしい。

 追撃に備えてしばらくの間防御耐性を取っていたものの、来なかったので恐る恐る手を下ろす。すると、先程までの楽しそうな顔から一転。気難しげな顔をした風紀委員長と視線があった。
 何となく、この人の目は苦手だ。全てを見透かして、高いところから観察しているような。


「……?」
「いや、成程な。何となくわかった。……あのクソの言いたいこともな」
「あのクソ?紅林先輩ですか?」
「それ本人の前で言ってみろよ」
「いっつも言ってますよ」
「俺今日からお前のこと勇者って呼ぶわ」


 やめてください。

 クソにクソと言って何が悪いのか。ちなみに紅林先輩は大喜びしてたぞ。追加でわらび餅貰ったもん。俺の初めてのわらび餅体験が紅林先輩だったことに桜花クンがプリプリしてた。
 ーーその後すっごい渋い顔で「……和菓子の趣味合うな」ってボソッと言ってたけど。やっぱ仲良くなれそうな気がする。

 なんて関係ないことをぼんやりと考えていると、そんな俺をただじっと見つめていた風紀委員長がポツリと呟いた。


「いやな、風紀にお前のこと勧誘しようとしてたんだが」
「あ、お断りします」
「おう。今はってわかったわ。……なァお前どの委員会にも入んなよ。風紀に空けとけ。時が来たら入れるからよぉ」
「あ、お断りします」


 すんな。と言ってケラケラ笑う風紀委員長は、存外話がわかる人らしい。ここで俺をフルボッコにして強引に脅迫してもいいはずなのに。

 まぁその場合、俺は紅林先輩にチクるけど。

 ……あの人が俺を少なくとも一般生徒よりは大切に思ってくれているっていう自覚はあるので。
 本人には絶対言わないけど。付け上がるから。


 
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