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しおりを挟む新入生歓迎会当日。
そんなにいる?と聞きたくなるほど馬鹿広い運動場。既に礼儀正しく整列した2年生と3年生が、どう見ても歓迎ムードとは言えない程ギラギラした目で俺達を見つめている。
2年生の横にクラスごとに引率され整列すると、ちょうど隣になったS組の生徒達の青ざめた表情が目に入った。2年生からの視線が痛いのだろう。
A組がS組を挟んでいて良かった。
それでも視線はチラホラ(1年生の他クラスからも)感じるが、あの狙い澄ました獣のような目の数々よりは数億倍マシというもの。
「緊張する……」
「吐き気してきた」
「ぅぉ"え"……」
「頼むから吐く時は俺から離れろよお前」
前方に並ぶクラスメイト(彼等はよく4人で一緒にいるから目に入る)の声を聞き流しつつ、向かって前の仰々しいステージに立つ体操着の先輩達を眺める。
慌ただしくマイクテストやら台本の確認やらをしていて、見るからに大変そうだ。俺には出来ない仕事だ。偉いなぁと思う。
人の役に立てる人生っていいな。俺もいつかそうなりたい。
「頑張ってね、ミツ」
「勿論。要くんもね」
「あぁ、勿論」
……。
別に、何も思わない。
『頑張ろうね!国春くん』
……別に。いいし。
「ーー皆様、お待たせいたしました。本日時間ピッタリ、新入生歓迎会を始められそうで、僕はとても嬉しいです。司会進行は生徒会副会長である僕が誠心誠意、務めさせていただきます。どうかご協力下さい」
「きゃぁぁぁああ!!!!」
「いやぁあああふくかいちょぉぉおおお!!!」
「ギャァアアアア!!!!」
「ヴァッ」
あ、今誰か死んだ。
俺は速やかに用意しておいた耳栓を付け、何食わぬ顔で副総長の顔を見つめる。
ちなみに耳栓は紅林先輩に貰った。近くの会話位はある程度入ってくるものの、ノイズキャンセリングには十分だ。スピーカーを持って話す副総長の声が「普通」に聞こえるもの。
副総長ーー改め副会長は、ニコニコと慈しみに溢れた微笑で雄叫びを上げる生徒達を見下ろしている。
でも俺は知っているぞ。彼が身内以外に対してなんの関心も抱いていないことを。今のアルカイックスマイルだって、どうせ「早く静かにしろよ雑魚共が」位のことしか考えていないに違いない。
いまだにギャーギャー喚いている生徒達は彼の微笑の裏にある無慈悲な心を知らないのだろうな。
「ふふ、少し、静かにお願いできますか?」
ーーシン。
ニコ、と少しばかり笑みを深めてコツコツとスピーカーの縁を叩いた副会長に、運動場から一切の音が消えた。大した統率力だな。流石。
「ありがとうございます。あたたかいご協力のおかげで、僕も頑張れます。……では、歓迎会の説明をーー資料はもう読んでいただいているでしょうから、注意事項を」
「2年生と3年生には、事前に腕輪が配布されたと思います。そこにはスキャナーが埋め込まれています。また、1年生にはーーはい、皆首輪を付けてくれていますね。丁度喉の所に上級生のスキャナーに反応するチップが埋め込まれていますので、1年生を捕まえることが出来た上級生は1年生の首輪をスキャンしてください」
副会長の言葉に、首を拘束する首輪を擦る。一見ただの銀色の首輪だけれど、これがどうやらなんか色々な役目を果たしているらしい。
たかが高校の新入生歓迎会にそんなに金をかけなくてもいいと思うのだがーーここで世間一般の金銭感覚で物事を語るのはナンセンスかもしれない。
首元の煩わしい感覚に眉を顰めつつ、S組越しに先輩達の腕をチラ見する。
あぁなるほど、銀色の腕輪に赤色の宝石のようなスキャナーがワンポイントで付いている。これまた無駄に豪華な。
副会長が一息つくと、ここぞとばかりに方々から「会長様に捕まりたい!」だとか「ーー先輩、ぼくを見つけてくれるかしら」だとか、虫唾が走るような言葉が聞こえ始めた。耳栓で遮られても聞こえているのだから、実際はもっと沢山の声が反響しているのだろう。はなから逃げる気がない人が一定数いる。
俺は、どうしようか。
どうせ3位は狙えないし、ならばさっさと紅林先輩辺りにでも捕まろうか。
「……」
…………そこそこ。
そこそこ、逃げ回ろう。別にそういうんじゃないけど、適当にやるのも準備してくれた「家族」に申し訳ないし。
「勿論その際暴力を振るったり、怪我をさせるような事が互いにないよう徹底して下さいね。被害者が出ないことを祈りますが、そのような行為を受けた場合、緊急アラームを鳴らしてください。検知した風紀委員が速やかに現場に向かいます」
緊急アラームとは、弥生センセーの説明の時に端末にインストールさせられたなんかよくわからんシステムである。
というか、風紀委員が来るということは、「Noah」に助けられるという事か。成程。絶対に使わない。
しれっと端末を操作して緊急アラームアプリをスライドし、メイン画面から消去しておく。端末自体から消えた訳ではないから許して欲しい。
副会長も、風紀委員を頼るのは嫌なのだろう。先程よりも少しだけ声のトーンが落ちた。
ちなみに、副会長は決して性格が悪いだとか腹黒だとか、そういうことではない。ーーと思っている。彼はただ、身内を贔屓したがるだけだ。
『だって、大切な皆と普通の知り合いを同列に扱うのって可笑しいと思いませんか?僕は、僕が貴方達をこれ以上なく大切にしていることを形で証明したいんです』
目に見える形で優劣を付けることで、相手の自尊心を擽るのが彼のやり方だ。すなわち、興味のない有象無象への扱いは自然と雑になる。
勿論、彼には「取り繕う」というスキルが備わっているが。
「よくやるよ」とでも言いたげに副会長を彼の背後から見つめる「家族」。彼等もまた、副会長にとって優遇の対象なのだ。
「ーーと、結局長くなってしまいましたね。それでは、まもなく歓迎会の午前の部、『鬼ごっこ』を開始します。では、新入生の皆さんは逃げ始めて下さい。寮と、特権で獲得した部屋の使用は禁止です。10分後に、上級生が動き始めます」
あぁ、そうこうしているうちに。
バタバタと慌ただしく動き始めた生徒達の流れに従いつつ、俺ものんびりと足を踏み出した。
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