車屋異世界転生記

ライ蔵

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一章 元オッサン異世界の宿屋でハッスルする。

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 俺の尻が馬車の振動で破壊されたり、乗り物酔いでグロッキーになったり今日は大変だったがようやく日暮れに差し掛かり始めた頃今日の宿がある街、ルーレンスに到着した。

 勿論回復魔法のおかげで俺の体調はすこぶる良い。

 [さぁ、今日の宿はここね!ここのご飯は美味しいのよ!]

 瞳を輝かせながらセリーヌさんは俺に説明する。
 眼前にちょっとレトロそうだが手入れが行き届いてる建物があり、セリーヌさんと共にドアを開く。

 [いらっしゃいませ。お食事でしょうか?それとも泊まりでしょうか?ってセリーヌかい!?]

 白髪交じりの恰幅の良いおばさんが御用聞きの最中にセリーヌさんを見て驚いたようだ。

 [クレアおばさん今晩は~♪今日は泊まりで明日の朝出発です。あっ表に馬車を置いてあるのだけど何処に置きます?]

 [今日は泊まりだね、馬車と馬は息子に移動させるからそのままでいいよ。...で今日はその子も一緒に泊まるのかい?]

 [ええ、そうです。この子がダグラスの子供のジュエルちゃんと言います。]

 俺はセリーヌさんに言われていたように目深にフードをかぶっていたのを思いだし、フードを脱ぎ頭を下げて挨拶をする。

 [はじめまして、ジュエルと申します。今日はよろしくお願いします。]
 [丁寧な挨拶をありがとうね!しかしはぁ~、この子がダグラスさん所のジュエルちゃんかー、なんと言うかダグラスさんが心配する理由がわかるわ!]

 そうでしょと言わんばかりにクレアおばさんの言葉にセリーヌさんが何度も頷いている。
 うん?俺はオヤジ様からそんなに心配されてるのか?まあ一応今生は女の子だからか。

 男だったらたぶんそんなに心配はされないんだろうな。

 [とりあえず、部屋に案内しようかね。]

 部屋に案内され、部屋を見回す。
 うん、古さを感じるが丁寧に掃除されていて落ち着く部屋だな

 手荷物を部屋の床に置いているとドアの側からクレアおばさんの声が聞こえてきた。

 [ここにお湯を置いとくよ。もうすぐで夕食の準備が出来るから用意が出来たら食堂にどうぞ。...あぁジュエルちゃんはローブのフードを被っていた方がいいだろうね...。]

 うん?何でだ??

 [私もそれの方がいいと思う。ここの宿はご飯が美味しいから泊まり客以外も食堂に居るからね。]
 [そうなのですか?]

 俺が何故かぶってた方がいいのかよくわかっていないことを察した様子のクレアおばさんが[ええ、食堂は飲んべえが多いからね。ジュエルちゃんも酔っぱらいに絡まれたく無いでしょう?]と言ってきた。

 間違いねぇ、酔っぱらいには絡まれたくないわ。

 [...はい。かぶっておきます。]

 [じゃあ、用意が出来たら食堂に来なさいよ~。]

ドアを閉じ足早にクレアおばさんが去っていく音が聞こえる。

 [さぁ、夕食の前にお湯で体を拭きましょうか!]
 [え、お風呂は無いのですか?]
 [ええ、この街はリーンベルと違って公衆浴場もないしね。と言うかお風呂がある方が珍しいのよ。魔導具は高価だからリーンベルの公衆浴場もダグラスが住みはじめてから出来たんだし。私の家もダグラスを脅し...]

 そこまで言ってからセリーヌさんはまずい事を言おうとしていたのか自分の口を手で覆う。

 おいおい、オヤジ様を脅して作ったのかよセリーヌさんの所の風呂場は。

 [と、とにかく暫くは体をお湯で拭くので我慢してね。]

 あ、誤魔化した。まあいいけどね、大人の事情ってやつだろ。
 仕方ない、無いものはねだれないからな。

 [わかりました。私は大丈夫です。]

 体をお湯を含ませた布で拭きついでに髪も洗う。

 うーん、拭くだけでも結構スッキリとするものだがやはり湯船に浸かりたいな~。そんなことを考えながら濡れた髪を拭いていると既に拭き終わっているセリーヌさんが髪を拭くのを手伝ってくれる。

 [はぁ~、やっぱりジュエルちゃんの髪は綺麗ね~。艶があって羨ましいわ~。]
 [セリーヌさんの髪も綺麗ですよ?]
 [うふふ、ありがとね。ジュエルちゃん♪]

 そんな事を言いつつ夕食を取る為の着替えをはじめる。
 うん、夕食を食べたら後は寝るだけだろうからもう寝巻きでいいか。
 寝巻きに着替えローブを羽織り準備完了だ。

 [準備完了です!]
 [じゃあ行きましょうか。]

 セリーヌさんにフードをかぶせてくれ、手を引かれながら食堂への廊下を歩き始めた。




 宿の食堂にセリーヌさんと共に到着したのだが、食堂の状況は一言で言えばさながら戦場のような状態っだった。

 酔っ払ったオッサン連中でごった返し、落ち着いて食事がとれそうに無さそうな状況だ。

 セリーヌさんを見ると[これは....無理そうね....]と呟いている。

 俺達が食堂の状況を見て唖然と立ち竦んでいるとバタバタと走り回っているクレアおばさんが俺達に気付いたらしく近付いて来た。

 [ごめんなさい、セリーヌ。今日はこの状況だから少し夕食が遅くなるけどあんた達の部屋に料理を持ってくよ。その方がジュエルちゃんの為にも良さそうだし...。]

 [ええ、その方が良さそうね。ジュエルちゃんは大丈夫?]
 [はい。私は大丈夫ですよ。]
 [悪いね~。その分料理は期待しててよ!]

 そう言いながらクレアおばさんが空いている皿を客席から回収しつつついでに注文を聞きながら足早に去っていった。

 ....忙しそうだな。宿屋は体力が無いとやっていけそうに無いわ~。

 [部屋に戻って夕食を待ちましょうか。]

 [はい、そうしましょう。]

 少しきしみ音のする廊下を歩き部屋へと戻る。
 楽な格好になろうと思いかぶっていたフードを脱いでいると[ここはお客さんが前から多かったけどこんなに凄いのは初めてだわ。]と眼を閉じ腕を組んで頭をゆっくりと振っているセリーヌさんの声が聞こえた。

 [本当に凄かったですね!]
 [うん...まあ、お客さんが落ち着いて私の夕御飯が出来るまで待ってましょうね。クレアおばさんも期待しててって言ってたしね。]
 [はい。ですね。]

 まあ、あの状況じゃあ腰を据えて食べれないからな。

 俺達の夕御飯が出来るまでセリーヌさんと話をしながら待つことにする。

 [...そう言えば、セリーヌさんのお店はお休みしているのですか?]
 [いえ、ルリシスにお店の番をやってもらってるわよ。商品の在庫もまだまだ有ったから帰るまでは大丈夫のはずね。]

 なるほどね。確かに自営業は長く店を閉めれない。辞めたのかと勘違いされるしね。
 そんな会話の後、グルンのオッサンがこの宿でやらかして追い出された話等を聞いた。

 ...なにやってんだあのオッサンは....。

 部屋のドアがノックされ返事をするとクレアおばさんが料理を運んできてくれた。

 [お待たせしましたね~。料理を机の上に並べるよ。]
 机の上に料理が並べられていくのだがひどく見覚えのある料理が大量に並んでいく。
 [約束通り今日の料理は豪華だよ!(フリッターの詰め合わせ、迷惑料も込みで。)ってタイトルはどうだい?]

 まじか!揚げ物じゃん!!唐揚げらしきものまであるぞ!!!

 唐揚げは前世での俺の好物の一つで色々な所を食べ比べた。

 まあ、食べ歩き自体が趣味みたいなものだったから唐揚げ以外にも色々食い荒らしていたが...

 揚げ物を見てテンションの上がっている俺を見てクレアおばさんがニコニコしている。

 [それじゃあ、熱いうちに戴きましょうか。冷めても美味しいのだけれど熱々の方が美味しいからね!]
 [はい!戴きましょう!!]
 [[神の恵みに感謝します。]]

 今日はこの世界に揚げ物があることをエストワールに感謝するぜ!!!あっ後、回復魔法もな!
 とりあえず芋の天ぷらっぽい物を口に入れる。

 ...うまい....。

 揚げたてで周りはサクサク、中はホクホクで.....本当にうまい。生きててよかった....

 [どうしたの?ジュエルちゃん。涙が出てるけれど口に合わなかったの?]

 どうやら俺は芋の天ぷらを食べながら涙を流していたようだ。

 そうセリーヌさんから聞かれるが俺は頭を左右に降りながら[ちっ違います。美味しすぎて涙が出ちゃうんです。]と気持ちを伝える。

 [そんなに気に入ってくれたのかい!!これは私の故郷の料理なんだけどそんなに気に入ってもらえると作ったかいがあるわね。沢山あるから一杯食べな!!]

 クレアおばさんが笑いながら部屋から出ていく。

 ...ありがとう、クレアおばさん。俺はこの世界で光を見たよ...。

 あらかた食べ終わったところでの料理の感想は旨かったそれのみだ。
 惜しいと言えば米が無いところだが贅沢は言うまい。
 米が食いたいが俺の記憶にはこの世界でまだ食べたことがない。

 もしかするとこの世界に生育してないのかもしれないし、あるにしても品種改良が進んでいないと稲作は結構条件が厳しいからこの国ではあまり一般的ではないのかもしれないな。

 しかし、腹がいっぱいになると今度は眠くなってくるな~。

 眠くて船を漕ぎ始めると[あらあら、今日は遠くまで来たから疲れているのね。眠っても大丈夫だけどその前に歯を磨きましょうね。]と言われ頷く。

 俺は言われた通りふらふらしながら歯を磨きに行き、寝る準備をする。

 [...すみません。もうげんかいです....。おやすみなさいです...。]

 俺の頭を柔らかく暖かい手で優しく撫でられる感覚があり、眠い眼を少し開くと柔らかい笑顔のセリーヌさんが見えた。

 [はい。おやすみなさい。]

 優しく抱き締められ柔らかい温もりに包まれながら意識を手放した。
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