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二章 ターニングポイント1 オッサン少女、エストワールと再会し選択する。
しおりを挟むシルビアを加えての生活が始まり少しの月日がたち、俺は14歳になった。
少し前にリーンベルの前領主のバカ親子の処分が決まったそうだ。
リーザに領主の館をガサ入れしてもらったときに出てきた書類が決定的な証拠となり領主が追及に耐えきれず全部吐いたようだ。
その上マテウスの行った悪事の揉み消しまで発覚したそうだ。
前領主の父親は汚職、恫喝など様々な罪のために貴族の爵位を剥奪された上、王都で牢屋へ無期限投獄になったらしい。
バカ息子のマテウスはどうやら王都などで強姦を繰り返していたらしく極刑すら生ぬるいと様々な厳しい奴隷契約を付けられた上で他国の奴隷商人に売られたそうだ...
あの年で本物のクズだったようだな。
同情する余地すらないな。
ちょび髭のおっさんは私財没収の上永久追放、賄賂を貰っていた審査員は資格剥奪の上、解雇との刑になった。
唯一賄賂を受け取っていなかったモリッツは罪に問われる事はなかったのだが職を辞す事を固辞したそうで、審査員を自ら辞めたそうだ。
だがその潔さを宰相から買われ、モリッツは領主の空いてしまったリーンベルの新領主へと任命され出世した。
うん、モリッツなら更にリーンベルは良い町になっていくだろうな。
俺の周囲の人間関係にも変化があった。
エメリッヒが実家に帰ってしまったのだ。
どうやら前々から実家に戻って来いと手紙が来ていたらしいのだがエメリッヒは全て握り潰していたらしい。
返事が全く無いのに業を煮やしたエメリッヒの実家が人を直接リーンベルへ送り込んで、エメリッヒを説得し帰らせた。
エメリッヒは始めは実家に帰らないと言い続けていたのだが、オヤジ様の[帰りなさい。]との一言でエメリッヒは工房に残る事を諦め実家に帰る事を決めたようだ。
エメリッヒが工房から去る際に[まだこの工房でやりたい事が残っているから必ず戻って来るよ!]と俺に言っていた。
おそらくエメリッヒは俺の知識に興味があるのだろう。
俺の作る物をよく食い入る様に見ていたからな...
だが実家の人間がエメリッヒを必要としているのならば、実家を優先すべきだ。
[何か試作品が出来たらその都度エメリッヒさんにお送りしますよ!]と俺が言うとエメリッヒは少し涙を流していた。
俺もエメリッヒの作る制御用魔導具に頼りきっていたがこれからは俺自身でどうにかするしかない。
魔方陣の勉強をしなくちゃな!
今日の仕事も終わり工具を片付けているとリーザから念話が来る。
(ようやくエストワール様が見つかったぞ!!今日の夜にこちらへ来られるらしい。)
ようやく見つかったのか、えらく時間が掛かったな。
まあそれも当然か、全然見つからないからリーザに部下の事を聞いたら案の定ヤモリだった....
寒くなったら冬眠してるじゃねえかよ....。
夜も更け俺とリーザはエストワールが来るのを待っていた。
目の前の空間が歪むような感じになりタヌキ姿のエストワールが出現した。
...またタヌキですか...。しかも二足歩行で。
[やあ、久しぶりだね。ザラディーンではジュエルと言う名前だっけ?]
[お久し振りです。そうです、ジュエルと言う名を頂きました。]
[しかしリーザ、随分と可愛い姿になっちゃったねー。]
目を細目ながらリーザが喋り出す。
[私の事よりも本題を....余り時間が取れないのでしょう?]
その一言で思い出したと言わんばかりに驚いたようなタヌキ顔になりエストワールが喋りだす。
[そうだよ、そうだよ!!時間が無いんだった!!今の僕は人間になってるから時間制限がキツいんだよね。じゃあ本題から、君はいつまでも背が低い事とかを気にしているようだったね。実は今の君の状態は成長が止まりかけている。だから余り成長してないんだよね~。]
やっぱそうか...しかし原因は何なんだ?
[....原因は何なのでしょうか?]
俺の質問にタヌキの姿のエストワールが前足を広げながら答える。
[それはね...君の思考のせいなんだよ。君の記憶と思考以外は今の君、すなわちジュエルなんだよね。時々勝手に体が動くことがあっただろう!?それは今の君が体を動かしていたからなんだよね。]
なるほどな、それなら合点がいくな。
勝手に体が動いた時はビックリはするが体に不快感なんかは感じなかったからな。
[それで、どうやら君が成長するにつれて男である君の思考と女である今の君の精神がぶつかり合って成長に歪みが出てるようなんだよね。]
うーん、手っ取り早く解決法を聞くか。
[それでどのようにやれば良いのでしょうか?]
タヌキのエストワールが短い前足を組み、少し悩んでる様子を見せた後に口を開く。
[...僕としては君らしさが無くなるかも知れないから残念なんだけれど、男である君の思考を封印すれば歪みは無くなるだろうね。]
....俺の思考の封印か...。
[思考を封印した時に私に何か不都合等は出るのですか?]
[いや、それは大丈夫だよ。女性である今生の君の思考になるだけだね。前世での記憶などは残るから。]
なら悩む必要は無いな。
俺はこの世界で今を生きている。
前世の俺の思考が今の人生を邪魔してはいけないよな。
[では、封印してください。]
俺の即決の答えを聞いたエストワールが驚いた声で俺に尋ねてくる。
[え!?いいの!?相変わらず直ぐ様決めるけど!?]
[悩んでも結果が同じなら早い方が良いですよ。私はザラディーンで生きていくと決めてこちらに来たのです。前世の私が今の私、ジュエルの人生を邪魔してはいけません!]
[....分かったよ。確かに君にとってそれが一番良いかもしれないね。...っと、そうだ!リーザから聞いてたシルビアってハイエルフの娘を呼んでくれない?]
うん?シルビアを?何でだ?
[私が呼びましょう]
リーザが念話でリビングで待機しているシルビアを呼び出す。
[どうしてシルビアを呼ぶのですか?]
気になった事をエストワールに聞く。
[うん、それについてはシルビアがここに来てから説明するよ。]
暫くすると廊下を歩く音が聞こえ、ドアがノックされる。
返事をするとシルビアが部屋へ入ってきた。
[初めまして、エトル様。私にご用があるとの事をリーザ様からお聞きしたのですが...]
[うん、初めまして。用と言うのはね、僕の友人であるジュエルのお世話をしてくれている君へのご褒美に僕が君に眠っている潜在能力を引き出してあげようと思ってるんだ。]
エストワールに言われたことを不思議そうな顔で見ているシルビアが質問し出す。
[...私の潜在能力ですか?]
[そう、君の潜在能力だよ!!本当はギフトをあげたいのだけど今の僕は人間に転生してるからそこまでの力は無いんだ。だけれど元からある君の潜在能力ならば今の僕でも引き出す事は出来るんだ。自力でも引き出せると思うけどおそらくハイエルフの君が全ての潜在能力を発揮するのは後、数百年は掛かる筈だ。]
[...それをどうして私などに....。]
エストワールは目を瞑り何か念じる様な行動をしている。
シルビアと念話で話してるのか?
すると、シルビアがエストワールの問いに答えを出す。
[解りました。エストワール様!お願いします!!!私に力を!!!]
シルビアの答えに満足そうな顔でエストワールが頷き、シルビアに手を差し出し明るい光が二人を包む。
光が消えるとシルビアが力が抜けたように倒れ込みそうになり俺はシルビアを支えベッドへと移動させた。
[大丈夫、シルビアは直ぐに目覚めるから心配は要らないよ。さあ、次は君の番だ!男である君の思考はおそらく今生の君、ジュエルが死を迎えるまで精神の深部で眠りについて表層には出てこない筈だ。...また会おう!お休み...]
エストワールはそう言い終わると俺を光に包んだ。
光に包まれると段々と眠さが襲って来て俺は意識を手放す。
ああ、エストワール。また会おうな....
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