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第13話 メアリーの慰め

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 そういう事や、自分の境遇を考えると、迂闊にも「こんなランク制度なんて無ければいいのに」と思ってしまった。メアリーが現れ、また小言を言われる。

「お疲れ様、ピレネー。ゆっくり休めたかしら?そう、確かにレッドは大変なこともありますよね…」とメアリーは共感してくれて語り掛ける。

「でも、その代わりホワイトランク以上の人達のように、少し失敗しただけでも、支払い不能な債務を負ったり、それでブラックランクへ堕とされたりなどの、過酷な責任を負わされる事はないですから…ホワイトの人達がブラックへ堕ちると、本当に悲惨なので…」と。この前もその前も同じように諭されたなあ、失敗だったと思う。だから次に言われるのも分かる。

「レッドは、無料で食料や医療、教育を無料で得られますし、ピレネー達レッドがこの地域を完全に開拓できれば、この第12廃棄商業地区の今の住民は、新しくできた街のホワイトの住民に上がる事ができるのですから、頑張りましょう?」と。

 この第12廃棄商業地区、シブヤゲットーでは、本来の主な仕事は、俺のような「登山屋」など資源回収などではなく、実のところ破壊されたこの地域の再建に関わる事で、ツルハシやシャベルなどを用いて作業している、「土木系レイバー」達が本来の主人公だ。

 実際、既にエビス地区など南部では膨大な産業廃棄物の転がる廃墟の解体と瓦礫の撤去作業がだいたい終わり、ほとんどが更地になっているそうだ。

 トレジャーマウンテンもあくまでゴミの一時置き場に過ぎないし、最終的にはシブヤゲットー全体の廃墟群は解体されノーストウキョウのような白亜の都市が建設されるだろう。

「だからホワイト以上に上がりたい気持ちは分かりますが、ホワイト以上が幸せな訳ではありませんし、レッドは拠出金も必要ない上に食料、医療、教育も無料な、文化的な生活を自然な出生で享受できる、特別な立場だと思いますよ」と優しげにメアリーは説いた。

 すると少し声をひそめるように嫌悪感を隠せないように言った。

「貴方はブラックランクの『彼ら』を見たことがないでしょう。ブラックランクの『彼ら』はドブネズミ以下の酷い生活で、何の人権もありません」と、メアリーは珍しい表情だが顔をしかめ言葉を続ける。

「ピレネーは総合保障保険の契約をしているから、ガードマンに人殺しからも泥棒からも守ってもらえますが、『彼ら』は犯罪や債務不履行など反社会的行為を行った結果ブラックに堕ちたのですから『駆除』されても文句言えない『物』です」と、「私は、ああはピレネーになって欲しくないです…」と言葉をメアリーは悲しげに切った。

 少し「駆除」という言葉がかなりキツく感じたが、情報の全てをAIであるメアリーは知っていて、その上で言ってるのだから、間違いはないはずだ。

 そんなに俺のことをメアリーは心配してくれてるのか…と、つい悪い事を思慮をせず言ってしまったと思った。ブラックのような「物」に同情をすべきではなかったと反省していると、一転して明るい声で、「それより、ピレネー、一緒に何かゲームでもして遊びませんか?あまり嫌なことを考え込むと疲れちゃいますし」と励ますようにエミリーは微笑んだ。

 確かにそうだ、ちょっと今日は頭が空回りしているらしい。俺は「それよりもメアリー…今日も、その、いいか?」と尋ねると、メアリーがそわそわして頬を染め頷き、俺はDSexのメニューを開き、没入した電脳空間でメアリーを裸で恥じらうメアリーを抱きしめた。
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