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真夜中、乙女

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 目が覚めた。喉が渇いてしょうがない。ゆっくりと立ち上がり、カーテンを少しだけ開ける。まだ、夜だ。冷蔵庫へ歩き、寝る前に準備していた麦茶をコップに注ぐ。
麦茶を片手にベッドに腰掛け、最近オシャレ部屋を目指して買った間接照明をつける。一人暮らしを初めて3年、ようやく慣れてきた部屋。麦茶で喉を潤し、スマホの電源をつけた。
2時23分。微妙に早く寝てしまったから、変な時間に起きてしまった。スマホを置いて、息を吐く。麦茶をもう1口飲み込んだ。

 昨日は、とんでもない日だった。好きな人と連絡先を交換した日。それが無ければ普通の日だったのに、一気に大事な日になってしまった。寝る前に、メッセージを送り付けて、返事が来るのが怖くて、そのまま電源を落として眠った。
返事は来ているのだろうか、ドキドキと胸が高鳴り、スマホを持とうとする手が震える。もう1回、麦茶を1口飲む。手汗を拭いた。

 いざ、とスマホに手を伸ばし、ホーム画面を見ると、アプリに赤い①の通知。思わず顔が綻び、スマホを投げ出してしまう。彼から、きてる。返事がきてる。
息を整え、手汗を拭って、もう一度スマホを手に取る。アプリを開き、メッセージ画面を開く。そして、寝る前、自分が送った文面を読み返した。

『もし良かったら、今週金曜の仕事終わりに、ご飯行きませんか?いつも行く美味しいお店があるんです。』

 我ながら、攻めた。日付まで指定して誘うなんて。この気持ち、バレちゃうだろうな。
胸がはち切れそうなくらい鳴り響いている。お隣さんから騒音クレームついちゃうかもしれない、と本気で思うほど自分の胸がうるさい。
ゆっくり、祈るような気持ちでスクロールさせる。

『いいですよ』



 一瞬、時が止まった。
いいですよ、ということは、いいということで合っているのだろうか。寝ぼけていて読み間違えているのかもしれない、深呼吸して、もう一度画面を見る。やっぱり、何回みても、表示されている文字は『いいですよ』だった。

 思わず、枕に顔を埋める。叫びたいけど、叫べない。少しだけ足をジタバタする。
ガバッと枕から顔を上げる。

「早速、洋服選ばなきゃ。」

 残りの麦茶を一気に飲み干し、クローゼットを開ける。
嗚呼、金曜日の集合時間とか、何時間遊べるのかとか色々確認しなくちゃ。忙しい、忙しい。顔を綻ばせなら洋服へと手を伸ばす。

 春の終わりの真夜中、この部屋で初めてのファッションショーが行われるのだった。
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