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終章 適応と成長

2話

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 曇天の夜空の下、色とりどりのネオンに照らされる、豪勢に盛り付けられた食の数々。

 グラス片手に手を伸ばす彼等を、今この時だけは誰も咎めない。


 東条が起きてから更に二日後、全てのメンバーが自力で生活を送れるまでに回復した。

 その間に東条と葵獅の二人が念の為にとレストラン街へ偵察に赴くも、大将首を取られ逃げたのかゴブリンの姿は無かった。

 今ここに並ぶ食事の数々は、荒らされずに保管されていた物を集めてかっぱらってきた結果だ。

 ならば死ぬ前に存分に楽しんでしまおう、と早速パーティーが開かれた。
 完全な自己責任で、死んでも悔いなしという者だけアルコール類も許可された。


 今宵は暗闇の中、強引に空けた光の時間。
 真に今を生きる者達を祝福する時間だ。



 ――「希海は気になってる人とかいないの~?」

「別にいないって。少し飲みすぎよ凜?」

 酒臭い息を吐く彼女を軽くあしらい、瀬良はグラスに入ったリキュールを傾けた。

 大人の女性二人の会話を聞きながら、紗命もクスクスと笑う。

「まったく、貴女は人のこと言う前に自重しなさいよ。最近夜遅くテントから声漏れてるわよ?」

「な!?」

 唐突の暴露に、凜の酔いが一瞬で覚める。

「イチャイチャするのは構わないけど、周りのことも考えてほしいわ?」

「べ、別にイチャイチャなんて!」

「そういえばカップルが増えているらしいわよ?
 ……種を残そうとするのは私達の本能。環境のせいもあるのでしょうけど、貴女達の夜の囀《さえず》りも関係あるんじゃない?」

「ないわよ!」

「まぁ、医療従事者として言わせてもらうけど……今は避妊しときなさいよ?」

 こっそりと発散しているつもりだった彼女は、羞恥に顔が真っ赤になる。

 公衆の面前で事をしているのと変わらない、野生の所業。

 何処かのAVタイトルにありそうな、恥辱の蛮行。

「――っそ、そんなこと言ったら紗命だって避妊しなさいよ!」

「――ッ何でうちに飛び火するん!?」

 強引に逃げ道にされた紗命が慌てて反抗する。

「巻き込まんといてや!一人で死んどぉくれやす!」

「いいえ道連れよ!どうせ毎晩木に隠れて獣の如く「わーわー!そないなことしてへんです!まだ手かて繋げてへんのに!」

「嘘よ!」

「嘘ちゃう!」

 見るに堪えない、醜い傷の擦り付け合い。

「……はぁ、淑女がはしたないわよ?」

 この争いの発端である瀬良は、一人静かに嘆息した。





 ――「何やら盛り上がってるな」

「楽しんでくれているなら何よりですよ」

 異様に騒がしいテーブルを葵獅が見る。

「ガールズトークってやつだな」

 東条は気にせず、スナック片手にコーラに喉を鳴らした。

「古今東西、女性が盛り上がるのは色恋沙汰と相場が決まっておる。東条殿の話かもしれぬぞ?」

「そりゃテンション上がりますね。源さんは気になってる人とかいます?」

「ほっほっ、八十越えてるジジイに何を言っとる。儂は天国の婆さん一筋だよ」

 どう見ても八十超えている様には見えない老爺が快活に笑う。

「漢ですね源さん。俺は今でも日本が一夫多妻制になればいいと思ってますよ」

「ほっほっほっ、夢は見るもの、大いに結構!じゃが君にその甲斐性があるようには見えんなぁ?」

「これは手厳しい、反論の余地が無い」

 笑い合う二人の会話を聞いていた葵獅が、そっと佐藤に耳打ちする。

「俺は凜一筋だ」

「いや、聞いてないですけど……」

 聞いてないのである。



 ――「じゃぁそろそろ俺寝ますわ」

「おう、おやすみ」

 一足先にパーティーを抜ける東条を三人は見送る。

 彼が帰る途中、横からトテトテと紗命が走ってきたのを見て三人とも頬を緩めた。

「あの二人出来てるよな」

「紗命嬢の一方的な恋にも見えるがな」

「最近は隠しすらしないですからね」

 若い者の恋とはいい肴になる。

 三人はニヤニヤと酒盛りを続けた。


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