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終章 適応と成長

9話

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 ――医療テントの中から、罵り合う様な騒がしい声が響いている。

「そっちはババじゃねぇ!こっちだ、こっちを引け!」

「……ふっ、読めたぜ」

 東条は並べられる二枚の内、萩が指定しなかった一枚を華麗に引き抜いた。

「チェックメイト」

「くっそォォっ」

 膝から崩れ落ちる萩に、先に上がった荒木と因幡は憐れみの目を向ける。

「お前は馬鹿正直すぎるんだ、黙った方がまだ勝機がある」

「んだとコラ?」

「やんのかコラ?」

 睨み合う二人の肩に、東条は仏の顔で手を添えた。

「争いは何も生みません、皆違って皆いい、それでいいじゃないですか?」

「よくねぇよぶっ殺すぞ」

「……一理あるな」

「ねぇよ黙ってろ最下位」

 取っ組み合いを始める彼等を放って、三位は悠々と茶を啜る。

「海は頭は良いんすけどね、短気なのが玉に瑕っす」

「刀祢は?」

「バカなのが取り柄っす」

「これ以上ない誉め言葉だな」

 因幡が散らばったトランプを集め、上下きっちり揃えて仕舞う。
 成り行きから始めたカードゲームが、思いの外盛り上がってしまった。

「……それは置いとくとして、彼女の事はいいんすか?公衆の面前で告っといて」

 ちらりと見るも、当の本人も悩ましさから頭を抱えていた。

「……言うなよ。……正直、どんな顔して会えばいいのか分かんねぇんだよ」

「その場のノリで言っちゃったけど、後になってジワジワきてる感じっすか」

「感じっすわ」

 今まで散々フランクに接してきたというのに、いざ気持ちに正直になると、途端にそれまでの経験を見失ってしまう。
 人ってのは、なんて難しい生き物なのだろうか。

「はぁ、めんどくさい人っすね。刀祢を見習ってほしいっす」

「……それはやだ」

「うじうじ言ってないでさっさと失せろっす。……きっと待ってるっすよ」

「…………、あいよ」

 頬をペチペチと叩いて気合を入れ、立ち上がった。

「そんなんじゃ気合入んねぇぞ?どれ、貸してみ、ろッ!!」

 本気で繰り出された萩の平手打ちに合わせて、カウンターの平手打ちをぶち込む。

「バふひゅっ!?」

「ありがとう、おかげで気合が入ったよ。行ってくる」

 そのまま出ていく彼を、二人はシッシ、と見送った。


「……悪い奴ではなかったな」

「……ムカつく終わり方っすけどね」

「まったくだ」

 痙攣する萩を置いて外に出た彼等は、すっかり雲の晴れた夕焼を見上げた。




 ――東条はナイスバトルと称えてくる人達にお礼を言いつつ、紗命を探して進む。

「東条君、東条君」

 途中、ニヤニヤとした凜が彼を呼び止めた。

「くくっ、紗命なら貴方の家にいるわよ」

「あ、ありがとうございます」

「聞いたわよ?ちゃんと口に出したの、あれが初めてらしいじゃない。だめよそんなんじゃ!女の子は寂しがりやなんだから」

「返す言葉もありません」

 萎んでいく東条の背中を、バシバシと快活に叩く。

「ほれ、早く行ってあげな」

「……うっす」

 ニヤニヤと手を振る彼女を後に、一息吐き林へ向かった。



 ――近づくにつれ、心臓の音が木々に木霊する。

 視界が開けマイフォームの根元に目を向けるも、彼女の姿はない。

 そこで、上から声が掛けられた。

「ここやよ~」

 誘われる様に空を仰げば、

 そこには、夕陽に照らされた天女がいた。

「……よぅ。待った?」

「かーなーりっ」

「うぉい!?」

 いきなりジャンプした紗命を全身で受け止める。

「何してんだ「言って」……ん?」

「もう一回言って」

 頬を紅潮させた紗命が、東条の瞳をじっと見つめる。

 吸い込まれるような双眸を、しかし彼は逸らさずに見つめ返した。


「紗命が好きだ」

「もう一度」

「紗命を愛してる」

「もう一度」


「俺は、お前を愛している」

「……私も」


 徐おもむろに目を瞑った彼女の唇に、そっと唇を重ねる。

 時間と境界が蕩け合う世界で、彼等は初めて、互いの想いを感じ合った。

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