上 下
78 / 218
2巻 1章~国と魔獣~

8話

しおりを挟む
 

 §


 戦闘ヘリに乗る隊員の目が、前方から迫る黒い塊を捕える。

『敵生体確認。数は……多数』

 それは一匹の生物ではない。夥しい数の群れである。

『一匹たりとも近づけさせるな!ファイア!!』

『『『ファイア!!』』』

 重機関銃の暴威が怪鳥をミンチにし、血の雨を降らせる。

 しかし、奴らは止まらない。

『散開!!』

 モンスターの視線を集めるべく、隊が分かれ陣形が組まれる。

 本作戦の要、決死の空中戦が幕を上げた。




 §




 モンスターが攻めて来るのは、何も空だけではない。

 音に釣られ、血の臭いに釣られ、奴らは地を駆け姿を現す。

「撃てぇッ!!」

 銃口が火を噴き、薬莢が地を跳ね夜を吹き飛ばした。



 ――着々と作戦が進む中、しかし予想外の早さで防衛ラインが押しこまれていた。

 煩くし過ぎたのだろう、モンスターの数が多すぎる。

 現在第二防衛ラインの水を抜いた堀まで下がった軍。
 その堀も今やモンスターが積み重なり、ほぼ機能を失っている。

『C-4を起爆する。各員第三防衛ラインまで下がれ』

『『『了解』』』

 一斉に動き出す全隊員。


 ――一分後。

 堀の壁面に張り巡らされたC-4が、大爆音を上げ血肉を空へ巻き上げた。



 ――四十分後、何度目かのヘリの落下音を耳に、ようやく待ち望んだ命令が下される。

『全隊に告ぐ。民間人の乗り込み完了。撤退を開始せよ』

 総員、予定地へと走り、次々とヘリに乗り込んでいく。

 弾幕を張りながら後退し、遂に最後のヘリが離陸した。



 ――現場で最後まで指揮を執り続けた亜門も、ヘリに乗り込み汗を拭う。

 最早これは戦争であった。
 戦死者も沢山出た。しかし、何とかやり遂げた。
 後は怪鳥を躱し、帰還できるかどうか。

「戦闘ヘリは後何機のこ――ッ!?」

 言いかけ、物凄い振動が機体を襲った。
しおりを挟む

処理中です...