Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

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3章 旅立ち

4話

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 飼育員の彼の頭の中は、只今絶賛混乱中であった。

(え、人?人……ですか?顔見えないんですけど。でも女の子は人ですし、何であんな大きなリュックしょってるんですか?重くないんですか?……いいえ、落ち着きなさい。落ち着きなさい私。多分人です。人ならお客様です。おもてなし、そう、おもてなしをしなければっ)

 我に返った彼は、顎を戻し二人に向き直る。そこで、少女が何かを訴えているのに気付いた。

「え?なんです?……あっ」

 指さす先に視線を移すと、アザラシが最後の餌を飲み込む瞬間だった。



 ――「ようこそお越し下さいましたっ」

 慌てて二人の前に顔を出す飼育員は、改めて歓迎のお辞儀をする。胸には平仮名で書かれた、かとう、のプレート。

「驚かしてすみません。館内がとても綺麗でしたので、つい散策してしまいました」

 東条に話しかけられ、一瞬ギョッ、と肩が跳ねる。

「そう言って貰えると嬉しいです。綺麗にしていた甲斐があります」

「その、ここにはお一人で?」

「はい。……皆殺されてしまいました。今は私一人です」

 そう言う彼の目は、どこか達観していて、悲しみはさほど浮かんでいない。

「こんな時にいらしてくれたんです。立ち話も何ですし、案内でもさせてもらえませんか?」

「勿論。いいよなノエル」

「ん。かとう、動画映ってもいい?」

 ビデオカメラを指さし、一応許可を取る。

「動画、ですか?」

「ここ近辺の状況を配信して、金稼ごうとしてるんです」

「それはそれは、何とも強かなお嬢さんだ。勿論構いませんよ」

「ん。ありがと」

 笑って承諾する飼育員に案内され、彼等は再び水の神秘を知るべく歩を進めた。



 ――「私はここの館長をやっていましてね、あの時は一人奥の部屋で休んでいたんです」

 東条と二人並びながら、彼はクリスマスの日の事を思い出す。

「それは突然でした。下から悲鳴が聞こえ、気付いた時には、見たことのない獣や、犬の頭をした小人みたいのが人間を襲っていたんです」

(犬の頭……コボルトか?)

 まだ見ぬモンスターに予想をつける。

「その犬頭の力量とか分かります?」

「力はそれほど強くないですね。ただ数が多いです。武器は爪や道具で、ほら、私も引っ掻かれました」

 彼が腕を捲ると、治ってはいるが四本の爪痕が残っていた。

「それでですね、私は怖くて、鍵を閉めて閉じ籠ったんです」

「見てまさっ、ニモっ」

 話を遮りはしゃぐノエルに、かとうが微笑む。

「お前なぁ、こういう話撮った方が再生回数伸びると思うぞ?」

「確かに。まさよろしく」

「……なんて勝手な」

 カメラを渡され、その気分屋な性格に東条は呆れる。

「すみません」

「はっはっ、いいですよ。魚に興味を持ってくれるのは嬉しいです」

 かとうはニモを見つめるノエルに近づき、一緒に水槽を覗き込んだ。

「ノエルさん、カクレクマノミには一つ秘密があるのですが、ご存じですか?」

「ん?知らない」

「実はですね、カクレクマノミは、生まれた時は全員オスなんです」

「「え」」

 東条とノエル声が重なる。

「段々と成長していくにつれ、最も身体の大きな個体がメスになるんですよ」

 驚愕の事実。
 そしてそこから、ある結論が導き出せる。

「……じゃあ、ニモのお父さんって」

「確かに。……え、あれってそんな深い話だったの?」

「それは考えすぎだと思いますよ」

 ダズニーに変わって、かとうが笑って否定した。


 カメラを任された東条は、慣れない手つきでかとうを映す。

「そうして一日中隠れて、音が止んだ後、私は外に出たんです。それで目に入ってきたのが、この光景です」

 館内に生える、トレントを映す。

「私は館内に人が残っていないか探しに行きました。しかし誰も見つけることはできず、代わりに、奴とばったり鉢合わせてしまった」

「コボルトですね?」

「コボルト?」

「あぁ、犬頭です」

「なるほど。あれはそう呼ぶんですか」

 かとうは納得し、話を続けていく。

「怖かった。怖かったのですが、奴は、私達の大切な魚を食い散らかしていたんです」

 穏やかだったかとうの語調が、怒りに強くなる。

「そこからは私も信じられない事が起こりました。激怒した私は、見える範囲の水を操り、搔き集め、そのコボルトを溺死させたんです。

 勝手に水ごと運んでしまった魚達を元の場所に戻した後、すぐに強烈な頭痛に襲われ倒れてしまいましたが」

(……なるほど。水魔法の使い手か)

 どうしてこの人が生き残れたのか、東条はようやくその答えを知った。

 これ程の水がある場所に、ほぼ密室の閉鎖空間。もしこの場全ての水を自在に操れる者がいるのなら、それは最早無敵に近い。

「それからは、入ってくる化物は殺し、水槽を綺麗にして、偶に食べ物を調達しに行く毎日ですよ」

 歴戦の飼育員は、笑ってそう締め括った。
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