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3章 旅立ち

9話

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「ここかー」

 女子大に辿り着いた二人は校門に立ち、その地球が喜びそうな風景を眺める。
 グラウンドは軽い森林地帯と化し、校舎からは窓を突き破り植物が飛び出している。

 やはりというべきか、今まで通ってきたどの場所よりも人の痕跡が多い。

 しかし、

「人はいっぱいいたみたいだな」

「ん。望み薄」

 それは生者の跡ではなく、死者の痕。緑の濃さと死の濃さは比例する。

 無駄な捜索は御免被りたい。東条はどうしようかと考え、

「大声出してもだいじょぶかね?」

 呼びかけてみるか?と提案する。

「ノエルもここら辺来たことないから、どんなモンスターいるか知らない」

「そりゃそうだ」

 腕を組み策をを練ろうとするが、もうどうでもよくなってきた。女子大生がいないのなら、自分にとってこの場所は用済みである。

「……行くか」

「ちょいまち、いいのあった」

 そう言うノエルがリュックを漁り、いつの間に入れたのかスピーカーを取り出した。



 ――スピーカーを校門の前にポツンと置き、二人は物陰から様子を見る。

「ブルートゥース」

「良い案だ」

 ノエルがスマホを操作すると、大音量で軽快な音楽が流れだした。同時に二人は複数ある建物に目を凝らす。

 もし生き残っている人間がいるのなら、外の見える位置にいるはず。そこでこの音楽を聞けば、顔を見せないはずがない。

 ……だが、

「……いたか?」

「モンスターなら」

「そりゃ、奴らもいきなり音がなりゃビックリするわな」

 窓に見えるのは、何だ何だと顔を出す人外ばかり。人の姿は一つもない。

「全滅だな」

「ん。ドンマイ」

「残念ではある」

 ポンポンと背中を叩くノエルに恥ずかしい同情をされたまま、東条は中腰になる。

「補助は?」

「マズいと思ったら頼む」

「ん」

 ノエルを背負い立ち上がり、一番の功労者であるスピーカーを見やる。
 その小さいボディは、既に集まったモンスターによって包囲されてしまっていた。

「行くぜ?」

「ん――っわー」

 踏み込み、加速。
 純白の髪が靡き、景色が飛んだ。

「それうちのなん、でッ」

「バギャしゅ――」

 巨大な爬虫類型を跳び蹴り殺し、包囲網を破った東条は、ブツを拾いすかさず跳躍。
 状況に気付いたモンスター達の雄叫びを背に、一直線で東へと走った。

 別に大した理由は無い。次の目的地である帝国大学が東にあるからだ。

「このまま走って行っちまうか?」

「ん。楽ちん」

 どうやら自分のスピードについてこれる奴はいないらしい。

(ある程度走ったらペース落とそ)などと気を緩めた、瞬間、

「まさ!」

「――ッ」

 頭上から途轍もない速度で振り下ろされる電柱を、全力の横っ飛びで躱す。
 魔力を纏った特大の凶器は、地面に衝突しコンクリを盛大に陥没させた。

「……ブルルルル」

 屋上からの奇襲に失敗したそいつは、苛立たし気に再び電柱を担ぐ。

 黒褐色の体毛に、二m後半はある筋骨隆々の恵まれたガタイ。何より目立つのは、天に向けて伸びる牛特有の二本の角。

 赤い瞳がギロリ、と二人を睨んだ。

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