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2章
15
しおりを挟む――「おー、あれか」
「(もむもむ)」
「ノエル、ちゃんと焼けているかい?お腹痛くなったりは」
「ん。うまし」
東条は見えてきた大学の塀に感嘆し、ノエルは綿あめの串に突き刺した焼魚に舌鼓を打ち、新は自分の焼いた奇妙な魚の安全性を心配する。
「本当かい?……もし安全なら、大幅に食糧事情が改善するな」
顎に手を当て考える新に、嶺二と胡桃が嫌な顔をする。
「食えるとして、食いたがる奴がいるとは思わねぇぞ」
「掃除機みたいな顔してました……」
あーだこーだとガヤガヤ話し合っていると、遂に目の前に塀が迫ってきた。
胡桃が手を翳すと、うにょん、と入口が開く。
その先には、新の連絡で既に集まっていた大勢が、興奮したように五人の、主に二人の到着を待ち侘びていた。
「おぉ、大層なお出迎えだな」
「二人が来てくれるって連絡を入れたからね。結構君達のファンは多いんだよ」
何だかむず痒いというか鬱陶しいというか、変な気分になる。
隣のロリっ子は当然だと言わんばかりに胸を張っているが。
三人に促され入口を通り、中に入った……瞬間、
東条の目と一人の青年の目が交差した。
向こうの彼も東条を見て、厳密には東条とノエルを見て目を見開いている。
(……へ~、ここで一番強いの新だと思ってたけど、そういう事でもないのね)
不気味な漆黒に見つめられてか、彼は眼を逸らしてしまった。
「……まさ、あいつの魔力なんか変。薄い」
「分かってる」
そんな二人に気付き、新が同じ方向に顔を向ける。
「凄いな。見ただけで分かるのか?」
「と言うと?」
「彼は朧 正宗。俺達と同じ、ここを纏めてる一人だよ。もう一人いるんだけど、多分子供達と遊んでるね」
五人で五百人を纏めているとは、何ともハードそうな職場だ。
「なるほど。で、これからどこ行くんだ?」
「そうだな、それを子供達に届けるついでに、彼女に会いに行こうか。その後は夕食だけど、食べるだろ?」
新が綿あめを指さす。
食事は自分達で用意するからいいっちゃいいのだが、食料事情を動画にすれば再生数が稼げると前に知った。
初日くらいご馳走になっておこう。
「そんじゃ頂くよ」
「分かった」
東条はちらほらと鳴るシャッター音を鬱陶しく思いながら、先を歩く三人についていった。
――ドアを開けると、大勢のちびっ子が元気良く各々の好きなことをしていた。
「ここら辺の教室には、幼稚園高学年から小学校低学年の子とその親御さんを集めてる」
「いちいち年齢ごとに分けてんのか?」
崩れた場所もそれなりに散見できるが。
「いや、分けてるのは乳児とここくらいだね。他は大体同じ場所に集まってもらってる」
なるほどいい考えだ。こんなのが毎日隣ではしゃぎ回っていたら、自分なら気が狂う。
(早くこの場から出たい)、と東条が考えていると、彼の持つ綿あめに気付いた子らがわらわらと寄ってきた。
「うわっ、顔くろ!」
「わたあめだ!」
「新にいちゃんこんばんは!」
「こんばんは~。この人が皆に綿あめくれるんだって」
「「「わー!」」」
思ったよりも元気な子供の活気に当てられ、東条は一歩下がる。
そこからはただ、迅速に、事務的に、機械的に綿あめを配る人形と化した。
――「はい。はい。はい。はい。はい。はい。――」
子供の包囲網から抜け出した馬場は、新と話しながら東条を見る。
「彼等、あの動画投稿者だよね」
「はい。ちょうど此方に向かっているところだったんです」
「そりゃ運が良かった」
「まったくです」
苦行を終わらせ、よっこらせと立ち上がった東条に、彼女は労いをかける。
「まささんって言うんだね。あたしは馬場 菫ってんだ。礼を言うよ」
「いえいえ。お安い御用です」
「そうかい」
馬場は一度東条から視線を外し、綿あめを分け合う彼等を見つめる。その目に映るのは、母の様な慈愛と、言い様のない憐憫。
「あの子達の中には、親を失った子や、トラウマを負った子が沢山いる」
「……」
確かに、元気な子に隠れて、暗い目をした子供達が何人もいる。
「あたしはそんな子をほっとけなくてね、纏め役なんてめんどくさいことやってんのさ」
二カっと笑う彼女に、東条は理解する。彼女は子供限定の纏め役なのだろう。誰も彼もを救いたいより、こちらの方が好感が持てる。
「子供は好きかい?」
投げかけられる質問に、東条は自信を持って答えた。
「嫌いですね」
「なははっ、見てりゃ分かるよ」
溌溂とした彼女の笑い声が、室内いっぱいに響いた。
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