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3章
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しおりを挟む「い~にお~い」
「おまた~」
ノエルが鼻をひくつかせ、臭いに釣られてゆらゆらと寄ってくる。
「ワニのステーキだ。塩胡椒で味付けした」
テーブルに置かれた朧の作品に、ノエルの目が輝く。
シンプルながらも、味付け、火加減共に絶妙な塩梅で調理されたワニ肉は、純白の輝きを纏い、ダイヤモンドの如き存在感を放っていた。
「おぉぉおっ。朧見直した!褒めて遣わす」
「……どーも」
満更でもない朧が、顔を逸らして頬を掻く。
そんな彼を薄く笑い、東条は大皿をサーブする。
「おいおい忘れてもらっちゃぁ困るなあ!」
「こ、これは!」
「メインディッシュ、テナガエビザリガニのフリット。夢と希望を添えて。でございます」
「なんと!」
(名前だけ大層だな……)
荒々しい見た目に、荒々しい香り。自然をそのまま形にしたような食事だがしかし、先の宝石と比べては、やはり聊か劣ってしまう。
そこで東条は、ある物を懐から取り出した。
「ご覧あれ」
瓶からつままれた塩が、東条の肘を滑り落ちていく。
只の塩、されど塩。その様は正に、荒野に降り注ぐ恵みの雨。
美しき天の祝福に、ノエルは見惚れ、朧は呆れた。
「料理とはエンターテインメントである。さぁ、召し上がれ(……決まった)」
ノエルの前に、二つの皿が揃う。
彼女はまず、ワニのステーキを口に運んだ。
「うみゃい!うみゃい!」
「当たり前だ」
次いで素揚げに齧りつく。
「うもい!うもい!」
「光栄の極み」
腕を組む朧が、ノエルに質問する。
「どっちが美味かった?」
「技術は朧、演出はまさ。味は美味い。同点!」
ノエルらしい採点に、彼は額を抑える。
「……腑に落ちねぇ」
「まぁまぁ、君もよく頑張ったさ。俺等も食べようじゃないか」
「……はい」
何故か得意げな東条に促され、朧も渋々と席に着くのであった。
――「どーよモンスターの味は?(モグモグ)」
「普通にいけます(モグモグ)」
「ん。外国間の渡航ができなくなった今、食料自給率の低い日本には朗報。こっちでも金稼げそう(ハムハム)」
「でも人間殺そうとする生物だぜ?養殖して大量生産とか無理だろ(モグモグ)」
「じゃあ朧やって(ハムハム)」
「やって」
「嫌ですよ。てかあんたらずっと金ですね」
「金がなきゃ人生楽しめないからな」
「な(ハムハム)」
「それは分かりますけど……」
「強い奴程稼げるようになってくだろうし、俺としては嬉しいね。
……そーいや朧って必殺技とか考える?(モグモグ)」
「いきなりなんですか……一応考えますけど(モグモグ)」
「意外ー(ハムハム)」
「良いでしょ別に、」
「教えて教えて!」
「嫌ですよっ」
「恥ずかしがんなよ~。何語?漢字?英語?」
「……フランス語です」
「クゥ~ッやってんな!」
「やってんな(ハムハム)」
「――っ煩いっ。ノエルのロゼだってフランス語だろ!あんたはどうなんだよ?」
「……俺だって必殺技欲しいんだよ」
「な、え?泣いてんの?」
「よしよし(ハムハム)」
涙を流す東条を、べたべたの手でよしよしするノエル。
その姿を朧が鼻で笑う。
「まぁ確かに、まさの能力って殴る蹴るだけだし、真っ黒パンチとかでいいんじゃないか?」
「んだこの野郎っ。お前だってボッチの極みみたいな能力しやがって!どうせ友達いないだろ!」
「ここから出たら女誘って旅行でも行くかな」
「キィィィィイイイッ」
「よしよし(ハムハム)」
悔しさからエビを貪り食う東条が可笑しくて、つい朧の口角も上がってしまう。
(……ボッチの極み、か。言い得て妙だな)
朧は正直なところ、自分の『透過』が何に由来しているのか見当がついていた。
彼が考えるに、この力の性質は『透かす』のではなく、『溶け合う』。
嘗ての自分の在り方が、この能力を生んだのだ。
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