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【Chapter2】魔塔主様、早くも溺愛モード
Episode16 のしかかる闇
しおりを挟む「ほら、いつもの抑制剤だ。」
会議が半ば中断といった雰囲気で終わった後、席に座ったまま動かないランスタッドの前に、セルジュが小瓶に入った液体を置いた。
「……悪いな。」
どこか青い顔で礼を述べたランスタッドは、小瓶の中身を一気に呷る。
「……よく耐えたよ。二年前のお前なら、また上層部が総入れ替えになってたな。体は大丈夫か?」
「いってーよ、アホ。」
セルジュの問いかけに即でそう告げたランスタッドは、椅子の背もたれに背中を預けて深く息を吐いた。
―――魔力を極めんとする者よ、心せよ。其が手にしようとする栄光は、諸刃の剣であることを。
魔法を学ぶ子供が最初に覚えさせられるこの格言。
魔塔主まで上り詰めて、これがただの戒めじゃなかったことを痛感している。
必ず先代を超えてやるんだと高め続けてきた魔力は、時にこうして自分の身を苛む毒となる。
一度昂った魔力は、ある程度放出させない限りは鎮まらない。
とはいえ、何も考えずに放出すれば、その度に周囲の人々を傷つけてしまう。
かといって自分の内に抑え込めば、全身を刺され切られるような激痛が襲う。
その痛みは、抑制剤を飲まないと立つこともままならない程なのだ。
「それにしても……あのランスに、ロマノア君の家族を捜さない方がいいとまで言うとは。確証となる記録もないのに、半精の瞳にどんだけ期待してんだかね。」
「仕方ないだろうな。母さんがメルヴェーヌの秘技を使って泉にかけた呪いは、同じく秘技を使いでもしない限り、俺にだって解くことが叶わないんだ。もはや手詰まりってところにロアが現れちゃ、精霊の導きだと期待もするさ。」
神秘的な光を失っている精霊の泉。
泉をそんな状態にしたのは、他でもない自分の母だ。
それは、メルヴェーヌ家に生まれた者が犯してはならない最大の禁忌。
呪いを解くことを拒んだ母は幽閉され、当時の当主だった祖父や後継者の伯父も相当な非難を受けた。
自分は魔塔主の地位があるから非難まではされないが、その代わりに重圧と紙一重の期待を毎日のようにかけられている。
だが―――元はと言えば、先代を放置してきたお前たちが悪いんだからな。
これが、自分や伯父を筆頭にしたメルヴェーヌ家の総意だ。
当時メルヴェーヌ家でも屈指の力を持っていた母は、魔力による絶対服従に逆らえず、先代魔塔主に召し抱えられた。
しかし、先代は母を愛していたわけではなく、不老不死を実現させるためにメルヴェーヌと自身の血が混じった子供が欲しかっただけだった。
メルヴェーヌの力を自身に取り入れようと画策していた先代は、生まれた我が子を母から取り上げ、その血と心臓を食らったのだ。
その事実を母が知ったのは、二人目の子供をも取り上げられた時のこと。
どんなに願っても子供に会わせてもらえないことに疑問を持った母が、伯父と共に魔塔の最上部へ忍び込み―――そこで、先代の気が狂った研究の全容を知った。
ずっと会いたかった子供の二人ともが、短すぎる生を終えていた。
母や伯父にとっては、これだけでも十分な絶望だったのに……先代の欲望は、さらなる絶望を彼女たちに運ぶ。
子供の安否を探ることに注力しすぎて、母も伯父もメルヴェーヌ家に対する意識が散漫になっていた。
その隙を狙ったかの如く、母の双子の妹がさらわれてしまったのだ。
どんなに捜しても、他の女性たちと共に貢ぎ物として国外に連れ出された彼女の行方は掴めなかった。
先代の研究記録を発見した母たちは、その時に研究の実験体を集めるために結ばれた契約書も見つけていた。
妹を奪った犯人など、火を見るより明らかだ。
だから母は―――メルヴェーヌ家だけに口伝で継がれる秘技で、精霊の泉に呪いをかけた。
目的の一つは、研究における重要な素材だった泉の水を使えなくするため。
そしてもう一つは、泉に触れた者を呪い殺すためだ。
泉の水が黒く澱んでしまったことで異変はすぐにばれ、後者の目的は達することができなかったものの、泉が使えなくなったという事件は先代の名誉に大きな傷を与えた。
先代以外にも、魔法の研究で泉の水を使っていた者は多い。
さすがの魔塔主も、あらゆる方々からの非難は避けられなかった。
本来なら殺されてもおかしくなかった母だが、あの呪いは母にしか解くことができないのだ。
そして、奇しくもそのタイミングで彼女の妊娠が明らかになったこともあり、次なる実験体が喉から手が出るほど欲しい先代は、彼女を幽閉するに留めることしかできなかった。
だが、誰が三人目の子供まで易々と奪わせるかという話。
幽閉と謹慎という処分を受けた母と伯父は、表面上こそ従うふりをしつつも裏で密会を重ね続け―――折を見て、一計に出る。
母は自ら腹を刺し、自殺未遂という大事件を起こした。
そのどさくさに紛れて、伯父が自分と紛い物の死体をすり替えたのだ。
それは、母も自分も死を隣り合わせにした危険な賭けだったが、人の執念とは恐ろしい。
母はどうにか峠を乗り越え、未熟児の状態で取り出された自分も一命を取り留めた。
それからの自分は、メルヴェーヌ家の総力をあげて守られながら育った。
存在を知られないために、何度も住処を変えて、保護者も変わって。
本当に忙しない幼少期だったが、皆が本気で自分を愛してくれていることは感じていたので、特に不満はなかった。
そんな生活の中で、頼もしい母とおっとりとした叔母の話を何度も聞いて、そんな二人に会える日を心待ちにしていた。
だからこそ……自分を取り巻く現実とそこに至る過去を知った時は、奈落に突き落とされたような気持ちだった。
希望と絶望の落差は凄まじく、実の父親に報復の刃を向ける覚悟なんか簡単に決まった。
父はこの手で葬った。
母を助け出すこともできた。
あとは……
「どこにいるのですか……ミスティア叔母様……」
彼女さえ見つかってくれれば、肩の荷が降りるのに―――……
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