溺愛魔塔主は今日もご乱心~保護した天使が可愛すぎます!~

うみくも

文字の大きさ
69 / 97
【Chapter7】愛しき子たちへ与えられるのは―――

Episode68 願いの意味

しおりを挟む

「ランス様。大丈夫、ですか…?」


 女性が消えてしばらく。


 いつまで経ってもくうを見つめたまま動かないランスタッドに、ロマノアがおそるおそる近付いた。


 そっと頬に触れてくる指先。
 その温かさに、今度こそ気が抜けて―――


「……この、馬鹿…っ」


 大きく顔を歪めたランスタッドは、無我夢中でロマノアの体を搔きいだいた。


「サプライズにしてもやりすぎだ! 俺がどんだけ心配したと思ってる!? もう二度とロアが帰ってこないんじゃないかって……そう思って、心臓が止まりそうになったんだからな!?」


「え…?」


 ランスタッドの言葉を聞いたロマノアはびっくり仰天。
 にわかに慌て出してしまう。


「ごめんなさい! そんなに時間が経っちゃってましたか!? 本当は、泉が綺麗になったからすぐに知らせに行こうと思ったんです。なんですけど、精霊様が〝王子様が迎えに来るまでお話ししてましょう〟って言うから…っ」


「……精霊と、何を話してたんだ?」


「えーっと……ドラゴン様がどれだけ渋くてかっこいいかを教えてもらってました……」


「なんじゃそりゃ…っ」


 あの精霊め。
 そんなくだらないのろけ話でロマノアを引き留めていたのか。


 なんだか自分の心配も恐怖も馬鹿らしいものだったように思えてきて、ランスタッドはがっくりと肩を落とす。


「泉、どうやって綺麗にしたんだ?」


 よどみが消え去り、澄みきった水で満たされた泉。
 そこから噴き出す精霊の息吹。
 青々しさと力強さを取り戻した植物たち。


 これを見れば、泉の浄化が達成されたことは明らかだ。


「それが……何もしてないんです。」
「は…?」


「ほ、本当です! 泉に手を入れたら、勝手に綺麗になっちゃったんです!!」
「そんな馬鹿な…。まさか、無意識で精霊の願いでも使っちまったのか?」


「精霊の願い…? なんですか、それ?」


 こてんと頭を傾けるロマノア。
 彼には精霊の願いの存在を教えていないのだから、その反応も当然か。


 でも……ならば、どうして?


 泉を再び開く方法は願いの相克のみ。
 師匠たるドラゴンは、はっきりとそう述べたはず。


 とはいえ、精霊の願いをつむぐための古語も知らなければ、願いの存在自体を知らないロマノアがそれをできるわけもないし……


『お前たちを暗闇から解放する逆さ言葉は、すでに唱えられた後。』


 ドラゴンとの会話を思い出していて、ふいにその言葉が脳裏に引っ掛かる。
 その瞬間、何かが頭の中で弾けた。


 そうか。
 一人だけいるじゃないか。


 聖なる願いをつむぎ、それをロマノアに託すことができる人が。




「〝生かしてフェイアード〟……この言葉は、そういう意味だったのですか? ―――ミスティア叔母様…っ」




 ああ、なんてことだろう。
 こんなことがあっていいのか。


 母の〝殺して〟という願いで呪われた泉。


 そこに〝生かして〟という逆の願いを宿したロマノアが触れたことで、願いの相克が成り立った。


 叔母がそんな願いをつむいだのは、自分がロマノアを助けるまで彼を生かすことが目的ではなくて、自分が彼を助けた後に彼を生かすことが目的だったと…?


 そうして願いの相克が起こった今、ロマノアにかかっていたヴェールも全部がれ落ちて……


 だから……




「―――綺麗な髪になったな。」




 今目の前に、新しい姿を見せてくれる愛しい人がいるのか……


「髪…?」


 ランスタッドの言葉を受けて、ロマノアが自分の髪をつまむ。
 すると、その両目がまんまるに見開かれた。


「あれぇっ!? 髪の色が変わってる!? ヘスティア伯母様やバラク伯父様とおんなじ色になっちゃってます!!」


「そっちが本当の髪色だったんだろ。ミスティア叔母様の髪だって、本当はその色だったんだから。写真で散々見ただろ?」


「なんで!? どうして!? じゃあ、今までの色はなんだったんですかぁ!?」


「うーん……ミスティア叔母様の愛情のせい、かな?」


 大いに慌てふためくロマノアに、ランスタッドは目頭を熱くしながら笑う。


「まったく…。最初からその姿でいてくれれば、出会った瞬間に抱き締めてたのに。」


 白藤色の髪に、赤と金の瞳。
 こんな組み合わせを見れば、顔つきが父親似だろうと叔母の子だとすぐに分かった。


 そしたらきっと、自分はロマノアを魔塔ではなくメルヴェーヌ本家に連れ帰っただろう。


 そして、決して誰の目にも触れぬよう、大事にいつくしみながら屋敷の中に閉じ込めていたに違いない。


 でも、そんなことをすれば自分たちが暗闇から解放される日なんて永遠に来ないから、叔母はそこにも予防線を張ったわけだ。


 なんて人だ。


 直接会うことは最後までなかったけれど、彼女には敵わないということだけは分かる。


「ああ…。今度こそ、本当の意味で〝おかえり〟って言える。」


 転移ゲートの前でくずおれず、ドラゴンとロマノアを信じてここまで走ってきてよかった。
 

 泉はつつがなく浄化された。
 ロマノアを抱き締めていた精霊は、彼をこの場に残していってくれた。




 もう二度と―――愛しい宝物は、この腕から零れ落ちていかない。




 本当に、ご褒美にはピッタリだ。


 今までの怒りや悲しみはなかったことにならないけれど、このぬくもりがあれば、どんな苦しみも乗り越えていける。


 何度だって、愛しい人を通して救いを感じることができるんだから。


「本当の意味でって……どうしちゃったんです? 僕が、別のどこかに帰る場所を見つけるとでも思ってたんですか? 僕が帰る場所なんて、最初から最後までランス様の隣しかないですよ?」


「ああ、そうだな。そうだよな…っ。気にすんな。俺が勝手にビビってただけだから。」


「うーん…。まさか、あのおじいさんたちがランス様にそんなことを言ってきたんですか? 本当に意地悪な人たちなんだから。誰がなんと言おうと、僕はランス様だけのものです。離れろって言われたって、離れてあげません。」


 可愛らしく唇を尖らせながら、ロマノアが力強く抱き締め返してくれる。
 今は、その温かさにすがりついて幸せを噛み締めることしかできなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

添い遂げない。でも死ぬまで共に。

江多之折(エタノール)
BL
【神子は二度、姿を現す】のスピンオフ作品。 ヴィルヘルム×ランスロット 王族として生まれた二人が運命を受け入れ、決して結ばれる事のない絆を育み、壊すまでの話。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

4/10コミック1巻発売!【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
2026/01/20追記 『魔王様、溺愛しすぎです!』のコミカライズ情報、解禁となりました! TOブックス様から出版、1巻が4/10発売予定です。 キャラクターデザインに『蒼巳生姜(@syo_u_ron)』先生! 以前表紙絵をお願いした方です(*ノωノ) 漫画家は『大和アカ(@asanyama)』先生です° ✧ (*´ `*) ✧ ° 連載については改めて発表させていただきますね_( _*´ ꒳ `*)_ 「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2026/01/20 1巻発売日(4/10)発表! ※2025/12/25 コミカライズ決定! ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

処理中です...