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Step7 旅行なの?仕事なの?新天地は波乱続き!
自分が知らぬ間に……
しおりを挟む「……ん?」
レアルの言葉を受けて、フィレオトールも笑顔のまま首を傾げる。
さて、話が見えないぞ?
でも、ゼクならともかくレアルが嘘をつくわけもないし……
微妙な沈黙が数秒。
何かを察したレアルがざっと顔を青くした。
「ま、まさかゼク様…っ」
「レアル。とりあえず、ここに商会を立ち上げるまでの経緯を教えて?」
「あ、あわわ…っ」
「レアルを責めるつもりはないから―――洗いざらい白状する。」
「は、はい!」
フィレオトールの声が低くなった瞬間、レアルが怯えたように姿勢を正した。
事の発端は、かれこれ半年以上前のこと。
最後までグレイス商会に残っていたレアルたちは、商会解散における事後処理を終え、これからのことを話し合っていたという。
そんなレアルたちの前に視察という名目で現れたゼクは、皆に〝今後もオーナーと働きたいか〟と訊ねたそうだ。
そう言われたら、当然ながら全員が首を縦に振るわけだ。
それから始まった、オーナーが追手を気にせずに商売できる新拠点探し。
検討に検討を重ねた結果、海を渡ったここブルペノンがいいだろうと全会一致で決まったという。
「魔族過激派の鎮圧は終わったし、グレイス商会ほどの成長速度や規模は求めずにのんびりできるといいんだけど、かといって手ぬるすぎるのもつまらないから、ガラッと雰囲気が違う環境もありかもしれないと……ゼク様が色々と細かく吟味されていたのですが、いかにも暇嫌いなオーナーが考えそうなことだなと思って、ぼくも他の皆も疑わなかったんです。」
「……で、誰もゼクを疑わなかった結果、商会もこの建物も僕の名義になってるわけ?」
「はい。ゼク様が副オーナーとして持っていた委任状を使って、諸々の契約を。」
「その委任状は、お前が責任を持って魔族の従業員を監督しろって意味で渡してたやつなんだけどなぁ…っ。そもそも、グレイス商会が解散となった時点で無効だろ、それ。」
一通りレアルの話を聞いたフィレオトールは、深い溜め息をつくしかなかった。
どうりでゼクがやたらと協力的だったわけだ。
わざわざ魔領に土産を持ってきたのも、こうして自分たちをブルペノンにおびき寄せることが目的だったのか。
自分も一応、レアルたちがグレイス商会の後始末を担ってくれていたことは知っている。
ノクス経由でレアルたちと連絡を取りながら事業の譲渡先を定めたり、重要書類にサインをしまくっていたんだ。
知らないはずがない。
その証拠に、彼らにはオーナー不在の状況で最後の仕事をしてくれたお礼に特別報酬を支払った。
自分としてはあれが独立の軍資金になればいいと思っていたのだけど、もしかしてレアルたちには新たな契約金だとでも思われてましたか!?
「……とりあえずは現実と向き合う覚悟を決めたいから、ここの権利書を持ってきてくれる?」
「あ、はい…っ」
こくこくと頷いたかと思うと、子犬のような俊敏さで応接室を出ていくレアル。
改めてよくよく考えてみれば、あのレアルが自身の商会のためにこちらに協力を頼んでくるわけがないな。
「……くそ。本当に僕の名義で購入してやがるぞ、あの狐魔王。」
レアルが持ってきた権利書に目を通したフィレオトールは、思わず額を押さえて天を仰いだ。
この建物の所有者欄には、フィリオル・リリシアという名前が。
自分が商会運営時に使っていた偽名だ。
「ちなみに、購入資金はどこから…?」
「ゼク様がいくつかの国にオーナー名義の口座を開設してあって、そこに分散させていた資金をブルペノンの商会口座にまとめたんです。履歴、見ます?」
次に差し出されたのは、商会口座の入出金記録とこれまでの運営帳簿。
この商会が自分名義だと分かった以上、確認しないわけにはいかなかった。
「……ん? 計算が合わなくない? 新商会の利益が出る前なのに預金額が増えてるのは何故?」
まず確認したのは、建物を購入する前の最大預金額。
レアルたちを雇用したままの状態なら記憶しているより預金が減っているはずなのに、不思議なことに預金が増えているのだ。
「そんなの、当たり前じゃないですか。」
そう即答したレアルは、フィレオトール以上に不思議そうだ。
「ゼク様が開設した口座は、独立した人たちの転移ゲート利用料や技術利用料の受付口座にもなってますから。」
「……あの話か!!」
『帝国で商売を続ける奴らは、お前に技術利用料をきっちり払うって言ってるからな。』
そういや、新生活を始めたばかりの頃、ノクスからそんなことを言われてたっけ。
本当はグレイス商会を整理すると同時に転移ゲートを設置している土地も誰かに譲渡しようと思っていたのだけど、魔法陣の調整役が自分しかいないので譲渡は保留にしていた。
その決定を下す際に〝元グレイス商会の人は税金分だけまかなってくれれば好きに使っていい〟と伝えたのだが、それがこんな展開に繋がるなんて……
税金の領収書はゼクが持ってきてくれていたから、それで満足して詳しくは確認していなかった。
「みんな、律儀すぎるでしょ……」
「すみません。反論するようで申し訳ないのですが、皆さんグレイス商会の特許規定に則っただけかと……」
「く…っ」
素朴なレアルのツッコミに、何も言い返せなかった。
不正な技術流用防止と技術開発者の待遇保証を目的に特許制度を作ったのは、他でもない自分だからだ。
「オーナー、本当に何も知らなかったんですね……」
「知ってたら、もっと早くここに来てたよ。というか、計画段階で止めてた。」
「あはは…。ということは、もちろん明後日のことも知らないですよね…?」
「明後日?」
まだ何かあるのか。
早くも気疲れマックスといた様子のフィレオトールに、レアルは非常に複雑そうだ。
「実は、現在ブルペノンの北方に瘴気の吹き溜まりが発生してまして…。普段は周辺のギルドが協力して対応にあたるそうなんですが、今回はそれをうちで一任することになったんです。うちのオーナーにかかれば魔獣討伐も一瞬だーって、ゼク様ったらすごい売り込みようで。」
―――ブチッ
その瞬間、ギリギリでこらえていた激情が完全に切れた。
「ほほう…? 人の名前を好き勝手に使った挙げ句、観光してないで働けと…?」
「なあ。あいつ、そろそろ始末しねぇ?」
「そうだね。前向きに検討するよ。」
言いたい文句は腐るほどあるが、今は現状把握と明後日の依頼達成が第一。
観光が先延ばしになったことよりも、目の前に積まれた仕事の方に気を取られて頭痛をこらえるフィレオトールであった。
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