こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step7 旅行なの?仕事なの?新天地は波乱続き!

衝撃的な文化

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「うわぁ……」


 ジオンドに紹介してもらった宿に到着したフィレオトールは、目をまんまるにして棒立ちになってしまった。


 馬車を降りた先で待っていたのは、非常に立派な二階建てのログハウスだったのだ。


「すごい奮発したね、あの人……」
「本当にな……」


 フィレオトールの隣で、ノクスは全力の渋面で頬をひきつらせている。


「手配してくれるって言うから厚意に甘えたけど、あれはこびを売るための算段だったか。何がお手軽価格で小ぢんまりとしてるだよ。明らかに高級宿じゃねぇか。」


「だねぇ……」


 ノクスのぼやきに、フィレオトールも同意するしかない。


 宿の部屋がログハウスになっているので、他の宿泊客のことを気にせずにくつろげる。


 海沿いに位置していて、雪の影響がまだ少ない。


 ジオンドから聞いた情報に嘘はなさそうだけど、唯一その規模だけはだまされてしまったらしい。


「どうするよ。これって、おれたちというよりはお前への貢ぎ物だと思うんだけど?」


 やっぱり、ノクスもそう思いましたか。


 全く同じことに思い至っていたフィレオトールは、腕を組んで難しげにうなる。


「そうねぇ…。とはいえ、商会がブルペノンにある以上、ジオンドさんたちとの縁は切れないわけじゃん? 仮にここで宿に泊まることを拒んだとしても、機会を改めて別の貢ぎ物をしてくるのが目に見えてるよ。」


「確かに…。そうやって貢ぎ物を積み上げた末に、次の祭事で主役を務めてくれって言われたりして。」


「その展開だけは断固拒否する。……はあ。貢ぎポイントを稼がれる前に、ギルドがぐうの音も出せなくなるくらいの利益を持っていかないと。」


「いや、単純に拠点を変えればよくね?」


「そんなことをしたら、せっかく伏せてくれたステータスをフルオープンにされて国家規模で捜されちゃうよ。海を渡ってまでかくれんぼとか、絶対に嫌だ。ここは、素直に言うことを聞くうちにづなを握っておくのがいいと思う。」


「やれやれ。すっかりオーナーにはまりきってるよ。」


「もういいよ。どうしようもなく楽しくなっちゃってるのは事実だし、こうなったら気が済むまで働くさ。ジオンドさんたちのことは追々考えるとして、早く入っちゃおう。」


「はいよー。」


 少し強めに背中を押すと、ノクスは受け取っていた鍵を手で軽くもてあそびながら玄関に向かう。


 それに続いてログハウスに入れば、外観の立派さを裏切らない内装が出迎えてきた。


 家具や寝具などは全て高級品。
 手入れもしっかりとされていて、ほこり一つだって落ちていない。


 しかし、感心したのはただ豪華に飾ったわけではないという点。


 ログハウスならではの素朴さと暖かみを邪魔しないよう、家具のデザインは非常にシックで控えめ。


 照明の灯りは柔らかいオレンジ色で、こちらも木のぬくもりによく溶け込んでいる。


 宿泊する人が心からリラックスできるよう、細部までよく考えられた設計だ。


 本当の宿泊価格が気になるところだが、くつろいでいるうちにそんなことなんか忘れてしまいそうである。


「おーい、フィル。ちょっとこっち来てみ?」


 割と好みの雰囲気に目を奪われていると、ふと奥からノクスに呼ばれた。


 そこに行ってみると、脱衣所の先でノクスが手招きしている。
 どうやら、風呂を見てみろということらしい。


「わあぁ! すっごーい!!」


 ひょこっと風呂の中を覗き込んだフィレオトールは、今日一番の歓声をあげた。


 広い内風呂の向こう。
 ガラスの扉を抜けた先には、石造りの露天風呂があったのだ。


「これが温泉ってやつかな?」
「そうじゃないか? それにしても、外見はともかく変なにおいがするな。」


おうの臭いってやつ? 前に読んだ本に書いてあった気がする。」
「ふーん……」


 初めて見る温泉に、フィレオトールとノクスは非常に興味深げ。
 その流れで風呂の設備を細かく見ていると、ふいにインターホンが鳴り響いた。


 そういえば、馬車から降りる時、時間も遅かったのですぐに食事にすると伝えたんだっけ。


 ここは、探索も一時中断ということで。




「……え? 温泉って、複数人で入るものなんですか?」




 丁寧に食事の紹介をしてくれた従業員に温泉文化についても教えてもらっていたところ、聞き捨てならない話が耳に流れ込んできた。


「ええ。温泉を個人的に引くなんて、相当なお金持ちしかできませんからね。一般の方々は、大衆浴場に行って大勢で温泉を楽しむんです。」


「お、大勢で!? まさか、知らない人たちも一緒に入るんですか!?」


「そうですよ。裸の付き合いってやつですね。」


「は、裸っ!?」


 顔を真っ赤にして、自分の肩を抱くフィレオトール。
 その反応を見た従業員が、にやりと口の端を吊り上げた。


「ははぁ…。お客様方、初めてマキア大陸に来たのですね? チェノール大陸の方々は、皆さん全く同じ反応をされますね。」


「だ、だって…っ。子供じゃあるまいし、誰かとお風呂に入るなんて聞いたことない。ましてや、見ず知らずの人となんて…っ。まさか、男女一緒に入ってるわけじゃないですよね!?」


「ご安心を。大抵の大衆浴場は男湯と女湯に分かれております。」


「大抵は!? そうじゃないところもあるということですか!?」


「まあ、少ないですが温浴のところもありますね。ですが、そういうところは男女が混ざっても問題ないように温泉用の服を着て入浴するものです。」


「そ、そうなんですね……」


 よかった。
 裸の付き合いなんて言うからびっくりしたけど、最低限のモラルはあったみたい。


 青くなったり赤くなったりと、せわしない百面相を見せるフィレオトール。
 それを震えながら見つめていたノクスが、とうとうこらえきれずに噴き出してしまう。


「ちょっと! なんで笑うのさ!?」


「お前が面白い反応ばかりするのが悪い…っ」


「逆に、ノクスはなんで平常心なの!?」


「そうは言ってもな…。遠征中にお前やアイザックと水浴びしてた時みたいなもんかと思えば、今さら恥ずかしいことじゃないしな。それに、ここなら見ず知らずの奴は入ってこないわけだし。」


「そうそう。だからか、チェノール大陸からのお客様には当店のような温泉つき個室が人気なんですよ。家族や友人が相手なら、まだ気楽にこちらの文化を体験できますからね。」


(ノクスが相手じゃ、ある意味一番危ないんだって!!)


 最後の一言を声に出せないのががゆい。


 ノクスが言うとおり、温かい湖に飛び込むようなものと思えば抵抗感は下がる。


 おそらく、数年前の自分だったらこの時点で納得して温泉文化を楽しむ方向に気持ちを切り替えただろう。


 だけど、今はまた状況が違う。


 二人でお風呂に入るって、研究気質のノクスならのがさないシチュエーションじゃないですか?


 なんかもう二人で一緒に入る流れになってるけど、果たしてゆっくりと浸かれるだろうか。


(僕……何されちゃうんだろう……)


 そう思ったら恥ずかしさが込み上げてきて、今にも心臓が爆発しそう。


 でも、この状況で一人で入りたいなんて言えない。


 もしノクスにそんなつもりがなかったら、早とちりした自分がそれこそ恥ずかしい。


 軽く数日は寝込む自信がある。


「せっかくの機会ですし、当店自慢の温泉をめいいっぱい堪能してくださいね!」


 こちらの本音に気付くはずもない従業員は、バッチリとグッドサインを決めてくる。


 それには、曖昧あいまいな笑顔を返すことしかできなかった。

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