こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

文字の大きさ
90 / 125
Step9 今さらの初デートは、何かがおかしいような…?

デート開始♪

しおりを挟む
 ノクスの誕生日当日。


「おーい、フィル。出かけようぜ。」


 そんな宣言から、デートは唐突に始まった。


「えっと……ノクス…? 僕、結局何も用意できてないんだけど……」
「まあまあ、気にするなって。」


 戸惑って訊ねるも、ノクスは爽やかに笑うだけだった。


 そんなこんなで訪れたのは、最近よく出入りするブルペノン。


 商会を置く海岸都市ハーシェから馬車に乗り、大きな川を一つ越えた向こうにある隣街へと向かった。


「わあぁ、ここがルレボか…っ。話に聞いてたとおり、建物の一つ一つがおしゃれだなぁ…っ」


 街の中心地で馬車を降りたフィレオトールは、目を輝かせて周囲を見回した。


 実際に生活するようになって知ったのだが、ブルペノンは芸術にかなり造詣が深い国だ。


 雪が深くなって外出もままならない時期。
 ある人は絵や物語を書き、ある人は石や薪に彫刻をし、またある人は布を織り。
 そうやって培われたセンスは、やがて街全体をも一つの芸術へと進化させていった。


 現在ブルペノンからの船が一番出入りするルルウェルでは、ブルペノンの工芸品や洋装品が非常に人気なのだという。


 そして、ここはブルペノンで芸術の中心だと言われているルレボの街。


 商会の仕事が落ち着いたら行きたいなとは思っていたのだけど、まさかこんなに早く来られるなんて。


 馬車に乗って行き先を聞かされた時から、楽しみでたまらなかったのだ。


 ノクスと話し合った結果、まず向かったのはルレボ一番の美術館。
 芸術の街に来たからには外せない場所だ。


「すごいよねぇ。美術館に飾られるような古い作品の時代から、作品に魔法が取り入れられてるなんてさ。」


 館内を半分ほど巡ったところで、フィレオトールは真剣な表情でそう呟く。


 チェノール大陸に比べると、マキア大陸は魔法文化がかなり遅れている。
 それはある面において事実なのだけど、ある面においては全くのでたらめ。


 魔石を利用して星や波の輝きを表現した絵画や陶器。
 色がせないように作られたニスやキャンバスなどなど。


 芸術方面で使われている魔法技術については、こちらが驚かされるレベルのものも少なくないのである。


 ブルペノンの魔法技術の変遷を学ぶなら、書物漁りより美術館巡りをするべし。


 ブルペノンに通うようになって三ヶ月。
 実体験をもとにした格言である。


 しかし、少しばかり惜しいと思うのが、こういった技術が織物にはあまり取り入れられていない点だ。


 絵画や彫刻に比べると、ややインパクトに欠けるからだろうか。
 防寒を意識したみつな技術はあるのに、言ってしまえばそこ止まり。


 富裕層は皮革や毛皮で財力をアピールするようで、その下に隠れてしまう薄い布地には必要以上に頓着しないようだ。


 夏場は結構暑くなるハドセンやヴァリアでは、軽装に仕込める魔法糸や気軽に持ち歩ける小型魔道具が非常にウケるのに。


(これ、上手い感じに双方の文化を組み合わせられるかもな……)


 展示された絨毯じゅうたんを見つめながら、しげしげと考え込む。
 そして、それを試すきっかけは案外早く訪れた。


「およ?」


 小さな舞台で演劇が披露されるというので、待ちがてら舞台セットを観察していた時、ふと建物の陰に隠れている数人の男性を見つけた。


「あのー、ここで何してるんですか?」


 衣装を見るに役者なのは明らかだったので、興味本位で訊ねてみる。
 すると、彼らの一人が気さくに答えてくれた。


「開演まで、ここで涼んでるんだよ。さすがに夏場になると、この格好じゃ暑いからよ。」


「そうなんですね。舞台裏では涼まないんですか?」


「あそこは風がないからな。それに、狭い舞台裏に野郎がひしめき合うとむさ苦しいだろ? あそこは女どもの城だよ。」


「それはそれは…。ちょっと失礼しますね。」


 ふとしゃがんだフィレオトールは、彼が着ている衣装のすそを手に取る。


「これは……この時期にしては生地が厚いですね。」


「これでも十分薄い方だぜ。」


「えー…。僕、チェノール大陸の生まれなんですけど、地元じゃこれの数倍は薄い生地が流通してますよ?」


「そんな高級品なんか買えるか! それに、生地を薄くするために糸を細くすると裏地が死んじまって、せっかくのルレボ織が台無しだよ。」


「裏地が死ぬとは?」


「ほら、特別だ。」


 興味津々といったフィレオトールが可愛くなってきたようだ。
 皆を代表して話に付き合っていた彼は、着ていた衣装をめくって裏地を見せた。


「わあぁ!」


 それを見たフィレオトールは、ここ一番の歓声をあげる。


「すごい! 表と裏で色味も模様も違う! しかも、すっごく繊細!」


「そうだろ? 詳しい技術は分からないが、これがルレボ織の売りなんだ。裏返して着れば装飾を変えるだけで衣装チェンジができるもんで、マキア大陸の劇団には大人気なんだぜ。」


「表地と裏地を同時に織るのか…。どんな設計図になっているのか、ものすごく見てみたい。そして、それを正確に形にできる職人技も気になる…っ」


「あはは! そこまでキラキラされると、作ったわけじゃないのに俺の鼻が高くなっちまうな!!」


「……ん、待てよ。表と裏で違う模様を作り出せるなら、魔法糸を絡めて織れば、一枚の布に二つの魔法陣を刻めるってことじゃ……」


 お、これはその手の業者といい協力関係を結べるかもしれないぞ。


 冷感作用と温感作用を組み合わせた衣装は幅広い層で需要が高そうだし、戦闘系の魔法を二種類組み合わせれば冒険者ギルドにも売り付けられる。


 それがルレボ織だからこそ実現可能となれば、異国文化に抵抗がある人々も幾分いくぶんか受け入れやすくなるかもしれない。


「ありがとうございます。皆さんのおかげで、いいアイデアが浮かびました!」


 急に真面目になったかと思いきや、また急に明るくなるフィレオトール。
 その機微についていけない彼らは、戸惑ったようにまぶたを叩いた。


「お、おう…。よく分からんが、役に立ったならよかったよ。」
「非常に有意義なお話でした。これは、ささやかながらにお礼です。」


 にっこりと笑ったフィレオトールは、彼らに向かって手をかざした。


「エアシールド展開、タイプコールド。」


 短い発動句が唱えられると、男性たちの周りに柔らかい風が渦巻く。
 風がやんだ後、彼らは大きく目を見開いた。


「なんだよ、これ!? 一気に涼しくなったぞ!?」


「チェノールの魔法ですよ。元は炎系魔獣の攻撃をやわらげるためのものですが、出力を落とせば一時的な涼み効果を見込めるんじゃないかと思って。」


「お前、そんな身なりで冒険者だったのかよ! すげぇな!!」


「それほどでも。演劇、楽しみにしていますね。」


「おうよ、期待しとけ!!」


 喜ぶ男性たちに手を振り、フィレオトールはるんるんでそこから離れる。
 そうして観客席まで戻ったところで、今まで空気に徹していたノクスが口を開いた。


「結局、お前はどこでも仕事だな。」
「ごめんね。でも、アイデアはいつひらめくものか分からないからさ!」
「まったく。……ま、そういうところがフィルらしくていいんだけどな。」


 最終的に、二人はくすりと笑い合う。
 そして、周りが混んでいることにかこつけて、こっそりと指を絡めて手を握った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ
BL
12/23後日談追加しました。 ================= 高校の養護教諭の世凪は、放課後の見回り中にプールに落ちてしまう。カナヅチの世凪は、そのまま溺れたと思ったが、気づくと全く知らない場所にある小さな池に座り込んでいた。 ここがどこなのか、何がどうなったのか分からない世凪に、「かあさま」と呼んで近づく小さな男の子。彼の怪我の手当てをしたら、世凪は不審者として捕まってしまう。 そんな世凪を助けてくれたのは、「氷の王子」と呼ばれるこの国の第二王子アドウェル。 冷淡で表情も変わらない人だと周りに言われたが、世凪に対するアドウェルは、穏やかで優しくて、理想の王子様でドキドキしてしまう世凪。でも王子は世凪に母親を重ねているようで…… 優しい年下王子様×異世界転移してきた前向き養護教諭の互いを知って認めていくあたたかな恋の話です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

処理中です...