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Step11 勇者沈没!? ドキドキの看病タイム!
早く瘴気病になる方法
しおりを挟む「なあ! 瘴気病って、どうやったら発病までの時間を縮められるんだ!?」
執務室のドアが開くなり、大音量で響く謎の質問。
「……はい?」
シャワーを浴びて一休みしていたところだったジノンは、不可解そうな表情で首を捻るしかなかった。
「そんなくだらないことを訊くために、わざわざ魔王城まで乗り込んできたわけ? 過激派の餌になりたいの?」
「あんな雑魚ども、一瞬で切り捨ててやったわ。」
「あら、お掃除ありがとう。おかげで、数日はゆっくりできそうだわ。」
「って、違う! 気にするところはそこじゃねぇ!!」
「早く瘴気病になる方法だっけ? あんなのに早くなりたいなんて、正気?」
「正真正銘の正気だよ! おれには、今すぐにでも瘴気病になる必要があるんだ!! フィルの看病をもう一回経験するためにもさーっ!!」
「あー、察し。」
ノクスの喚きで状況を把握。
フィレオトールがいる場では掘り返せない話だから、ノクスだけで乗り込んできたわけか。
「瘴気病が一日で治ったって聞いた時点で察してはいたけど……フィルったら、本当にあの方法で治療したのね。ウブっ子のくせによくやったわ。」
「それについては、ハードルを越えさせてくれてありがとな!! だけど、おれはそのせいで、一生に一度あるかないかのご馳走を逃して死にそうなんだよ!!」
「寝込んでた時の記憶が全くないって言ってたもんね。そんなになるくらいなら、フィルに直接頼めばいいじゃない。」
「んなことできるかぁ!! さすがに、あれを素面の状態で頼むのは酷だって分かるわ!!」
「今日も絶好調ねぇ…。今のあんたを見てそう思っちゃう辺り、あたしはあんたが心配よ。というか、そんなに悶えるくらいなら、フィルの記憶を盗み見なきゃよかったのに……」
「しゃあねぇだろ!? こっちは何も訊かずにいてやったのに、フィルがあんな態度をするからぁ…っ」
「あんたって、フィルのことに関しては我慢強いのかそうじゃないのか分からないわねぇ…。そんなんで、よくもまあ何年も片想いできてたわ。」
複雑な心境のジノンは、溜め息をつくしかない。
「少しでも早く瘴気病になる方法はあるけど……そのためには、完全にフィル断ちをしなきゃいけないわよ?」
「……はぁ!?」
びっくり仰天という単語を絵に描いたような反応をするノクスに、ジノンはあくまでも淡々と告げる。
「基本的におさわり禁止。同じ空間にいるのもだめ。イチャイチャなんて論外。」
「なん……なんで…っ」
「なんでって、この前の話忘れたの? あんたが瘴気病になった直接的な原因は、瘴気を吸い取ってくれるフィルから長期間離れたことよ? つまり裏を返せば、フィルにくっついてると次に瘴気病になるまでの期間は長くなるし、そもそも瘴気病にかかる可能性だって低くなるってわけなのよ。」
話が進むうちに、ノクスが顔を青くしていき、唇をわなわなと震わせ始める。
「そういうわけで……フィルとのイチャイチャを我慢して一刻も早く特大のご褒美をもらうか、フィルとイチャイチャするのを優先して運任せで気長にご褒美を待つか、どっちがいい?」
「うおおぉぉ…っ」
話の結論としてジノンがそう問いかけると、ノクスは絶望に満ちた呻き声をあげて床にうずくまってしまった。
「無理……無理だ。フィルはおれにとって、もはや酸素なんだぞ? あの可愛い癒しを完全に断つとか、死ぬより無理なんだが…?」
「あんたら、魔領に住み始めてから二年くらいにはなるっけ。その直前には前魔王を討伐するために魔領に潜入してたわけだから、それ以上の期間は瘴気を吸いまくってたわけよね。それで計算すると、フィル断ちをしても瘴気病になるまでに二~三ヶ月はかかりそうだけど、そんなに我慢してまで特大のご褒美が欲しい?」
「くそったれえぇぇっ!!」
そんな長期戦は到底できないのだろう。
心底悔しがりながら、ノクスは八つ当たりのように床を叩きまくっている。
「ああもう、外側も内側もうるさい。八つ当たりしたいなら、その辺をうろついてる魔獣でも蹴散らしてきなさいよ。もしかしたら、魔獣や魔族の力が混ざった瘴気を浴びまくれば、聖力との反発も手伝って運良く瘴気病になれるかもよー?」
呆れと共にノクスを眺めるジノンが言うと、ノクスは弾かれたように執務室を飛び出していく。
その後しばらく、勇者がゼグリュオスとジノンに本格的に手を貸し始めたらしいという噂がまことしやかに囁かれたという。
【プチ後日談】
「ねぇ、ノクス。」
「なんだ?」
「実はね、魔領からブルペノンへ引っ越そうかなって考えてるんだ。」
「……何ぃ!? なんで!?」
「だって、このまま魔領に住んでたらノクスがまた瘴気病になっちゃうかもしれないじゃん。記憶がなくなるくらいしんどくなるみたいだし、それならリスクは下げておかないと。」
「やだ。」
「え…? やだって、引っ越しが? どうして?」
「……だって、ブルペノンに引っ越したら、なんだかんだと呼び出される頻度が増えそうじゃんか。商会やギルドの奴らが押しかけてくることもありそうだし。安心して二人きりでいられる空間はなくしたくない。」
「そう言われると、そんな気がしないでもないけど…。じゃあ、ハーシェから離れた場所にこっそり引っ越すのは? 周りには引っ越したって言わなきゃいいじゃん。」
「身内に甘いお前が、部下可愛さに負けてそのうち暴露しちまうに一票。」
「う…っ」
「それに、丹精込めて育ててきた野菜はどうすんだよ。レモンやオレンジの木だって、最近ようやく本格的に根付いたみたいだって喜んでたところだったじゃん。手下にした魔獣たちだって、お前がここを離れるとなったら寂しがるんじゃないか?」
「あ…。魔獣たちのことは盲点だった。さすがに、あの子たちを魔領の外には出せないな。ペットで押し通すには無理があるし、冒険者に駆除されたら可哀想だし。でも、それなら僕が定期的に通ってあげれば……」
「だから、そもそも引っ越さなくていいっての! ゼクが前に言ってたんだろ? おれたちがここに住んでることで、過激派が魔領から出られずにいるって。それが事実なら、魔族側が落ち着くまでは下手にここを離れるわけにもいかんだろ。離れようとした瞬間、天からお怒りの声でも降ってきそうだ。」
「むう……」
「そんなにおれが心配なら、おれにくっつく時間を増やせ。現状、お前の体質が一番の予防薬なんだからさ。」
「……そうだね。とりあえず、それは意識するようにする。」
(悪いな、フィル。せめてもう一回、もう一回瘴気病になれるまで…っ)
ノクスが心配なので魔領から引っ越したいフィレオトールVS下心百パーセントの理由で魔領から引っ越したくないノクス。
不毛な勝負は、なんだかんだと半年くらい続いた。
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