こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step12 世界一愛しい日に贈る最高の誓い

あなたがいれば、いつだって―――

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 フィレオトールたちのやり取りには深く触れず、黙々と手紙の処理を進めるレアル。
 とある封筒に手をかけた時、その目が軽く見開かれた。


「オーナー、ルルウェル支部に何かの調査でも頼みました? 封印がかかった青封筒が届いてますよ。」


「ああ、あれか…。ゼクがやっとヴァリアとの同盟が締結したって言ってたから、その辺の情報を片っ端から送ってくれって頼んでおいたんだよねー。」


「お前、今度は情報ギルドでも作るつもりか。というか、そんな風にコンタクトを取ってたら、他の奴らもルルウェルの奴らみたいに〝オーナー権限を譲渡させてください〟って泣きついてくるかもしれんぞ?」


「う…っ。今回だけだよ。報告書経由とはいえゼクとヴァリアの中継ぎをした以上、結末は気になるんだからさ。」


 ノクスの突っ込みから逃げるかのごとく、フィレオトールは自身にしか解けないようになっている封筒を開く。


 中に入っていたのは数日分の新聞に数冊の雑誌、それらの情報を簡潔にまとめた報告書だった。


「うわ、ちゃんと正装してるゼクとか、違和感しかないや……」


 手始めに確認した新聞の一面には、ヴァリアの王族と笑顔で握手を交わすゼクの写真。
 そして、彼と握手をしている相手というのが……


「ベルンの奴、ここで頭角を現してきたか。」


 そうぼやいたフィレオトールの表情が、なんともいえない複雑さに染まる。
 そのぼやきを聞いて、ノクスが興味深そうに新聞を覗き込んできた。


「おお…。ゼクから聞いた時には寝言かと思ったけど、本当にベルンが同盟締結を主導したんだな。」


「こうして新聞にるあたり、そうなんでしょうね。あいつのことだから、あのまま魔塔主にでもなると思ってたんだけどな。」


「まあ、バカ皇太子が廃嫡されてから第二皇子と皇位を争わざるを得なくなったって話だし、仕方なく動いたんじゃねぇの?」


「あいつが場の空気に流されて動くもんか。これは、魔塔主として生きる道を確保しながらも、チャンスが訪れたなら皇位を掴む気満々だったんだよ。ベルンが本気を出したなら、第二皇子に勝ち目はないね。」


「随分と第三皇子と親しいのですね。オーナーがそこまで実力を認めている方も珍しいです。」


「まあ、あれは認めざるを得ないというか……」


 可愛らしく小首を傾げるレアルに対して、フィレオトールは渋い顔。


「グレイス商会のオーナーが僕だって見抜いたの、ベルンだけだもん。覚えてない? 一時期、やたらと商会に入り浸ってた魔法オタクがいたの。」


「……もしかして、いつもよれよれボロボロで、うちの商品を買うために食費すらもつぎ込んでしまう生活力皆無の残念な方のことですか!?」


「なんて容赦ない物言い…。まあ、残念なのは事実だけど。そいつがベルンだったんだよ。」


「嘘だぁ! 全くの別人ですけど!?」


 どうしても信じられないらしい。
 新聞に写るベルンを指差すレアルは、ショックのあまりか涙目になっていた。


「その気持ちはよく分かる。今思うに、あれも仮面の一つだったんでしょう。皇太子が指名されている状況で露骨に野心を見せたら、暗殺コースまっしぐらだからね。だけど、あいつほど懐に切り札を隠し持ってる奴もいないから怖い―――」


 世間話のような軽さで言いながら、雑誌のページをめくるフィレオトール。
 次の瞬間―――


「いやあぁぁ―――っ!!!!」


 その口から、とんでもない声量の悲鳴が放たれた。


「なんだ!? どうした!?」


 別の資料を読んでいたノクスが、鼓膜への想定外のダメージで飛び上がる。
 そんな彼の腰に、フィレオトールがきつく抱きついた。


「く、来る…っ。奴が来る…っ」
「はあ? 奴って、ベルンのことか? 来るってどこに?」


 完全にちんぷんかんぷん状態のノクス。
 その眼前に突き出されたのは、今しがたフィレオトールが読んでいた雑誌だ。


 おそらく、魔法分野の情報誌だろう。


 皇族としての手腕が話題になっている第三皇子について、魔法使いとしての面から切り込んでいこうといった趣旨の特集が組まれている。


「これがどうした?」
「写真…。写真を見てよぉ……」
「写真?」


 おうむ返しに呟いたノクスは、一ページの半分を占めるベルンの写真に目を落とす。


 にこやかな笑顔を浮かべるベルンの手には、古代文字と魔法陣が記された古書が見開きで持たれている。


 数ある魔法の中でも古代魔法の研究に勤しんでいたベルンらしい写真だ。


 確か、魔道具を研究する一環でベルンに話を聞きに行ったのが、この二人に縁ができるきっかけだったか。


「こいつは、古代神聖文字なんてマニアックなもんを出して……ん?」


 条件反射で古書に書かれた文字を読み解いたノクスは、そこで違和感をいだく。


「光と自然に愛されし者よ。我、魔の深淵に向かいてなんじが求むものを捧げん。どうか、その美しき姿を見せたまえ。これって……」


「ようは、〝お前に会うために魔領に行くつもりだけど、お土産は何がいい? あと、逃げるなよ?〟ってことだよーっ!! なーにが古代神殿から見つかった古書だ。それは、古書を模したお前の研究ノートだろうがーっ!!」 


「やっぱりそういう意味か。また大胆な方法でコンタクトを取ってきたな。この雑誌がお前の手に渡るって確信してやがるぞ。」


「くそ、あのベルンのことだ。僕の居場所を黙っていたこととゼクを受け入れたことを盾に、僕に何かさせようとたくらんでるに決まってる…っ」


 焦りの表情で爪を噛むフィレオトールは、ふと椅子から立ち上がると―――


「よし、逃げよう。」


 拳を握り締め、そう宣言。
 ノクスもレアルも目を丸くするしかなかった。


「逃げるって、具体的にはどうする気で…?」


「とりあえず、幻惑の花園からは撤退! ブルペノンが特定されるのも時間の問題だから、本部をハーシェから移しつつ別の偽名を考えて、オーナーの名前を書き換えておかないと。」


「おいおい、そんな急に商会ごと引っ越せるかよ。大体、どこに逃げるつもりだ?」


「どこだっていいよ。」


 なんとも場当たり的で考えなしの言葉。
 しかし、そんな言葉を発するフィレオトールは満面の笑顔だ。


「だって、ノクスが傍にいてくれれば、どこでだって幸せに生きていけるもん。楽園は、探すんじゃなくて作ればいいじゃない♪」


 背負った使命を果たした後、地位や義務を投げ捨てて始めたスローライフ。


 親友や相棒だと思っていたノクスと恋仲になったり、遠く離れた地で商会の運営を再開したり。


 こんなにせわしない毎日になるなんて想定外だったけど、その日々は昔からは想像もつかないほどに輝いている。


 それもこれも―――


「おう! そうだな。」


 どこまでも自分を第一に考えてくれて、どんな時にも全力で愛情を表現してくれる大好きな人がいるからだ。


 笑っては怒って、時には壁にぶち当たって泣いたりもして。
 山あり谷ありの日々を、今は正解も分からないまま歩いていこう。




 愛する人と共に〝あの時は大変だったけど楽しかった〟と言える時を夢見て―――




 ◇ ◆ ◇


 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


 スローライフということで終わり場所に悩むところではありますが、一旦本編は締めくくりということで。


 この後は、外伝としてフィルとノクスのドタバタ劇を見守っていただければと思います。


 それでは、また会う日まで!

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